魔皇、二つ名を決める
「・・・で?剣聖になると?」
呆れた顔で鮮水のアナがタナトスと話している。
「やばない?剣聖って・・・響くわぁ」
方やタナトスはアナの呆れ顔を全く気にしておらず、自分の世界に入っている。
言わばゾーンだ。
「けんせいってなに?タナタナ?」
獣王ティティアがきょとんとしている。タナタナとは、普段客や敵がいない時だけ呼ぶタナトスの愛称だ。
彼女しか呼ぶものはいないが。
「剣聖っていうのはな、世界最強の剣士の異名や!異名っていうのは、周りから呼ばれるもう一つの名前なんやで。カッコ良いやろ?ほんま、痺れるわ」
ティティアに説明しながらも、やはりゾーンに入ったままだ。
「剣聖になるのは置いといて、何故急に剣聖になろうとお決めになったのですか?」
葬炎のアイラは、タナトスが決めることには基本逆らわない。どんなしょうもないことでも全力で応援するので、他の魔十狼にも呆れられながら見守られている。まぁ、他の王達も諦めているので何も言わない。
「え?だってカッコ良いやん」
彼の信条の一つが発動した。
<したいことは、すぐにする>
様々な信条があるが、全て魔十狼に負担がかかるのは、言わずもがなだ。
だが、ここで新たな問題が発生する。
「私は、剣聖という名は、我らが魔皇様には相応しくないと存じます」
「な、なんやて!?」
突然ディスられたタナトスが喚く。
魔十狼が一人、天剣のロイが口を開いた。
彼は世界に存在する全ての武器を使いこなせると言われている、ある意味本物の剣聖と呼べる男だ。
その彼は、タナトスに絶対服従であり、その忠誠心は、魔十狼の中でもトップクラスだ。
「な、何でそんなこと言うの!?ロイ酷いわ!!僕誰にも負けへんのに!!」
タナトスの言うことは真実だ。彼はロイと同じく、どんな武器でも使える。たとえ魔剣であろうが聖剣であろうが、その莫大な魔力で押しつぶし服従させるのだから。
事実、彼は昔ロイと剣技で一騎打ちした際、ロイを打ち破っている。
「だからこそでございます。人間界で謳われている名など、たかが知れております。魔皇様は魔界を統べる御方、剣聖などではなく、より相応しい二つ名を用意するのがよろしいかと」
ロイは決してタナトスのことを馬鹿にしたのではなかった。剣聖という名は、あくまでも人間界の中で呼ばれる名だ。勿論、その名は魔界や精霊界にも届く。しかし、タナトスはこの世界のどの者よりも強い。剣聖以上の名をつける必要があると言いたいのだ。
「なんやて・・・ロイ、あんた天才やん・・・そんなええこと、これっぽっちも思い付かへんかったわ」
ロイの言葉に、タナトスは文字通り痺れている。
片やロイはほんの少しだが、ドヤ顔を浮かべている。
ロイとタナトスは、とても仲が良い。剣で死合いを笑顔でし合える二人だが、実はその度に魔界が崩壊しかける。その後始末を魔十狼のメンバーが行なっている。
正直、かなり迷惑がられていることに、二人は全く気付いていないが。
「確かにその通りだ。ロイ、そなたは天才だな!!」
アイラもうんうん頷いている。
こいつ本当に馬鹿だな。これが他のメンバーの思い。
「ほな、なんかええ名前ないかな!?皆どんどん出して!!」
急遽、タナトスの二つ名の命名会が始まった。
仕方なく、魔十狼のメンバーがそのアイデアを思い思いに口に出していく。
「剣皇というのは?」
「いや、ありきたりであろう。・・・剣閃はどうだ?」
「ありだな。だが、二文字というのも寂しいな。天上天下唯我独尊の剣はどうだ?」
「アホっぽい。却下」
「な!?アホっぽ・・・」
「ティティア?何か意見はあるか?」
「うーん、タナタナ、昔ティティのこと綺麗って言ってくれたからね、ティティがつけたい!!」
「勿論や!!かもんかもん!!」
「うーん・・・じゃあね、ティティの名前つけたい!!」
「ティティの名前?それは難しいな。もしかして、ティティアの真名か?銀狼・・・・・・はっ!?タナトス様!名案がございます!!」
「構わぬ!申してみよ!!」
「銀狼はいかがでしょうか!」
「・・・ぎ、銀狼!?カッコよすぎる!!」
タナトスの目が光り輝いている。
「銀狼はティティアの本来の姿ですからね。しかし、剣という言葉を付けたいのでしたら、剣狼はどうでしょうか?」
ホールが膨大な魔力に包まれる。タナトスが喜びのあまり無意識に放出してしまっているのだ。しかし、その魔力は重たくなく、優しい魔力のようだ。
「ナイスや!!皆大義や!!ナイス命名や!!僕の二つ名は“剣狼”に決定や!!」
タナトスの二つ名が決まったその瞬間、魔十狼の三人を除き、皆がこう思った。
やっと終わったわ。
魔皇、剣狼になる。
次の次の章から、やっと旅に出ます!!




