53、結末
一人暮らしになってしまった江夏なつみ。
夜食を買いに出たスーパーからの帰り道で、明らかに他の人間とは異質な空気を纏った者を見つけた。
エーテル界に行って、多くの半霊体を見てきた江夏は、経験からそれが半霊体の女であることを悟った。
街灯の下、だんだんと近づいてみると、それが驚くほど自分に似ていることに気付いた。何もかもが似ている。まるでドッペルゲンガーにでも出会ってしまったかのように思えた。
顔や体型がそっくりで、服装は大正時代を思わせるようなハイカラな感じに古そうなものだった。
その半霊体の若い女は、こう言った。
「一緒に来てよ。見せたいものがあるの」
江夏なつみは戸惑いながらも、スーパーから提げてきた袋をその場に置き去りにして、頷き、女についていくことにした。
並んで歩く姿は、双子のようであった。
だいぶ長い距離を歩き、たどり着いたのは、タワーマンション。
ロリコン男が住んでいたり、いじめっ娘が自殺未遂をしたりといった、マンションである。
修理されたばかりの自動扉をすり抜けて、大正服装の女はエレベーターの扉を開けた。
乗る。照明が切れかけで明滅している。最上階へと昇った。
ある一室から、女が二人、飛び出してきた。一人は生きた女であり、もう一つの影は半霊体の女だった。
大正服娘は、開け放たれた扉から、中に入る。
人が、血を流して死んでいた。
めった刺しだった。
紅蓮の血で染まった肉体。
江夏なつみは多くを助けたと思っていた。でも、一人の女の子に連れられて、ある殺人現場へと来てしまった。犯人二人は、エーテル界に収容されていた人間と、殺された男のせいで根絶計画をさせられるはめになっていた女。早い話が復讐だった。
もしも、江夏がエーテル界に行かなかったら、エーテル界が崩壊することは無かった。崩壊しなければ、収容されていた人間や、地獄の半霊体が現世に解き放たれることはなく、根絶計画という名の暇つぶしがずっとずっと永遠に続けられていただろう。ということは、これは江夏によって引き起こされたことに他ならなかった。
江夏に似た半霊体はニヤリと笑う。
「ね? これが、あなたのやったことの結末なのよね」
「あれ、そんな、こんなはずじゃ……」
「本来なら、現世に戻るときに記憶が消されるはずなのにね、悲しいわね」
女は、空中から江夏なつみを見下ろして、またニヤリと笑った。
江夏は顔を上げて、女に「何故こんな光景を見せるのか」と文句を言おうとした。
その刹那、タロットカードのようなものが目の前で大正娘に突き刺さり、いともあっさりと、女は消滅した。笑いながら、その場で煙になるように消滅した。まるで、エーテル界において黄金サンダルを用いて蹴飛ばした時のように。
江夏がきょろきょろと左右を見回すと、廊下と夜景しかなかった。
背後を振り返ると、見知った顔があった。
梢ありっさが、緑色のゆったりした服を着てそこに立っていた。
「逃がしたか……。エーテル界がこわれたことで、ああいうフザけた半霊体とかが現れるようになった。あいつらを消して回らなくちゃ、こっちの人間が迷惑するから、だから……って、ちょっと聞いてるか?」
「ああああああああああああ! もう! 何なのよもう! 馬鹿ぁあああああああああ!」
江夏なつみの、渾身の叫びだった。
秋川に対して、世界に対して、全てに対して、何一つ上手くいかないことに対して。それでも生きていかねばならないし、生きていたいと思ってしまうことに対して。
中途半端な存在が解き放たれ、それを始末する仕事が生まれた。
江夏は、これから、そういった存在を消し去る役目を負う運命にあるのだった。
「いいよ、やってやるわよ。ああいうふざけた半霊体を消してやればいいんでしょ! それが、あたしの生きる道なんでしょ!」
涙を拭いながら、そう言った。
「よろしく頼むよ。江夏なつみ」
息荒く、江夏なつみは頷いた。
「さ、こっちへ」
梢ありっさはそう言ってなつみの手を取り、マンション最上階にある自分の部屋に彼女を連れて駆け込んだ。
闇の中、黒く染まる遺体から、ひときわ大きな魂が抜けて、真っ赤な門を抜け、巨大な男が待つだだっ広い空間へと吸い込まれて行った。




