25、いじめっ子の窮地
少し、視点を別のところに移してみよう。
そのころ、かつて江夏なつみがアンジェラと名乗って働いていた店では、たいへんな変化が起きていた。
何と、ナンバーワン女が引きずり下ろされており、いじめていたはずがいつの間にか、いじめを受ける身になってしまっていたのだ。
アンジェラという名のいじめターゲットが居なくなった時、店の人々は口々に言った。
「なにも、やめさせるまで追い詰めることないのに」「今回はさすがにちょっと」「アンジェラちゃん、いい子だったのに」「ナンバーワンだからって、やっていいことと悪いことが」「いじめられる辛さを、味わってみればいいんだわ」
つまり、矛先が今まで首謀者だったナンバーワン女に向いたのである。
集団と言う名の化け物じみた力をコントロールするのは、並大抵のことではない。
かくして、江夏なつみに行われていたいじめと同じものが、ナンバーワン女に向けて仕掛けられることになった。
それでも、江夏なつみさえ手に入れれば、このくらいのことは耐えられると考えていたのだが、江夏の住んでいた家に、その後の経過を見に行ってみると、なんと仲直りしていた。彼女の予定では、江夏なつみは男とケンカして別れた挙句、最大限に落ち込んでいると思っていたのに。
女は、もう仕事をやめようと思った。
耐えられなかった。
江夏なつみがどれだけのものにどれだけの期間耐えてきたのかを理解し、永遠に勝てないし永遠に江夏なつみを手に入れられないんだと思った。
しかし、彼女はナンバーワン女である。店側が、やめさせてはくれなかった。
強引に、無断欠勤という形で、やめようとした。
阻止された。家の中にずかずかと土足で入り込まれ、二の腕を掴まれて連れ出されて、店に出させられた。
荒れる肌、抜ける髪、生理不順、ほんの少しだけ体重も増えた。
いじめがエスカレートした。
というわけで、この夏の日も、「デブ」だの「ブス」だの言われながら、水をぶっかけられてケラケラ笑われたりした。
「いいなぁ、水浴びなんかしちゃって」
そんな言葉を投げつけて、ケラケラ笑う女たち。
さすがに怒ってつかみかかったけれど、大勢相手に勝てるわけもなくて、店の裏にあるゴミ箱にぶち込まれた。
――そういや、いじめを根絶するとか何とか言っていた、まいぬーとかいう女の霊はどうしたのだろう。こういう時に助けに来なくて、何が根絶なのだろう。かつて自分がいじめていたから、助けに来てくれないのだろうか。もしかしたら、この事態も根絶計画の一環として、自分に戒めを与えてるのかもしれない。まさか、こんなことになるとは、思わなかった。
そんなことを思いながらゴミ箱のポリバケツから這い出た。
ゴミの悪臭が不快。何もかもが不快。店も、世界も、自分も。
「……死にたい」
呟いた時、手を差し伸べている女が居た。
嬉しかった。たまらなく、嬉しかった。
それはもう、恋に落ちそうになるくらいに。
その手を掴んだ。
画鋲が刺さった。
痛い、けれど、思ったよりも痛くない。
痛いというよりも、何が起きたのかわからなさ過ぎる。
手を差し伸べた女は大笑いしながら店に戻っていく。
女は、手の画鋲を引っこ抜き、地面に仰臥し、だいぶ久しぶりに泣いた。




