閑話 カレンの冒険3
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◇◇◇◇◇
「……私。もしかして、とんでもない魔物を仲間にしちゃった?」
私は改めて、目の前の狼を見る。
危険度SS。
正直、どれくらい危険なのか分からないけど、普通じゃないことだけは分かる。
「……ねえ。」
「ウォン?」
「あなた、本当にフェンリルなの?」
すると、頭の中に声が響いた。
『あー、あー、聞こえてるっすか?』
「…………え?」
私は周囲を見回した。
誰もいない。
いるのは私と、目の前の白い狼だけ。
「……今、誰か喋った?」
『自分っすよ。』
「…………。」
私はゆっくりフェンリルを見る。
フェンリルも、こちらを見つめている。
「……もしかして、あなた?」
『そうっす!』
「しゃ、しゃべったぁぁぁ!?」
思わず叫んでしまった。どっかのハッピーセットじゃないんだから…。いや、待って。
狼が喋るなんて、普通に考えたらおかしいでしょ!
……いや、そもそも異世界だった。
でも、魔物が人間の言葉を話すなんて聞いてない!
「えっと……今のは《魔物意思疎通》の効果?」
『そうっす! テイムした魔物とは、ある程度会話できるようになるっすよ!』
「へぇ……。」
私は感心した。なるほど。
自分のスキルで仲間と会話できるようになるのか。
……いや、待って。
「あなた、フェンリルなんだよね?」
『そうっす!』
「危険度SSって書いてあったんだけど……。」
『たぶん、そうっすね!』
「たぶんって何!?」
『細かいことは気にしないっす!』
「いや、気にするよ!?」
私は頭を抱えた。なんだろう。
危険度SSの伝説的な魔物をテイムしたはずなのに、全然威厳がない。
むしろ、ちょっと親しみやすい。
「……まあ、いいか。」
『さっきは襲っちゃって申し訳ないっす』
「仲間になったなら良いですよ。」
私はフェンリルの頭を撫でた。
「そうだ。あなたのこと、なんて呼べばいい?」
『好きな名前でいいっすよ!』
「好きな名前……。」
私は少し考える。
フェンリル。フェンリル……フェンちゃん。
……うん。
「じゃあ、フェンちゃんでいい?」
『フェンちゃんっすか!』
「嫌?」
『全然いいっす! 気に入ったっす!』
「そっか。じゃあ、今日からあなたはフェンちゃんね。」
『よろしくっす!』
「うん、よろしくね!」
私は笑顔でフェンちゃんの頭を撫でた。
異世界に来てから、初めての仲間。
しかも、危険度SSのフェンリル。
……本当に、何が起こるか分からない。
「あっ……。」
私はふと思い出した。
「フェンちゃん。」
『なんすか?』
「実はさ……。」
私は自分のお腹に手を当てた。
「そういえば喉が渇いたし、お腹も空いたし、もう死にそうなんだけど……。」
『それは大変っす!』
フェンちゃんは慌てた様子で立ち上がった。
『水なら近くにあるっすよ!』
「えっ、本当!?」
『本当っす! 背中に乗るっす! 連れていくっすよ!』
「……え?」
私はフェンちゃんの背中を見る。大きい。
私の腰くらいまである体格だけど、背中に乗るくらいならできそうだ。
「乗っていいの?」
『もちろんっす!』
「じゃあ……お言葉に甘えて。」
私はフェンちゃんの背中によじ登った。
「よいしょ……っと。」
『落ちないように、しっかりつかまるっすよ!』
「分かった!」
私はフェンちゃんの背中の毛を軽くつかんだ。
すると――。
「うわっ!? 速っ!!」
フェンちゃんが走り出した。
景色が一瞬で後ろへ流れていく。
「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!!」
『もう少しで着くっすよー!』
「速すぎますってぇぇぇぇぇ!!」
私は必死にしがみついた。
……危険度SSって、こういうこと?
いや、絶対に違うと思う。
◇◇◇◇◇
「着いたっすよ!」
「……はぁ……はぁ……。」
私はフェンちゃんの背中から降りた。
そして、目の前に広がる光景を見て――。
「…………。」
固まった。
そこには、青く澄んだ水をたたえるオアシスがあった。
周囲には緑の植物が生え、見たこともない果実が実っている。
さっきまで岩だらけの景色しか見ていなかったのに。
まさか、こんな場所があるなんて。
「……すごい。」
思わず声が漏れた。
『ここは自分のお気に入りの場所っす!』
「フェンちゃんのお気に入りなんだ。」
『そうっす! 水も飲めるし、食べ物もあるっすよ!』
「……天国?」
『たぶん違うっす!』
「そこは否定するんだ……。」
私は苦笑した。
とりあえず、まずは水だ。
私はオアシスのそばにしゃがみ込み、両手で水をすくった。
そして、ゆっくりと口に運ぶ。
ごくっ
「おいしいぃぃぃ……!」
思わず声が出た。
冷たくて、澄んでいて、喉に染み渡る。
何日も歩き続けて、もう限界だった私にとって、これ以上のご褒美はない。
「生き返る……本当に生き返る……。」
私は何度も水を飲んだ。
『飲みすぎないようにするっすよ!太るっす。』
「水飲んだだけで太らないから……。」
『けど飲み過ぎは良くないっすよ!』
「うっ……。」
正論すぎて何も言えない。
私は少し休んでから、周囲を見渡した。
そこで――。
「……ん?」
オアシスの端。地面の下に、何かが少しはみ出ていた。
「……何あれ?」
フェンちゃんに掘ってもらう。
それは、私の頭よりも小さい球体だった。
両手に収まりそうな大きさで、金属のような材質でできている。
表面には細かい模様が刻まれ、ところどころに青い光が点滅していた。
「…………。」
私は球体を見つめる。
「……機械?」
『それ、何っすか?』
「いや、私が聞きたいんだけど……。」
フェンちゃんも知らないらしい。
ますます謎だ。
私は球体の周囲をぐるぐる回ってみた。
上から見ても、下から見ても、何なのか分からない。
ボタンらしきものもない。説明書もない。そりゃそうですよね。
当然、使い方も分からない。
「……うーん。」
私は腕を組んだ。
「叩けば分かるかな?」
『分からないと思うっす!』
「えいっ!」
私は球体を軽く叩いた。
――コンッ。その瞬間。
【幸運の加護が発動しました】
「…………え?」
頭の中に声が響いた。
すると、球体の表面に刻まれた模様が一斉に光り始めた。
「えっ、ちょっ、何!?」
ウィィィィン……。
低い駆動音が響く。
球体がふわりと浮かび上がり、私の目の前で回転を始めた。
「待って待って待って! 私、壊すつもりじゃなかったんだけど!?」
『何をしたんすか!?』
「知らないよぉぉぉ!!」
球体から青白い光が放たれる。
その光が私の身体を包み込んだ。そして――。
『起動を開始します。』
「……え?」
『生体反応を確認。』
『適性確認。』
『幸運因子を検出。』
『……マスターと似た別の魂を感知しました。』
「…………え?」
一瞬、機械の動きが止まった。
『魂の照合を開始……。』
『照合完了。』
『マスター登録を開始します。』
「ちょ、ちょっと待って!別の魂ってどうゆうことですか!?」
『登録完了。』
――ピコン!
【マスター登録が完了しました】
【所有者:神代叶恋】
【個体名:未設定】
【機能:一部解放】
『二代目マスター。よろしくお願いします。』
「…………。」
私は球体を見つめた。
「…………え?」
『二代目マスター。よろしくお願いします。』
「いや、リピートしなくていいよ?」
私は慌てて球体を両手で受け止めた。
「二代目って何!? 一代目がいたってこと!?」
『肯定します。』
「じゃあ、さっきの別の魂って何なの!?」
『該当情報へのアクセス権限がありません。』
「そんなぁ……。」
私は頭を抱えた。
せっかく機械の正体が分かると思ったのに、余計に謎が増えた。
「……その一代目って、誰なの?」
『該当情報へのアクセス権限がありません。』
「じゃあ、あなたは何なの?」
『前マスターの頼れる相棒です。』
「…………。」
私は無言で球体を見つめた。
分からない。
何も分からない。
そもそも、なんで私がマスターに登録されたの?
なんで二代目なの?別の魂って何?疑問が次々と湧いてくる。でも――。
「……もういいや。」
私は深く息を吐いた。
「異世界だもんね。もう、どうにでもなれ……。」
『回答の必要はありませんか?』
「今のはいい!考えても分からないし」
『了解しました。』
「……はぁ。」
私は球体を手のひらに乗せる。
とりあえず、名前くらいはつけてあげよう。
「うーん……。」
青白く光る球体。不思議な機械。
そして、どこか神秘的な雰囲気。
「……そうだ。」
私は顔を上げた。
「あなたの名前は、ルクスね!」
『個体名を確認。ルクスとして登録しました。』
「よろしくね、ルクス。」
『よろしくお願いします。二代目マスター。』
「……その呼び方は慣れないなぁ。」
私は苦笑した。
『呼称の変更を希望しますか?』
「いや、今はそのままでいいよ。」
『了解しました。』
ルクスは再び青白く光った。
どうやら、きちんと起動しているらしい。
「……まあ、いつか正体も分かるでしょ。」
ルクスは左側で浮き始めた。
こうして私は、危険度SSのフェンリルに加えて、過去のマスターの記録を持つ謎の機械まで手に入れてしまった。
……本当に、私の異世界生活はどうなるんだろう。
◇◇◇◇◇
その後、私はオアシスの周辺で食べられそうな果実を見つけ、フェンちゃんと一緒に食事をすることにした。
もちろん、フェンちゃんに聞いてからだ。
『この赤い実は食べられるっす!』
私は一口かじった。
「……甘い!」
『それ、自分も好きっす!』
「フェンちゃんも食べるんだ。」
『食べるっすよ! おいしいっす!』
フェンちゃんは果実を丸ごと口に入れた。
「……それ、種ごと食べて大丈夫なの?」
『問題ないっす!』
「そ、そう……。」
魔物の食生活って不思議だ。
私は水を飲み、果実を食べ、ようやく落ち着いてきた。
さっきまで死にそうだったのが嘘みたいだ。
「……はぁ。生きててよかった。」
『死ななくてよかったですね。』
私は草の上に座り込む。
フェンちゃんも隣に寝そべった。
『元気になったっすか?』
「うん。フェンちゃんのおかげだよ。ありがとう。」
『どういたしましてっす!』
私はフェンちゃんの頭を撫でる。ふわふわで、温かい。
「……よし。」
私は空を見上げた。
「異世界生活、なんとか始まった……のかな?」
『異世界がなんだかわからないっすけど、多分始まったと思うっす!』
「そっか。」
私は笑った。
今はまだ、村も見つかっていない。
この世界のことも、ほとんど分からない。
ルクスについては、謎だらけだ。でも――。
仲間ができた。水も飲めた。食べ物も見つかった。
少なくとも、さっきよりはずっとマシだ。
「……これからよろしくね、フェンちゃん。」
『こちらこそっす!』
左側に浮いているルクスを見る。
「ルクスもよろしくね。」
『よろしくお願いします。二代目マスター。』
「……うん。」
私は小さく笑った。
これから先、何が起こるか分からない。
だけど、今はこうして休めるだけで十分だ。
私はフェンちゃんの隣で、のんびりとオアシスの景色を眺めていた。その時だった。
――ザバァッ!!
「……え?」
突然、オアシスの水面が大きく揺れた。
「な、何!?」
私は慌てて立ち上がる。
フェンちゃんもすぐに起き上がり、水面を睨みつけた。
『……あれは何っすか。』
「……え?」
『あれは……。』
水面の中央から、何かがゆっくりと浮かび上がってくる。
大きな影。長い首。とても神秘的な白色。
そして――。
水しぶきの中から現れたのは、まるで龍のような頭だった。
「…………。」
私は息を呑んだ。龍の頭が、こちらを向く。
その瞳が、私を捉えた。
「…………え?」
フェンちゃんが低く唸る。
『……気をつけるっす。』
「…………。」
私は龍の頭を見つめたまま、ゆっくりと後ずさった。
……いやいや、ちょっと待って。
せっかく水も食料も手に入れて、のんびりできると思ったのに。
どうして私の異世界生活って、いつもこうなるの!?
そして、水面から現れた龍の頭は――。
まるで私を見定めるかのように、じっとこちらを見つめ続けていた。
『お久しぶりですね、レリウス。』
〘まだ動けたのか?ポンコツ。〙
もう何がなんだかさっぱり。
ブックマークしてくれると投稿頻度が上がったり上がらなかったり…、ってルクスが言っていました。
『否定します。』




