25話 初めての犯罪
――次の日。
まだ少し傷が痛むが俺は教会へ向かっていた。目的は一つ昨日、神官ちゃんから聞いた男の神官。
あいつのスキルを奪うことだ。
「……。」
教会の前に立つ。俺は一度深呼吸してから、扉を開けた。
ギィィ……。中へ入る。
教会の中は広く、入口から神官がいる場所まではかなり距離がある。
正面には巨大なヴェルノクスの像。マジで誰だよこれ。そして、その奥には神官が使っている部屋があるようだ。
「……。」
俺は周囲を確認する。人はいない。ちょうど近くに、大きな柱がある。その柱の影なら、奥からは見えない。
「ここなら……。」
俺は柱の影へ移動する。
そして――。
「性反転。」
身体から光が溢れる。一瞬、身体が揺れる。髪が変わる。声が変わる。身体も変化していく。そして。
「……。」
俺は、いやアタシはエレナ・スカーレットになった。
「よし。」
ここからは理仁ではない。エレナだ。
俺は柱の影から出て、神官のいる場所へ向かった。
しばらく歩くと、奥から男の声が聞こえてきた。
「だから、何度言えば分かるのですか?私は神に仕える神官なのですよ?あなたのような者が、私に意見する必要はありません。」
「……。」
アタシは足を止める。誰かと話しているようだ。
少しだけ部屋の中を覗く。
そこには、昨日聞いた神官がいた。
大きな身体。丸々とした顔。豚みたい。
そして、自分の立場を利用することを何とも思っていないような態度。
その神官の前には、一人の女性がいた。
神官ちゃんだ。
「ですが……。」
神官ちゃんが小さな声で話す。
「私は、もうここには……。」
「またその話ですか?」
豚神官は面倒そうにため息をつく。
「あなたは本当に分からない人ですね。私があなたを王都へ連れて行ってあげると言っているのですよ?そんな機会、普通なら誰も断りません。」
「……私は行きません。」
「なぜです?」
「私は、あなたと一緒に行きたいとは思いません。」
「……。」
豚神官の顔から笑顔が消える。
「私の誘いを断るのですか?」
「はい。」
「この私を?」
「……。」
「私は神官ですよ?あなたとは違って王国から声がかかった。」
豚神官は自分の胸を叩く。
「神に仕える者です。あなたよりも、ずっと上の立場にいる。それなのに――。」
神官は女性を睨みつける。
「私の言うことを聞かないのですか?」
神官ちゃんは俯いてしまう。
「……。」
アタシは静かに拳を握る。――酷い。
自分が神官だから何を言っても許される。
そんな考え方をしている。
「それに。」
神官は再び笑みを浮かべる。
「あなたのような女性が一人で生きていけると思っているのですか?私が面倒を見てあげますよ。」
「……結構です。」
「遠慮する必要はありません。」
「本当に迷惑です。」
神官ちゃんがはっきりと言った。
「……。」
神官の顔が引きつる。
「迷惑?」
「はい。」
「私が?」
「………はい。」
豚神官はしばらく黙っていた。
そして、神官ちゃんが吐き捨てるように言う。
「あなたのような人間が神官を名乗っていることのほうが、よほど問題だと思います。」
「なっ……!」
豚神官が怒鳴る。
「貴様!」
今止めないとまずい!
「ねえ。」
アタシが口を挟んだ。
「……誰です?」
豚神官が無理に笑い顔を作って振り向いた。
アタシはゆっくりと歩いていく。
「アタシはエレナ・スカーレット。」
「エレナ……?」
「ええ。」
アタシは豚神官を見る。
「少し聞きたいことがあるの。」
「私にですか?」
「そう。」
アタシは豚神官の目を見る。
「あなた、珍しいスキルを持っているでしょう?」
「……。」
豚神官の表情が変わる。
「なぜそれを?」
「噂で聞いたのよ。『職業の書』を使わずに、副職業を変更できるスキルがあるってね。」
豚神官は一瞬黙った。
そして――。
「……ふふ。」
得意げに笑う。
「よくご存じですね。」
「ええ。」
「その通りですよ。」
自慢するように語り始める。
「私には特別なスキルがある。副職転換。これが私の力です。素晴らしいでしょう?職業の書など必要ありません。私は好きなときに副職業を変えられる。まさに、神に選ばれた者だけが持つ力なのです。」
「……そう。」
アタシは豚神官を見る。
「じゃあ、その力。」
右手を豚神官へ向ける。
「アタシがもらうわ。」
「……は?」
「スキルテイク。」
――瞬間。
黒い光が豚神官の身体を包み込む。
「なっ!?」
豚神官が目を見開く。
「何だ、これは!?」
「あなたのスキルを――。」
アタシは手を握る。
「いただくわ。」
黒い光が、豚神官の身体から抜けていく。
そして――。アタシの手へ吸い込まれた。
「……。」
スキル欄を確認する。
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【スキル】
・スラッシュ Lv6
・反転
・性反転
・スキルテイク
・副職転換
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「……成功ね。」
だが、その瞬間。
「……っ。」
身体が重くなる。
「何……?」
アタシはステータスを見る。
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【LV】-2
【EXP】0/-400
【本職】テイカー Lv-2
【副職】暗殺者 Lv-2
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「……レベルが下がった。」
やっぱり。人からスキルを奪う行為は、犯罪として判定されるらしい。
「……まあ、いいわ。」
アタシは豚神官を見る。
「これで、あなたの無意味な力はなくなった。」
「返せ……。」
豚神官が震えながら言う。
「私のスキルを返せ!」
「嫌よ。」
「それは私のものだ!」
「あなたが持っていても、人を苦しめるために使うだけでしょう?」
「黙れ!」
豚神官がアタシへ向かってくる。
「お〜怖い怖い。」
「私を誰だと思っている!」
「……。」
アタシは動きを見て――。一瞬で横へ回り込む。
「なっ――!?」
「遅いわ。」
アタシは豚神官の首裏を押す。
「少し眠っていて。」
「ぐっ……!」
豚神官の身体がふらつく。そのまま床へ倒れた。
ドサッ。
「……。」
アタシは神官の様子を確認する。気を失っている。
大きな怪我はない。
「これでいいわ。」
ていうか俊敏凄く高かったよな、凄い早く移動できた。神官ちゃんを見る。
「あなた。」
「……はい。」
神官ちゃんは驚いた表情でアタシを見ている。
「もう大丈夫。」
「え……?」
「あなたを苦しめていた力は、アタシが奪ったわ。」
「……。」
神官ちゃんは、豚神官を見つめる。
そして――。
「ありがとうございます。」
小さく頭を下げた。
「あなたは……一体、何者なんですか?」
「ただの通りすがりよ。」
「名前だけでも……。」
女性神官は少し迷ってから口を開く。
「私の名前は、ミレア・ノクティスです。」
「ミレア……。」
「はい。もしよろしければ……、あなたの名前をもう一度教えてください。」
ミレアは微笑む。
「助けていただいて、本当にありがとうございました。」
アタシは少しだけ笑う。
「……貴方の名前、覚えておくわ。」
「はい。」
「それじゃあ。」
アタシは教会の出口へ向かう。その前に一度振り返る。一応名乗っておくか。
「改めてまして、アタシの名前はエレナ・スカーレット。どうぞよろしくね。」
「……エレナさん。」
「じゃあね、ミレア。」
そう言って、アタシは教会を後にした。
教会から十分に離れた路地。
周囲に誰もいないことを確認する。
「……よし。」
アタシは手を伸ばす。
「性反転。」
――。光が身体を包む。茶色い髪が戻る。身体も元に戻っていく。
そして――。
「……俺に戻った。」
俺は自分の手を見る。
「ふぅ……。」
これで誰にも見られていなければ、エレナと俺が同一人物だとは気づかれない。
そして。
「副職転換……。」
新しく手に入れたスキルを確認する。
これで俺は、『職業の書』を使わずに副職業を変更できる。そしてミレアは多分困ることは少なくなるだろう。
「……これでよかった。」
俺は教会の方向を見る。
「少しは助けになったかな。」
そう呟いて、俺は宿へ戻ることにした。
だが――。
俺はまだ知らなかった。
この日、フィルネ村に新たな噂が生まれたことを。
――教会の神官からスキルを奪った謎の女。
その名は。
エレナ・スカーレット。




