24話 エレナ・スカーレット
「……一体、この姿をどうやって使えばいいんだ?」
俺は鏡に映った自分を見つめる。茶色い髪。
黒を基調とした服装。
そして、女性になった身体。
「……。」
まだ慣れない
。
というか、慣れるわけがない。
昨日まで普通の男だった俺が、今は完全に別人の姿になっている。
しかも――。
「犯罪職……。」
ステータスに表示されている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】エレナ・スカーレット
【種族】人族
【性別】女性
【LV】-1
【EXP】0/-300
【本職】テイカー Lv-1
【副職】暗殺者 Lv-1
【HP】80
【MP】60
【筋力】12
【魔力】14
【俊敏】120
【器用】25
【精神】18
【幸運】3
【スキル】
・スラッシュ Lv6
・反転
・性反転
・スキルテイク
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「……。」
俺はスキルテイクを見る。相手のスキルを奪う。
それも、珍しいスキルほど再使用まで時間がかかる。
「これ……。」
俺は神官ちゃんのことを思い出した。
彼女は、男の神官のせいで教会を離れた。本来なら、彼女は悪くない。それなのに、あの男は女性に不快な言動を繰り返していた。そして今も教会にいる。
「……。」
俺は拳を握る。
「なんとかしてあげたい。」
だけど、俺が理仁として動けば問題になる。相手は神官だ。村の教会にいる人間。下手に動けば、俺自身が面倒なことに巻き込まれる可能性もある。
「……だったら。」
俺は自分の姿を見る。
「エレナとして動けばいい。」
理仁とエレナ。二つの名前。二つのステータス。
そして、二つの存在として扱われる。
「だったら……。」
俺は思いついた。
「スキルを奪えばいいんじゃないか?」
その神官のスキル。『職業の書』を使わずに副職業を変更できるスキル。
それを《スキルテイク》で奪えば――。
女性神官が困っていた原因を解決できる。
「……でも。」
俺は考える。
「そんな簡単に奪っていいのか?」
これが犯罪として扱われるならレベルも下がる。俺はしばらく悩む。だが。女性神官の顔が頭に浮かぶ。
「……。」
俺は決めた。
「悪いことをした奴からなら……。」
俺は自分の手を見つめる。
「奪ってもいいんじゃないか?」
もちろん、勝手に人のものを奪うのは悪い。
でも。自分の力を悪用して人を苦しめる人間がいる。
そんな人間から、その力を取り上げる。
「……アタシがやる。……。」
今、自分で言ってみて気づいた。
「……アタシ?」
いつもの俺なら、「俺がやる。」と言う。
でも、エレナとして活動するなら。
理仁と同じ話し方をするわけにはいかない。
「俺」もやめたほうがいい。
「……アタシ。」
もう一度言ってみる。
「アタシ……か。」
なんだか変な感じだ。
でも。なんだかエレナにあっている気がする。
「エレナは理仁じゃない。」
そういうことにしなければならない。話し方も変える。理仁のような軽い話し方ではなく。
少し落ち着いてミステリアスな、女性らしい話し方にする。
「……これなら、理仁だとは思われないかな。」
いや。今の言い方も理仁っぽい。
「……駄目だな。」
俺は咳払いする。
「アタシはエレナ・スカーレット。理仁とは別人。そういうことにするわ。」
少しずつ、自分の中で整理していく。そして――。
ふと、あることを思い出した。
「そういえば……。」
アタシはスキル欄を見る。
「性反転。」
一度試してみることにした。
「これをもう一度、自分に使ったら……。」
エレナになる前と同じように。魂を反転させる。
もし、この能力が「魂を反転させる」ものなら。
もう一度反転させれば――。
「戻れるかもしれない。」
俺は自分に向かって手を伸ばす。
「……性反転。」
――。
身体から光が溢れた。
「……っ!」
まただ。魂が大きく揺れる。身体の奥から何かが変化していく。そして――。
「…………。」
光が消える。俺は恐る恐る自分の手を見る。
「……戻った?」
声を出す。
「……俺の声だ。」
俺は慌てて鏡を見る。そこに映っていたのは――。
茶色い髪の女性ではない。いつもの俺。
「……戻った。」
俺は自分の顔を触る。
「本当に戻れた……。」
成功した。つまり。
性反転は、自分に二度使うことで元の状態に戻れる。
「なるほど……。」
俺は少し考える。
エレナになる。
↓
エレナとして行動する。
↓
必要がなくなったら理仁に戻る。
「……。」
これなら。
「誰にもバレずに動ける。」
俺は笑う。理仁としては普通の冒険者。
そして――。エレナとしては。
「……。」
悪人を裁く存在。レベルが下がっても問題はない。そう考えると、不思議と胸が高鳴った。俺は拳を握る。
「決めた。」
俺は鏡を見る。
「理仁としては、普通に冒険者を続ける。」
そして。
「エレナとしては――。」
少しだけ口角を上げる。
「悪人を裁く。」
女性神官を苦しめている、あの神官。彼の力を奪う。
そして、同じように人を苦しめている奴がいるなら――。
「アタシが、その力を奪ってやる。」
俺は自分の中にある新しい力を見つめる。
《スキルテイク》。
それは、人の力を奪うスキル。
そして――。
俺にはもう一つの姿がある。
エレナ・スカーレット。
「……面白くなってきた。」
俺はそう呟いた。いや。違う。
エレナとして話すなら――。
「……ふふ。」
少し笑って。
「これからは、アタシの出番ね。」
――こうして。
俺の異世界生活に、もう一人の俺が加わった。
なんか男の姿でエレナの言葉遣いは恥ずかしいからやめよう…。結構きつい。




