20話 反転の使い方
俺は剣を構えた。
目の前には、大兎が三体。
一体だけでも、以前の俺なら何もできずに吹き飛ばされた。それが三体。正直、怖い。
足も少し震えている。
だけど――。
「逃げるわけにはいかない。」
俺の後ろでは、神官の女性が森の中を走っている。
彼女が逃げ切るまで、俺が時間を稼ぐ。
「来い!」
大兎の一体が地面を蹴った。
「速い!」
――ドンッ!俺は横へ飛ぶ。
さっきまで俺がいた場所を、大兎がものすごい勢いで通り過ぎていく。
「今だ!」
俺は剣を振る。
「スラッシュ!」
――ザンッ!
だが、大兎は少し怯んだだけだった。
「やっぱり硬い……!」
次の瞬間、別の大兎が横から突っ込んでくる。
「しまっ――!」
――ドガンッ!
「ぐあっ!」
体が宙に浮く。そのまま地面を転がった。
「痛ぇ……!」
俺はなんとか立ち上がる。
幸い、大きなダメージではない。
しかし――。
「このままじゃ……。」
俺はステータスを確認する。HPがかなり減っている。
「まずいな。」
また攻撃が来る。俺は剣を構えた。そのときだった。
ふと、《反転》のことを思い出した。
「……待てよ。」
俺は自分の腕を見る。
《反転》は対象の性質や状態を反転させる。
だったら――。
「自分の状態も……反転できるんじゃないか?」
半信半疑だった。でも、やるしかない。
「《反転》!」
青白い光が俺の体を包む。
――シュゥゥ……。
「……え?」
体の痛みが、少しずつ消えていく。傷も回復していく。
「まさか……。」
俺は驚いて自分の体を見る。
「回復……した?」
どういう原理なのかは分からない。だけど、間違いない。これで自分の傷を回復できる。
「これなら……。」
希望が見えた。俺は剣を握り直す。大兎が迫ってくる。
「今度はこっちから行くぞ!」
俺は地面を蹴った。
「スラッシュ!」
――ザンッ!
大兎の攻撃を避けながら、剣を振る。
しかし、まだ決定打にはならない。
「くそっ!」
俺は距離を取る。そして、また攻撃を受ける。
「ぐっ!」
HPが減る。
「《反転》!」
回復する。
「スラッシュ!」
攻撃する。
「《反転》!」
また回復する。
「……はぁ……はぁ……。」
何度も繰り返していると、俺はあることに気づいた。
「……MPが。」
ステータスを確認する。MPが、かなり減っている。
《反転》は便利だけど、当然タダではない。使えば使うほどMPを消費する。
「これ……使いすぎたら……。」
俺は冷や汗を流す。
MPがなくなれば、回復できない。
「だったら……!」
攻撃を避ける。
神官の彼女が作ってくれた肩の傷、そこならもしかして…。
「ここだ!『スラッシュ』」
――ザンッ!
今までよりも深く攻撃が入った。
大兎が大きく怯む。
「効いてる!」
俺はさらに追撃する。
「スラッシュ!」
――ザンッ!
「グァァッ!」
大兎が後ろへ下がる。
「あと少し……。」
俺は走る。
大兎もこちらへ突っ込んでくる。
「これで――『スラッシュ』!!」
――ズバッ!
大兎がその場に倒れた。
「……。」
俺はしばらく動けなかった。
「倒した……?」
目の前の大兎を見る。
確かに倒れている。
その瞬間――。
《レベルが上がりました。》
「……!」
ステータス画面が表示される。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【LV】7
【本職】反転術師 Lv4
【副職】見習い剣士 Lv6
【スキル】
・スラッシュ Lv6
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「見習い剣士……Lv6?」
一気に上がっている。
「それに、スラッシュも……。」
俺は剣を握る。さっきまでとは明らかに感覚が違う。
剣を振る軌道が、まるで最初から分かっていたかのように頭の中に浮かんでくる。
「これが……レベルアップの力か。」
俺は近くの木へ向かって剣を振る。
「スラッシュ!」
――ザンッ!
枝が綺麗に切れた。
「……すごい。」
明らかに精度が上がっている。
これなら――。
「まだ、やれる!」
俺は残りの大兎二体を睨みつけた。
「あと二体だ!」
残るMPは…20くらい。反転は多くても2回......。
「時間は稼げた。さらば!!」
全速力で逃げた。うん、さすがに3体は無理だよ。
「グギャァァァ」
「やっぱり速い…。」
大兎は大きく跳んで距離を縮めてきた。
射程距離だ……。まずい。
「反t―――」
――ドガン!!
俺は遠くの木に叩きつけられた。
あ…?間に合わなかった……?
「ゴフッ…。」
口から血がたれてくる。
「り…反転…。」
自分に回復をかける。後反転は使えて1回。負ける…。
「俺は……まだ……!」
だが、体が動かない。大兎が大きく跳び上がった。
「――っ!」
俺は咄嗟に剣を構える。でも、間に合わない。
「まず――」
その瞬間。――ザンッ!!
大兎の前に、一筋の斬撃が走った。
「グァァッ!」
大兎が大きく吹き飛ぶ。俺は目を見開いた。
そして聞き覚えのある声が、森に響いた。
「――リヒト。」
「……え?」
俺は顔を上げる。そこには――。
剣を構えたレオンが立っていた。
「また無茶したな。」
「レオン……!」
レオンは俺を見ると、呆れたようにため息をついた。
「まったく……。」
そして、ゆっくりと大兎へ剣を向ける。
「事情は聞いた。」
「…ごめんよ…。約束を破って……。」
「…………。」
俺はその背中を見つめる。
「……また助けてもらったな…。」
レオンは振り返らずに言った。
「礼はあとだ。」
そして――。
「まずは、このクソ兎を片付けるぞ。」




