19話 さぁ戦ろうか
――翌朝。
「今日も依頼を受けるぞ!」
俺は冒険者ギルドへ向かっていた。昨日は薬草採取の依頼を達成した。そしてゴブリン五匹を倒したことで、レベルも上がった。
今日は何をしようか。そんなことを考えながらギルドへ入る。
「おはようございます。」
受付嬢に挨拶をする。
「おはようございます、リヒトさん」
依頼が貼られている掲示板を見る。
「……これにするか。」
俺が手に取ったのは、いつもの討伐依頼。ホーンビット討伐。一昨日も倒した魔物だ。まぁ危険な目にあったけど。
「これお願いします。」
「ホーンビット討伐ですね。」
受付嬢が依頼書を確認する。
「……あれ?」
「どうしました?」
「レオンさんは一緒ではないんですか?」
「ああ、レオンなら――」
そのとき、後ろから声が聞こえた。
「リヒト!」
「お、レオン!」
振り返る。そこには剣を腰に差したレオンが立っていた。
「悪い。今日は一緒に行けない」
「え?」
「昨日話していた大兎の件だ」
「大兎?」
受付嬢も口を開く。
「昨日から森の奥で目撃されている大型のホーンビットですね。」
「ああ。」
レオンが頷く。
「今朝、緊急クエストが出た。俺はそっちに参加する。」
「じゃあ今日は別行動か…。」
「まぁ、そういうことだ。」
レオンが俺を見る。
「リヒト、一人で大丈夫か?」
「もちろん!ガッテン承知の助!」
俺は胸を張る。
「昨日はゴブリン五匹を一人で倒したんだぞ?」
「……言わなくてもわかるな?」
「分かってるって!」
「じゃあ、無理はするな。」
「ああ!」
レオンはギルドを出ていった。
俺はその背中を見送る。
「……よし。」
今日は初めての一人だ。
少し不安だけど――
「俺も冒険者なんだ。」
俺は依頼書を握りしめた。
――森。
「……いた。」
茂みの向こうにホーンビットがいる。
俺は剣を抜く。
「スラッシュ!」
一撃。ホーンビットは倒れた。
「よし!」
その後も順調だった。一匹。二匹。三匹。
「一人でも結構いけるな。」
俺は少しだけ自信がついてきた。
しかし――
森の奥へ進んでいくにつれて、魔物の姿が少なくなっていく。
「……静かだな。」
鳥の声すら聞こえない。俺は周囲を見渡す。
「まあ、ホーンビットを探さないと。」
さらに奥へ進む。
そして――
「……え?」
森の先から、大きな音が聞こえた。
ドォン!
「なんだ!?」
続けて――
「誰か助けて!」
女性の声。
「……!」
なんか聞き覚えがある。
「この声……!」
俺は急いで走る。木々を抜けた先。
そこにいたのは――教会の神官の女性。
以前、教会で俺に副職を授けてくれた人だった。
そして彼女の前には――
「グルル……」
「グァァッ!」
「……嘘だろ…。」
巨大なホーンビット。大兎が三体。
神官の女性は逃げようとしているが、三体に囲まれている。
「どうしてこんなところに……」
俺は足を止める。三体。
あれは一体だけでも危険だった。
俺は以前、一体に吹き飛ばされた。
レオンがいなかったら――
俺はどうなっていたか分からない。
「……逃げよう。」
そう思った。俺一人では無理だ。レオンもいない。
ここで戦ったら――
その瞬間。レオンの言葉が頭に浮かんだ。
『生きて帰ることも冒険者の仕事だ』
「……。」
確かにそうだ。無謀に戦う必要はない。
でも――
「彼女を見捨てて逃げるのか?」
俺は拳を握る。
逃げることだけが正解なのか?
「……違うな。」
俺は剣を抜いた。
「俺は、彼女を連れて逃げる。」
「えっ!?」
神官の女性がこちらを見る。
「あなたは……!」
「話は後だ!」
大兎の一体がこちらを向く。
「来る!」
――ドンッ!
ものすごい勢いで突っ込んでくる。
「速っ!」
俺は横へ飛ぶ。
大兎が木にぶつかる。
「今だ、『スラッシュ』!」
剣を振る。
しかし――
「やっぱり効かない!くそっ。」
別の大兎が横から襲ってくる。
「しまっ――」
――ドガンッ!
「ぐっ!」
俺はかなり吹き飛ばされた。背中が木にぶつかる。
「痛ぇ……。」
立ち上がろうとする。
「大丈夫ですか!」
神官の女性が叫ぶ。
「……私のことはいいんです、だから逃げてください!」
「……嫌だ。」
俺は剣を握る。
「せっかく助けに来たのに……逃げられるか!」
大兎が再び迫ってくる。
「くそ……。」
俺は剣を構える。でも――怖い。足が震える。
恐怖は体がきっちりと覚えている。
大兎が大きく飛ぶ。
「――っ!」
俺は咄嗟に受け身の態勢をとった。その瞬間。
頭の中に、あのスキルの名前が浮かんだ。
《反転》
「……そうだ。」
俺は思い出す。
「俺には……これがある。」
ステータス画面に表示されていた説明。
対象の性質や状態を反転させる。
「だったら――」
俺は大兎を見つめる。
「お前の……攻撃を反転させる。《反転》!!」
――パァァン!
青白い光が俺の腕から広がった。大兎が――吹き飛んだ。
「……え?」
俺自身も何が起きたのか分からない。
だが――
大兎から感じていた圧倒的な力が、ほんの少しだけ弱くなっている。
「……効いた?」
俺は驚く。しかし――
「グルルル……!」
大兎はまだ立っている。
「そりゃ、一発で倒せるわけないか……。」
「グァァァァッ!!」
「まずい、後ろに―――」
後ろにいた別の大兎に気づけなかった。やられる…。
「疾風!!」
とてつもない速さの刃が大兎の方を捉える。
「グガァ!!」
「大丈夫ですか!?」
彼女が助けてくれた。おそらく風の魔法かなんかだろう。俺は彼女の近くに行く。
「ありがとう、本当に助かった。」
「大丈夫です、それよりも早くここから逃げましょう。」
俺は大兎たちを見る。どう考えても普通に走って逃げても追いつかれてゲームオーバーだ…。
「今度は俺が、時間を稼ぐ。」
「何言ってるんですか!一緒に…」
「君もわかるはずだ、一緒に逃げたら捕まるって。」
「でも…。」
「いいから行け。…また村で会おう。」
「っ………。」
彼女は決心したように振り返って走った。
あぁ、レオンごめんよ。俺は約束を破ることが多いみたいだ。
そういえば地球にいた時もそうだっけ、約束を破って、冷たい目で見られ、周りには誰も残らなかった…。今は関係ないな、忘れよう。
初めて使った《反転》。
その力が何なのか、まだ分からない。
それでも――
俺は逃げない事を決めた。だから、これでいい。
誰かを助けるために、自分の力で戦う。
それが今の俺にできることだ。
決心はついたさ。
「さぁ、戦ろうか。クソ兎。」
ヒロイン?みたいな子を書きました。まぁ、最初から出ていたんですけど。これからも登場するかは気分次第です。




