16話 森の奥深く
――フィルネ村
「……ん。」
目を開ける。見慣れない天井。
……いや。昨日も見た天井だ。
「ここ……宿屋か。」
俺はゆっくりと身体を起こした。窓から朝日が差し込んでいる。どうやら、もう朝らしい。
「……昨日は、色々あったな。」
俺はベッドの上で昨日の出来事を思い出していた。
ホーンビット。
レベルアップ。
そして――巨大なホーンビット。
「……。」
思い出すだけで、背筋が少し寒くなる。あのとき。
俺は完全に油断していた。自分が強くなったと思い込んで。もっと経験値が欲しい。もっとレベルを上げたい。そんなことばかり考えていた。
結果――
レオンに助けられた。
「……情けないな、俺。」
俺は小さく呟いた。昨日、レオンに言われた言葉。
『生きて帰ることも冒険者の仕事だ。』
あの言葉が頭から離れない。ゲームなら、死んでもロードすればいい。でも、この世界にはそんなものはない。一度死んだら、それで終わりだ。
「……当たり前のことなのにな。」
俺はベッドから降りた。
「ていうか寝たら結構回復するんだな。この世界まだよくわからん。」
そして、手を前に出す。
「ステータスオープン。」
目の前に半透明の画面が現れる。
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名前:斎藤 理仁
種族:人族
年齢:22
性別:男
LV:6
経験値:0/300
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【本職】
反転術師 Lv4
職業経験値:0/5000
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【副職】
見習い剣士 Lv2
職業経験値:0/200
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HP:150
MP:105
筋力:26
魔力:28
俊敏:20
器用:22
精神:36
幸運:8
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【ユニークスキル】
《成長》
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【スキル】
《スラッシュ》Lv2
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「……強くなってる。」
昨日よりも確実に成長している。だけど。
「これでも、あの巨大なホーンビットには勝てなかった。」
レオンはあの魔物を一撃で倒した。俺とは、まだまだ差がある。
「……もっと強くならないとな。」
俺はステータス画面を閉じた。そして、昨日とは違う決意を胸に部屋を出た。宿屋の一階。
「お、起きたか。」
「……レオン。」
そこには、すでにレオンが座っていた。テーブルの上には朝食が並んでいる。
「遅いぞ。」
「いや、まだ朝だろ。」
「冒険者に朝は関係ない。」
「それ、絶対レオンだけだろ。」
俺が椅子に座ると、レオンは苦笑した。
「昨日はよく眠れたか?」
「……まあ。」
「そうか。」
レオンはそれ以上聞かなかった。
けれど、少ししてから口を開いた。
「昨日のこと、まだ気にしてるのか?」
「……。」
図星だった。
「まあ……ちょっと。」
俺は朝食を食べながら答える。
「俺、調子に乗ってたと思う。」
「自覚したなら十分だ。」
「でもさ。」
俺は箸を置く。
「俺は強くなりたい。」
レオンは黙って俺を見る。
「この世界で生きていくなら、強くならないといけない。」
「そうだな。」
「それに……」
昨日のことを思い出す。
「いつか、俺も誰かを助けたい。」
レオンが少しだけ目を細めた。
「……そうか。」
「何だよ。」
「いや。」
レオンは笑った。
「お前少しずつ冒険者らしい顔になってるな。」
「昨日の俺はそんなに酷かったのか?」
「酷かった。」
「即答!?」
レオンは笑いながら朝食を食べる。
「まあ、焦る必要はないからな。」
「……分かってる。」
「本当に分かってるか?」
「分かってるって。」
俺は胸を張る
。
「もう無茶はしない。」
「……その言葉、昨日も聞きたかったな。」
「うっ……。」
何も言い返せない。朝食を終えると、俺たちは冒険者ギルドへ向かった。フィルネ村の冒険者ギルド。
昨日も来た場所だ。扉を開ける。
「おはようございます。」
受付嬢が声をかけてくる。
「おはようございます。」
俺も挨拶を返した。
昨日までは、依頼を受けることだけで精一杯だった。
でも今日は違う。俺は掲示板を見る。依頼書が何枚も貼られている。薬草採取。魔物討伐。護衛。荷物運び。村の外の調査。
「結構あるんだな。」
「当然だ。」
レオンが隣に立つ。
「冒険者ギルドには、毎日いろんな依頼が来る。」
「どれにする?」
俺が聞くと、レオンは掲示板を見る。
「昨日のこともある。今日は無理をしない依頼にする。」
「分かった。」
俺は素直に頷いた。昨日なら「強い魔物を倒そう!」とか言っていたかもしれない。でも今は違う。
自分の力を知ることも大切だ。
「……これなんかどうだ?」
レオンが一枚の依頼書を取った。
「何?」
俺も覗き込む。
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【薬草採取】
フィルネ村周辺に生息する薬草を採取してください。
必要数:20本
報酬:銀貨1枚
推奨ランク:F
備考:森の浅い場所で採取可能。
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「薬草採取か。」
「そうだ。」
「魔物は?」
「基本的には出ない。」
「基本的には?」
俺が聞き返すと、レオンは苦笑した。
「森に魔物がいる以上、絶対とは言えない。」
「まぁ、そっか。」
昨日の巨大ホーンビットが頭をよぎる。
「……これにするか。」
「いい判断だ。」
俺たちは受付へ向かった。
「薬草採取ですね。」
受付嬢が依頼書を確認する。
「はい。」
「それでは、こちらの袋をお使いください。薬草は傷つけないように採取してくださいね。」
「分かりました。」
袋を受け取る。
「それと――」
受付嬢が俺を見る。
「昨日のホーンビット討伐、お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
「……ですが。」
「?」
「森の奥には絶対に入らないでください。」
受付嬢の表情が真剣になる。
「昨日、別の冒険者からも報告がありました。」
「何の?」
「森の奥で、通常より大型の魔物を見たという報告です。」
俺とレオンの顔が変わる。
「……大型の魔物?」
「はい。」
受付嬢は頷く。
「正体は分かっていません。ですから、現在ギルドでも調査を検討しています。」
俺は少し黙った。もしかすると――
昨日の巨大ホーンビットのことか?
「レオン。」
「ああ。」
レオンも同じことを考えているようだった。
「昨日の魔物と関係があるかもしれない。」
「でも、まだ断定はできない。」
「そうだな。」
受付嬢が続ける。
「くれぐれも森の奥には行かないようにしてください。」
「分かりました。」
俺は答えた。今度は――
絶対に勝手なことはしない。
そう決めていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちは村を出た。森へ向かう。昨日とは違う。今日は森の奥へ行かない。浅い場所だけだ。
「なあ、リヒト。」
「ん?」
「薬草採取ってやったことあるか?」
「ない。」
「だろうな。」
「なんで分かるんだよ。」
「顔に書いてある。」
「どういう顔だよ。」
レオンが笑う。森に入る。
木々の隙間から、朝の光が差し込んでいる。
昨日とは違い、今日は妙に静かだった。
「……綺麗だな。」
俺は思わず呟いた。
「そうだな。」
「こういうところで暮らすのも悪くないかもな。」
「昨日死にかけた奴が言う台詞じゃないな。」
「さぁなんのことやら。」
俺たちは笑った。そして、薬草を探し始める。
「これじゃないか?」
「違う。それはただの草だ。」
「え?」
「薬草は葉の形が違う。」
「……見分けつかない。」
「覚えろ。」
「はい。」
レオンに教えてもらいながら、一つずつ採取していく。
「職業が鑑定士だったら一瞬でわかるんだがな。」
「なんか解放されてたな。」
「ま、時間をかけても探しまくれ。」
「はーい…。」
一時間ほど経った頃。
「……15本。」
「順調だな。」
「あと5本。」
俺は周囲を見渡した。
すると―
「あ。」
「どうした?」
「あそこ。」
木の根元。緑色の葉が数枚生えている。
「あれ、薬草じゃないか?」
レオンが確認する。
「……そうだな。」
「よし!」
俺は近づく。しゃがみ込んで、薬草を採取する。
「これで16本。」
そのとき。――ガサッ。
「……?」
茂みが揺れた。俺は立ち上がる。
「レオン。」
「動くな。」
レオンが剣に手をかける。茂みの奥から何かが出てくる。
「……魔物か?」
緊張が走る。そして――
「……?」
出てきたのは。小さな動物だった。茶色い毛。長い耳。
「……ただのウサギ?」
「ただの野生動物だ。」
レオンが剣から手を離す。
「びっくりさせるなよ……。」
俺は胸を撫で下ろす。すると、そのウサギがこちらを見る。そして森の奥へ走っていった。
「……。」
なぜだろう。俺はその姿をしばらく見つめていた。
昨日の巨大なホーンビットとは、まったく違う。
同じウサギのような姿でも。生き物としては、まるで別物だった。
「……行くぞ、リヒト。」
「うん。」
俺たちは再び薬草採取を始めた。
ウサギは森の奥に消えていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんです?このウサギ。」
「殺してしまえ。目障りだ。」
――ザシュ。
「――あ゛ぁクソが、前変な金髪にやられたとこが痛てぇ。」
「結局あの女ゴブリンには逃げられたし。」
「ねぇ、あんまり無利益な殺しをするのは辞めましょうヨ。」
「うっせ、黙ってお前は俺に従っとけやぁ。」
「――ハイハイ。」
「ま、何処かにゴブリンどもの住む場所があるでしょ。」
「すぐに見つけてとっ捕まえて売ってやるよ。」
レオンにやられた3人組は森の奥深く、ゴブリンの集落を見つけに進んでいった。
やることが終わってやっと書けるようになりました。




