閑話 ルシアン
――これは、斎藤理仁がこの世界に転生するより遥か昔の話。
一人の男が、冒険者ギルドの前に立っていた。
男の名は――
ルシアン・ヴォルト。
当時、まだ若かったルシアンは、ギルドの受付で自分のステータスを確認していた。
「……またか。」
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名前:ルシアン・ヴォルト
LV:35
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【本職】
反転術師 Lv4
職業経験値:57/1000
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「……反転術師。」
ルシアンは小さく呟く。
この世界では満10歳になったものに本職として職業が正式に就く。そして、彼がこの職業になったのは、十年以上前のことだった。
最初は期待していた。珍しい職業だったからだ。
きっと、いつか凄い力を手に入れられる。
そう思っていた。
しかし――
「何も起こらない。」
レベルを上げても。魔物を倒しても。依頼をこなしても。
反転術師のレベルは、4から一向に上がらなかった。
「……俺は、何のためにこの職業を選んだんだ。」
ルシアンは拳を握る。それでも諦めなかった。剣を握った。魔物と戦った。毎日、毎日。
そして少しずつ、普通の冒険者として強くなっていった。
「ルシアン!」
仲間の声が聞こえる。
「今日も狩りに行くぞ!」
「ああ。」
ルシアンは笑って答えた。反転術師の力がなくてもいい。
自分自身が強くなればいい。
そう思うようになっていた。
――それから数十年。
ルシアンは老いていった。
ベッドの上に横たわり、震える手で一冊の日記を書いている。もう剣を握ることはできない。それでも、最後に残したいものがあった。
「反転術師について……。」
震える手で文字を書く。
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【反転術師について】
俺は反転術師になった。
だが、この職業が何なのか。
最後まで分からなかった。
レベルは4までしか上がらなかった。
何度魔物を倒しても。
何度修行しても。
何も起こらなかった。
経験値が入らないことがほとんどだった。
俺以外にも反転術師がいるのかは分からない。
もし、いつか俺と同じ職業になる者がいるのなら――
どうか、俺より先へ進んでほしい。
そして、この職業の正体を知ってほしい。
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「……これで、いい。」
ルシアンはペンを置いた。窓の外を見る。夕焼けが広がっていた。
「結局……何も分からなかったな。」
ルシアンは静かに笑った。悔しさはあった。
だが、不思議と後悔はなかった。
「もし……次に生まれ変わることがあるのなら。」
ルシアンは目を閉じる。
「今度こそ……知りたいものだ。」
そして――
ルシアン・ヴォルトは静かに生涯を終えた。
彼の日記は故郷に残されたままだった。
その日記が読まれることはほとんどなかった。
反転術師。
それは、誰にも理解されない職業として、長い年月の中に埋もれていった。
――そして数百年後。
一人の少年が、その職業を選ぶことになる。




