10話 旅の休息
「俺は無一文だから今日は野宿か……。」
そう言うと、レオンが足を止めた。
「……そういや、お前金なかったな。」
「冒険者登録代まで払ってもらったしな。」
「はぁ……。」
レオンは頭をかきながら苦笑する。
「今日は俺が宿代くらい奢ってやる。」
「いや、それは悪いって。」
「登録代を払った時点で今さらだろ。」
「それもそうだけど……。」
「腹が減ってちゃ明日から依頼も受けられないしな。」
そう言うと、レオンは俺の背中を軽く叩いた。
「貸しだからな。出世払いでどうよ。」
「……ありがとう。」
俺は素直に頭を下げた。異世界に来てまだ一日。右も左も分からない俺を、ここまで助けてくれる人がいるなんて思ってもみなかった。
「ほら、行くぞ。」
「ああ。」
二人は宿屋へ向かって歩き始めた。今日はいろいろありすぎた。
神様に会い、異世界へ転生し、冒険者になり、ゴブリンたちと出会い、副職まで手に入れた。たった一日とは思えないほど濃い一日だった。明日からは、本当の意味で冒険者としての生活が始まる。俺は少しだけ胸を高鳴らせながら、レオンの後を追った。
宿屋へ入ると、木の香りと料理のいい匂いが鼻をくすぐった。夕食時ということもあり、中は冒険者や村人たちで賑わっている。
「いらっしゃい!」
カウンターの奥から、四十代くらいの女性が元気よく声をかけてきた。茶色の髪を後ろでまとめ、エプロン姿がよく似合う。
「おっ、レオンじゃないか!」
「こんばんは、女将さん。」
「今日は新人を連れてきたのかい?」
女将さんは俺をじっと見つめる。
「初めまして。斎藤理仁です。」
「サイトウ……?」
少し首を傾げたあと、女将さんは笑った。
「珍しい名前だねぇ。」
「よく言われます。」
「ははは! この村じゃ聞いたこともない名前だからね。」
レオンが苦笑する。
「こいつ、今日冒険者になったばっかりなんですよ。」
「へぇ!」
女将さんは目を丸くした。
「じゃあ今日は初依頼だったのかい?」
「はい……。」
俺は苦笑しながら頭をかく。
「失敗しちゃいました。」
「あらまぁ。」
女将さんは驚いたような顔をしたが、すぐに優しく笑った。
「でも無事に帰って来られたんだろ?」
「はい。」
「それなら十分さ。」
その一言で少し肩の力が抜けた。
「冒険者なんてね、最初から上手くいく奴なんてほとんどいないよ。」
「そうなんですか?」
「ああ。昔はレオンだって大変だったんだから。」
「ちょっ、女将さん!」
レオンが慌てて止める。
「最初の依頼でスライム一匹に追いかけ回されて泣きそうになってたくせに。」
「言わないでくださいよ!」
思わず吹き出してしまう。
「ふふっ。」
「笑うなよ、リヒト!」
「いや、だって……。」
こんな完璧そうなレオンにも初心者の頃があったんだ。少しだけ親近感が湧いた。女将さんは笑いながら帳簿を開く。
「今日は泊まっていくのかい?」
レオンは俺の方をちらりと見た。
「二人分お願いします。」
「同じ部屋でいいか?」
「ああ。」
女将さんは頷く。
「銀貨一枚だよ。」
レオンは迷わず銀貨を一枚渡した。
「毎度あり。」
「悪いな、レオン。」
「気にするな。」
女将さんは部屋の鍵を一つ取り出し、俺たちへ渡す。
「二階の一番奥の部屋だよ。」
「ありがとうございます。」
「それと、夕食はもうすぐできるから、席で待ってな。」
「はい!」
俺は笑顔で返事をした。この村には少しずつ居場所ができ始めている気がした。
「ここが部屋だな。」
とても寝やすそうなベッドが2つあった。
「ここが宿か…。」
「お前ほんとどうやって今まで生きてきたんだ?」
「それは聞かないでくれ。」
「あ、あぁ悪かった。」
多分レオンは俺がずっと野宿でもしてたとか勘違いしてるな。これは。
この後俺達はご飯を食べてからぐっすり寝た…。
ていうか異世界のご飯美味しすぎるだろ、普通に日本の飯より美味かったぞ。
休息会です。




