9話 見習い剣士
教会を出ると、空はすっかり茜色から群青色へと変わっていた。
「終わったな。」
レオンが背伸びをする。
「ああ。」
俺はゆっくりと右手を握った。今までとは何かが違う。体が軽い。剣を握りたくなるような、不思議な感覚がある。
「どうした?」
「いや……。」
レオンに借りている剣の柄へ手を伸ばす。
スッ。
自然と剣が抜けた。
「おっ。」
レオンが少し驚いた表情を見せる。
「いい抜き方だな。」
「そうなのか?」
「初めて剣を持つやつは大抵引っかかる。」
そう言われて初めて気付く。確かに初めて剣を借りた時より、ずっと扱いやすい。
「これが副職の力か……。」
その瞬間。
ピコン。
見慣れた音が頭の中で鳴る。
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【副職を獲得しました】
《見習い剣士 Lv1》
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【スキル】
・スラッシュ Lv1
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【能力補正】
筋力 +3
俊敏 +2
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「おぉ……。」
思わず声が漏れた。
「レオン! スラッシュってスキルを覚えた!」
「やっぱりか。」
レオンは嬉しそうに笑う。
「副職には専用スキルがあるからな。」
「便利すぎるだろ……。」
「ただし。」
レオンは人差し指を立てる。
「スキルを持ってても、使いこなせるかは別だ。」
「つまり?」
「練習しろってことだ。」
なるほど。ゲームみたいにレベルだけ上げればいい世界じゃない。ちゃんと鍛えないと強くはなれないんだ。
「そうだ。」
レオンが俺を見る。
「時間もあるし、少しだけ訓練するか?」
「今から?」
「ああ。」
レオンは村の外れを指差した。
「初心者用の訓練場がある。」
「そんな便利な場所があるのか。」
「冒険者の村だからな。」
俺たちは教会を後にし、村の外れへ向かった。そこには木で作られた人形や丸太が並び、数人の冒険者が木剣を振っていた。
「ここだ。」
レオンは木剣を一本持ってくる。
「本物の剣は危ないからな。」
一本を俺へ投げる。
「まずは振ってみろ。」
「こうか?」
ブンッ。
「違う。」
レオンは苦笑した。
「力任せじゃ長く戦えない。」
そう言うと、ゆっくり剣を構える。
「足は肩幅。」
「はい。」
「力を抜く。」
「はい。」
「そして――振る。」
シュッ。
無駄がない。速い。
「すっげ……。」
俺も真似して振る。
シュッ。
さっきより軽い。
「いい感じだ。」
「本当か?」
「ああ。」
レオンは笑う。
「筋は悪くない。」
その一言だけで、少し嬉しかった。ゲームの知識しかなかった俺が、この世界で初めて誰かに褒められた気がした。
「今日はこれくらいにしよう。」
気付けば辺りは真っ暗になっていた。
「腹減ったな。」
「そうだな。」
俺のお腹もグゥと鳴る。レオンは笑いながら歩き出した。
「宿に戻って俺は飯でも食うか。」
「俺は無一文だから今日は野宿か…。」
俺は夜空を見上げた。この世界へ来てまだ数日。それでも少しずつ、この世界で生きている実感が湧いてきた。




