6話 魔物は本当に悪なのか
「……ん。」
重い瞼をゆっくりと開く。柔らかな草の感触。頭が少しぼんやりする。
「ここは……。」
体を起こすと、隣で誰かが腕を組んで座っていた。
「おっ、起きたか。」
「レオン!」
思わず声が大きくなる。
「無事だったんだな!」
「ああ。お前が眠らされたあと、俺も武器を預けて話し合いになった。」
「話し合い?」
俺は辺りを見回した。そこは村というより、小さな集落だった。木を組んで作られた簡単な柵。枝や葉で作られたテントが六つほど並び、中央では焚き火が燃えている。集まっているのは十匹ほどのゴブリン。子どものゴブリンが二匹。年老いたゴブリンが一匹。他は大人らしいゴブリンたちだった。
みんな警戒しながらも、俺たちをじっと見つめている。
「本当に……ゴブリンの集落なのか。」
俺が起き上がると、小さな足音が近付いてきた。
「あっ!」
昨日助けた少女だった。髪は緑色で、肌は薄い緑色。耳はとんがっており、おでこに小さな角が生えている。
「起きた!」
「君は……。」
「お兄ちゃん!」
少女が振り返る。そこへ昨日の青年が歩いてきた。彼女とは違って少し角が大きい。
「目が覚めたようだな。」
「昨日はいきなり眠らせて悪かった。」
「いや……まぁ、生きてるからいいけど。」
青年は小さく頭を下げた。
「俺の名前はゼノ。こっちは妹のリアだ。」
「リアです。」
少女は少し恥ずかしそうに頭を下げる。
「俺は理仁。まぁ、よろしくな。」
軽く自己紹介を済ませる。しかし、どうしても気になることがあった。
「聞いてもいいか?」
「何だ?」
「二人だけ……見た目が人間にそっくりなのは何でなんだ?」
「お前最初にそれ聞くのか?!」
レオンは呆れたように言った。
「だって気になるじゃん…。」
「やっぱ気になるか…。」
ゼノは少し顔を曇らせながら言う。
「普通のゴブリンは、君が見ている通り、あんな姿をしている。」
ゼノは周囲で暮らす仲間たちへ視線を向ける。緑色の肌。大きな鼻。鋭い牙。人間とはまったく違う姿。
「俺とリアだけが、生まれつきこの姿だった。」
「生まれつき?」
「あぁ。」
ゼノは自分の小さな角へ触れる。
「角と耳、肌の色以外は、人間に近い。理由は誰にも分からない。長老も知らない。」
「昔から、たまにこういう子が生まれるらしいの。でも本当に珍しい。」
「そうなのか……。」
リアが少し寂しそうに笑う。
「昔はみんなと違うから嫌だった。でも、お兄ちゃんが『リアはリアのままでいい』って言ってくれた。」
ゼノは少し照れくさそうに頭をかいた。
「ふん、兄として当然だ。」
思わず笑ってしまう。見た目は違っても、この兄妹は普通の兄妹だった。その時、小さなゴブリンの子どもが転んだ。リアはすぐ駆け寄り、その子の手を引いて立たせる。
「大丈夫?」
「ギィ!」
子どもは嬉しそうに笑って走っていく。その光景を見て、俺は気付いた。魔物だから怖い。そう決めつけていた。でも、ここで暮らしているゴブリンたちは、笑って、助け合って、生きている。人間と何も変わらない。
「……俺、勘違いしてたのかもしれない。」
「ああ、俺もさ。リヒト。ちゃんと理性を保てるゴブリンもいるんだな。」
ゼノは静かに頷いた。
「俺たち魔物にも家族がいる。守りたい仲間がいる。それだけは、人間と同じだ。」
なんだろう、どうしてもゼノ達を魔物として見ることができない。いや、本当は魔物なんだろうけどどうしてもそう見ることができない。
「いま、俺達ゴブリンを殺せないと思ったな。」
ゼノが俺の心を見透かしたかのように言う。
「まぁ、全員が俺達みたいに理性とかがあるわけじゃない。もしも襲われたら倒してやってくれ。」
「だ、だが…。」
レオンが少し戸惑っているように声を出す。
「俺たちは、人間と争いたいわけじゃない。 だから、もし他のゴブリンに襲われたら遠慮なく戦ってくれ。 ただ……俺たちのような者まで、最初から敵だと決めつけないでくれると嬉しい。」
ゼノは不器用に笑った。
「俺の妹を助けてくれてありがとうな。レオン、リヒト。」
正義と悪ってなんなんだろう。
こいつらを襲った『人間』。
俺達を見逃してくれた『魔物』。
俺の価値観が大幅に変わった。人間も全員が正義とは限らない。いい魔物だっている。そんなことをゼノやリアは教えてくれた。
そんなことを考えていたその時だった。
ピコッ。
【レベルが上がりました】
「え?」
俺は急に目の前に出てきたステータス画面を咄嗟に見た。
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レベルアップ
斎藤 理仁
Lv2 → Lv4
経験値
0/100
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能力上昇
HP:110 → 130
MP:85 → 95
筋力:15 → 20
魔力:15 → 22
俊敏:12 → 16
器用:14 → 18
精神:22 → 30
幸運:5 → 6
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【本職】
反転術師
Lv2 → Lv3
職業経験値
0/1000
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【ユニークスキル】
《成長》
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【称号】
《ゴブリンの恩人》を獲得。
・ゴブリン族から一定の信頼を得た者。
・ゴブリン族に対する敵意を向けられにくくなる。
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そっか、善行でもしてもレベルは上がるのか。思わぬ収穫だった。ていうか全然反転術師レベル上がるじゃん。けど次は必要経験値1000か…。成長に頼るしかないな。
「レオンはレベル上がったか?」
「ああ、上がったぜ。」
レオンもレベルが上がっていたようだ。
「まぁ、少し長居しすぎたからな。1回帰るぞ、リヒト。」
「あの…。もう帰っちゃうんですか?」
リアが少し残念そうに言った。
「なぁにまたいつか会いに来るさ。」
レオン。こいつ本当にイケメンじゃん。くそったれ。
「うん。楽しみにしてるね!!」
リアが笑った。この子の笑顔は可愛いな。
俺達は集落の出口へと移動する。
「世話になった、ゼノ、リア。」
「あぁ、またいつか会おう。リヒト、レオン。」
「また会おうね〜!!」
俺とレオンは集落を出た。
「……。あいつらいいやつだったな、レオン。」
「あぁ、少し魔物を倒すのをためらってしまいそうだ。」
少しずつ森の出口へ近づいた時、レオンが震えるような声を出した。
「な…なぁリヒト……。」
「ん?どうしたレオン。なんか集落に忘れ物したか?」
「いや、そうじゃなくて……。」
俺達は一番だいじなことを忘れていた。
「依頼って、どうすればいいと思う?」
「あ゛……。」
二人とも同時に頭を抱えた。ゴブリン討伐依頼。ゴブリンを一匹も倒していない。……完全に依頼失敗である。俺にとって初めての依頼は予想外すぎる結末で終わった。
次回は少し閑話を挟みたいと思います。




