後日談・秋「巣立ち」
辺境にも秋の風が吹き始める。一夏の間に、森の仔たちは随分と街に馴染んだ。
各々が好きなところに居を構え、森の浅いところや街中などにバラけて暮らしている。いわく、元々が集落といえども個々の家々は離れていたことから気にならないんだって。
それはそれでいいんだけど、朝起きたら玄関前に薬草が詰まった籠が置いてある光景にはまだ慣れない。
お裾分けのレベルを超えているし、希少な薬草も当然のように含まれている。
気軽に置いていかないでほしい。あと供物みたいで何だか微妙な気分になる。
『白玉もちの好きな果物ー!』
『オヤツの時間にあげなきゃ』
……こいつらはこいつらで仕分けが楽しそうだしさぁ。
相変わらず精霊たちは白玉もちに甘い。
◇──◇──◇──◇──◇
座布団が俺を呼んでいる、という珍しい連絡があった。
俺の都合のいい時に来てほしいと……相変わらず精霊たちの伝達は肝心の要件が抜け落ちている。
手紙でのやり取りには慣れてきたけれど、座布団に書けというわけにはいかないし。とりあえず急ぎの仕事だけを片付けて、早めに森へと向かう。
そういえば、座布団から呼ばれるのって初めてかもしれないな。たまには父親に会いたいだろうと白玉もちも連れて行く。
ぴょんぴょん小さく跳ねているから、たぶんこれは喜んでいるんだろう。
……デカくなってきてジャンプ力が落ちたな?若干不安になるから、籠に入れて連れて行くことにした。
フードやポケットに潜り込もうとしてくるけれど、最近は見るからに何か入ってる感じになるからそろそろやめてくれ。誤魔化すのもわりと無理があるんだよ。
森の中はだいぶいつもの感じに戻ってきた。春先には少し減っていた多年草も少しずつ増えてきていて、いい傾向だ。
生態系が元に戻りつつあるんだろう。何なら戦後処理?で一番大変だったの、増えすぎた鹿の駆除だったし。座布団たちがいなかったらまだ減らすのに苦労したかもしんない。
そして群れの縄張りへと入ると——……いつもならお蚕さんたちが出迎えてくれるんだけど、座布団たちがずらっと整列していた。
「……何なの?」
スノウモスルァーがやって来たので、とりあえず抱える。
『座布団の子どもたち、巣立ちなんだって!』
風乃がそう教えてくれる。
合うたびにちょっとずつ大きくなってるなとは思ったけど、そっか。もうそんな時期なんだな。
座布団が規格外にデカいだけで、そういえばこいつらも通常の玄蜘蛛よりかは随分と大きい。
春先に座布団と雌の玄蜘蛛が修羅場ってんのを見て、あれからそろそろ半年か。
「お疲れ様」
座布団とポンと撫でると、傷みがちだった毛並みもだいぶふかふかに戻ってきている。
ほとんどの仔蜘蛛が縄張りの外を見ているけれど、三匹ほど仔蜘蛛が座布団の横にいる。
「この子たちは織物職人になるんだってー。よかったねぇ、リシアン!」
なるほど?そういう風に育つことってあるんだな。
「マジ?助かる。よかったな、座布団も」
こくこくと頷いている。こいつ、そんなに織物好きだったんだ。後を継ぐ仔蜘蛛が出てきてうれしいんだろうな。
大半は外に出るみたいだけど……うん、目印でも付けとくか。
見知った仔蜘蛛たちをうっかり討伐するとよくないし。
「スノウモスルァー、ちょっと繭を分けて?で、座布団。簡単にでいいからちょっと編んで」
スノウモスルァーが持ってきた繭を座布団がするすると慣れた手付きで編んでいく。これを手頃な長さで手持ちのナイフで切る。
とりあえず一番手近にいた仔蜘蛛の一匹を捕まえる。座布団にだいぶ躾けられたようで、もう俺には噛みついたりだとかしてこない。
おとなしいそいつの足に軽く座布団が編んだ紐を結わえる。……幻蚕から織り込んだ紐は簡易結界になる。
紐が外れるまで、しばらくはこいつらを守ってくれるといい。
「よし」
黒い毛並みの玄蜘蛛に白い紐はよく目立つ。これで間違えることもないだろう。
「じゃ、後はこんな感じでよろしく」
親の座布団にしてもらうのがいいだろうと思ったら、俺の前に列をなしている仔蜘蛛たち。……何でだよ。
座布団もぺこぺこ頭を下げている。仔蜘蛛たちもこの足で!というように差し出してくるしさぁ……。
結局、けっこうな時間がかかった。細かい作業でちょっと目がしぱしぱするんだけど。
白玉もちはというと、久しぶりに会った座布団にべったりだった。……これを見ると、また連れてこないといけないと思う。
「白玉もちー。ほら、そろそろ帰るよ?」
呼んでも聞こえないとばかりに遊んでいる。
「いや、別にそのまま森に残ってもいいけど」
言いかけている途中で自ら籠の中に入った。何でだよ。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るから。スノウモスルァーも座布団も……ちびたちも元気でやれよ」
巣立つ仔蜘蛛たちにもそう声を掛けて、森を後にする。
思ったより時間がかかったな……ちょっと急いで帰ろう。
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さて、ご主人が帰ってからが大変だった。
「ちびは独り立ちしても頑張る!」
「えっ?僕がちびだけど?」
……ご主人、なぜこの子たちを「ちび」と呼んだのですか?
我こそが「ちび」であると、子どもたちが取っ組み合いを始めて巣立とうとしない。
「ご主人は僕に向かって言ったもん!」
「わたしと目が合いました!」
一匹たりとも引く気配がない。どこをどう止めたらいいのか……。
巣立たずに我と一緒に織物をするという三匹だけが大人しくて助かる。
「お前たちは大人しくていいな……」
と、声を掛けると当然のように
「えっ?お父さんの後を継ぐことを選んだボクですからね。ご主人はきっとボクに向かって言いました」
「それは聞き捨てなりません!」
こちらでも喧嘩が勃発して収集がつかない。
最終的にスノウモスルァーさんが目からビームを放ち全員を黙らせた。
「ご主人から、名前をいただくに相応しい振る舞いをしなさい!そしてもっと強くなるように!」
と一喝され、すごすごと我が子たちは巣立っていった。
……逞しく育ってほしいものである。




