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続・片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww〜辺境伯編〜  作者: 康成


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春編35話「心配のみなもと」

 長かった一日も終わる……その後は大したトラブルもないし早めに帰り着いた。

「白玉もち?」

 いつもは俺が帰ってくると、ぴょんぴょん飛びついてくるのに来ないから不思議に思って籠を見る。

 いつも真っ白でふわふわしてるのに、何か妙にパサついて動きが悪いんだけど?!


「えっ、ちょっとこれどういうこと?」

『ドゥイェリパ!ルッテルッテ!』

「ちょっとそれじゃ、一つも分かんねぇ!」

 せめて知っている単語なら何とかなったのに。それか火乃……あいつ、何で帰りが遅ぇんだよ。発話はともかく、翻訳機能がないのは困る。

 精霊たちが出かけようと誘っているのは分かった。とりあえず森へ行けば何とかなるだろう。親の座布団もいるし、スノウモスルァーたちもいるから心強い。


「朝までには帰ります」と簡単なメモだけを残して外に出た。

 まだもう少し日も残っているし……ゴルディを連れてそっと森へと向かう。ジジイにこいつらの様子がバレたらヤバいと思った。

 あんだけ大はしゃぎしていたジジイだ……調子が悪そうだと知ればさらに張り切って止まらないのは分かっている。

 白玉もちのためだ。黙って出て行くのを許せ、ジジイ。



 ❖──❖──❖──❖──❖


 今日の勤務が終わり、無理を言って麓の薬店まで馬を走らせている。

 リシアンが置いていった耳飾り。完全防音機能も兼ね備えたそれを、少しだけ着けてみた。半分なので聞こえないわけではない。

 分かる、けれど何か違う。音の跳ね方、響き方。

 勤務に支障が出たら困ると、すぐに外した。


「ずっと、これで?」と思うとしばらくの間、動悸が激しかった。一定の音量以上は響いて邪魔だから、いっそのこと防音にしようと思ってとリシアンは言っていた。

 その事は、想像しか出来ないけれどきっと……居ても立っても居られず早めに仕事を切り上げさせてもらった。

 もう少し、ちゃんと話さないといけない。そして耳飾りは手放したらダメだ。これだけは嫌がられても、必ず返すと決意した。


 

「リシアン、いるっ?!」

「どうした?レオナリス」

 麓の薬店はまだ開店中で、中にいたバルドレム先生から出迎えられた。先生の様子からだと、昼間のいざこざは知らないように見えた。

「リシアンなら部屋にいるだろ。急用か?まずは落ち着け」

 部屋の場所は知っているので、走ってその扉をノックする。


「リシアン?」

 返事はなく、しんとしている。バルドレム先生も追い付いてきた。

「開けるぞ?」

 鍵はかかっていないようで、そのまま音もなく扉は開く。がらんとした部屋に呆然とする。諦め悪く暗い部屋の中を探し、バルドレム先生が声を掛けても止まれなかった。

「おい、あのバカは朝までには帰るらしいぞ?」

 机にあった置き手紙を呆れたように眺めるバルドレム先生だけど、僕はとてもそんな気分にはなれない。



 リシアンの部屋を出て、温かい飲み物が前に置かれる。薬草茶で気分を落ち着かせろということだろう。

 ゆっくりとその香りを吸い込んでから、一口ずつ口に含む。

「リシアンと何があった?話してみなさい」

 バルドレム先生にぽつぽつと今日の昼のことを話す。話しながらもずっと、落ち着かない。きっと止められるだろうけど、まだあちこち探し回りたい気持ちがある。


「腹を空かせて拗ねただけじゃねぇか……まったく。朝になればけろっとしているから気にするな」

 よくある事のようにバルドレム先生がそう言う。本当に何度かそういった事もあったようで、リシアンの機嫌は一晩経てば落ち着くのがいつもの事らしい。

「こんな事、初めてで……あんな怒って出て行くなんて」

 思い出すだけでも、胸が(きし)む。

「そんだけ甘えてるってことだ、あれは普段はああだが不器用なところがある」

 やれやれと言った感じに、余計に落ち込む。バルドレム先生の方が余程リシアンのことを理解しているように見える。


「ただ、体のことを持ち出したのはレオナリスが悪い。ただ耳飾りを置いて……ブフッ」

 その様子を想像したのか笑っている。あまりにも子供がやるような行動でおかしかったというけれど、僕は笑えない。

「そんな……でもリシアンは今すごく困っているんじゃ……」

「それはない」

 はっきりと断言されたので、僕も口を噤む。


「あいつはバカだけどな、そこまで無茶をするやつではない。少しは困っちゃあいるかもしれないが、何とかなると踏んだ上でだ。あいつは耳飾りがなくてもやれる」

 そこまで話して、少し息をついてから

 

「なぁ、レオナリス?お前は誰を見ている?」

 

 その問いに、返事は出来なかった。

「俺の知るリシアンは、お前がそこまで思い詰めるほどヤワではない。いっそ(したた)かだぞ、あいつ。悪知恵はすぐ回るし何かにつけて……」

 途中からお小言が始まったけれど、止めることなく聞く。

「ガキの頃はまぁ……庶子なりの苦労もあったかもしれんが、あいつもいい大人だ。何がそうお前を不安にさせる?」


 不安になるのは、あの時の……前世の弟とリシアンとが重なって見えたから。大丈夫だと、問題ないと言いながら逝ってしまったから。最期に彼と電話をしたのは僕だったのに。

 どちらも僕の弟だけれど……前世の弟と今のリシアンを同じに見てはいけない。リシアンは、リシアンだから。

 

「……あの子、痩せた気がするんです」

「分かった、明日から保存食以外を食わせる。見張っておこう。後は?」

「眠れてないのかクマもあって……」

「最悪締めたら落ちるはずだ。腕力ではあの小僧には負けないから任せておけ」

 少し泣きそうになりながらも、そのバルドレム先生の口ぶりには笑ってしまった。


「今日はもう遅いし泊まっていけ。向こうには俺からも言っておくから気にするな。一日くらいどうとでもなる」

 バルドレム先生のお言葉に甘えて、翌朝リシアンに会ってから帰ろうと素直に思えた。

 明日、君に会ったなら……まずは何て声を掛けようか?

「ごめんね」と言ったら、たぶん君はきょとんとするんじゃないかなぁ。あの弟みたいに、不貞腐れて「何が?」なんて言いやしない。



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