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続・片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww〜辺境伯編〜  作者: 康成


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春編19話「帰国と出国」

「それではよろしく頼む」

「お任せください。気難しい伯爵ですがね!気に入ってくれると思うんですよ」

 握手を交わす叔父上とモンテディオス国王を、なるべく微笑みを絶やさず表情を変えないままに見ている。

 なぁにが気難しい伯爵だよ、リシアンのことなのに。ある意味、難しくはあるんだけれど。

 あーあ、また怒られても知らないと思った。

 


 ◇──◇──◇──◇──◇


 エルシア第二王女をどう我が国へ連れて帰るか。張り詰めた緊張が切れたのか、侍女が他国の間諜でしかも男だったことが衝撃的だったせいか一時は気を失っていた。

 目覚めた今は気丈に振る舞っている。

「人為的な集団魔獣暴走(スタンピード)と魔獣改造か……」

 さすがの叔父上もいつもとは違って真剣な顔をしている。

「魔獣の改造とはまた(ことわり)の外を突いてきたものだね、面倒な」

 

 グラティア王国は精霊との結び付きが強い。現在の王家の祖は精霊を統べる者ということにも起因している。

 精霊の改造はもちろん使役についても一つ道を外れれば、禁忌となることを我々は知っている。ただ魔獣は精霊たちの天敵とも呼べる異なった存在。

 そちらをいくら改造しても、使役したとしても始祖の精霊の逆鱗に触れることはない。


「エルシア王女は我が国で保護したく思います。今のところは気取られていないようですが、危険なことに変わりありません。森の民の血を引くので、排される可能性は高いですよね?」

 一つ年上なのに、少女のような儚い見た目を持つエルシア王女。一人でここまでの情報を集めたことには感心するけれど、見た目に引きずられてしまう。

「私の婚約者候補とし」

「ルイたんにはぁ!まだ早いからっ!!」

 食い気味にくる叔父上。国内貴族で着々と選定は進んでいるものの、王太子の兄上と違って私の相手選びは難航しているし別にいいじゃないか。


「……じゃあ、叔父上の御相手に据えますか?犯罪臭いですけど、年の差が」

 少し棘のある言い方になってしまったけれど、叔父上は気にしていない。何かちょっと目が輝いてるし「うちの子にも反抗期が……!」とか思ってそうで嫌だ。

「年の差ねぇ……あ、丁度いいのがいるじゃん。ほら、我が国の魔王伯が二十六だしエルシアちゃんと五つ差なら許容範囲じゃない?」

「はい?」

 間抜けた声になったのは仕方がないと思う。想定外だったからだ。


「ほら、魔王伯もエルシアちゃんと同じ髪色でいい感じに共通点もあるし。王族にするとモンテディオス王家からエルシアちゃんよりあの第一王女を!とか()げ替えられるかもだしさ?その点、出自は庶子だけど辺境伯って独自の爵位は絶妙なバランスだと思わない?」

 叔父上が止まらない。そして言っていることだけは納得がいく。いくけども

「それ、確実にリシアンが嫌がるやつですよね?止められます……?」

 不安でしかない。彼の婚姻も自由だと王家が認めているのにそれを覆すのはよくないと思う。


「止めるも何もその(てい)でいくだけであって、実際に嫁がせるわけじゃないからセーフじゃないかな?」

 判定があまりにもガバガバすぎないだろうか。

「あとレオナリスくんを挟めばリシアンは大丈夫!」

 しかも人任せときた。レオナリスの胃が心配になるけれど、リシアンを制御する適任は彼しかいない。


「魔王伯って……何でしょうか?」

 不安そうに聞いてくるエルシア王女。言わんこっちゃない。だから変なあだ名で呼ぶのはよせと言っているのに。

「リシアン・ヴァルディリア辺境伯のことだよ。エルシアちゃんがお探しの魔王は彼のことだよ」

 いたずらっぽく笑って言う叔父上を押し退ける。

「ヴァルディリア伯爵家の次男ですよ。ちょっと彼は特殊なので……辺境の地を治めさせています。魔王ではないですし、我々に敵対することはありません」

 たぶん。レオナリスの手綱がついているうちは大丈夫、だが。 


  ――天と地を司る魔獣を従へし、魔を統べる者といふ者あり。

 その者現はるるとき、人々は力尽き世は闇に包まれり。


 森の民の伝承とやらを思い出すと、魔を統べる者に見えてくるので厄介だ。

 おそらくは始祖の精霊様と守護獣による裁定が行われたことを示しているのだろうけれど。天は幻蚕のことで間違いはないだろう。……地を司るものがリシアンが新たに従えている玄蜘蛛がしっくりきてしまうので、頭を振ってその考えを追い出す。

 後に叔父上が始祖の精霊様を呼び出して、伝承の確認を取っていた。地は幻蚕の幼体のことだと仰っていたとのことだが、気軽に呼び出すんじゃないと各方面から怒られていたのはまた別の話。

 


 ❖──❖──❖──❖──❖


 とんとん拍子に隣国の辺境伯へ顔合わせということで話は進んでいった。

 かの人が然程(さほど)有力でもない伯爵家の次男という出自ということもあって、誰も反対はしなかった。

 グラティア王国の手腕には感嘆するしかない。護衛は我々とともに行くので必要はないし、気難しい辺境伯はあまりに多くの侍女を引き連れると気分を損ねる可能性があること。最低限つけてもらえれば、あとはグラティア王国が護衛と侍女の負担はするとそれは鮮やかに父王を言いくるめていた。

 姉王女もあっさりと、辺境伯にはまるで興味を示さなかったことに安堵した。

 

 辺境は自国が目論む人為的集団魔獣暴走の予定地だ。私がそこへ赴くのも好都合なのだろう。

 このわずか数日で、私は生まれ育った国を去ることになった。

 離れていく宮殿に思うことは多いが、私はもう振り返らない。

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