春編14話「辺境伯お披露目」
レオ兄さんへ
先日は色々とためになる本をありがと!
ちょっと最近は忙しくて
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「領主様、そろそろ行かないと遅れますよ!」
呼ばれたので、書きかけの手紙は机に伏せて置いた。
「はぁーい」
着慣れない貴族の服は重い。ただ今日ばかりは仕方がない。
無意識に髪に伸びかけた手は
「せっかく整えたので触らないでください」
と言うクレメンテの声で止まった。……危ねぇ。髪を整えてくれたのクレメンテ。姉妹が多いだけあって、さすがの腕前だった。
何でこんなにめかし込む必要があるのかというと、領主就任の祝いと領民へのお披露目をやるから。
俺はやりたくないって言った。でもクレメンテがこれは形式上、必要なので譲れませんと折れなかった。
いつの間にやら各業種ごとの組合もまとまりを見せ、そっちと結託しやがった。
ついでに広場に出店を出すことが決まり、小規模ながらもお祭りに近い雰囲気となっている。
ここまでいくともう止められないよね。書類に不備がないか確認と最終決定権だけが次々に回ってきた。地獄だった。
挨拶だけはしないからなとごねにごねて、そこだけは勝ち取れただけでもよかったんじゃないかな。
その代わり顔見せにあちこち出歩くことにはなるんだけど。
「賑わってんね、新年祭でもないのに」
街の様子は想像以上の盛り上がりだった。
一番人集りが出来ているのはショコラの出店か。出だし上々だな。
「今日だけは貴族らしい口調でお願いします」
「えぇ……別に知らないわけでもないからいいじゃん」
話しながら歩いていると、不意に飛び出して来た人とぶつかりそうになって軽く避ける。
「すみま……貴族の御方がいらしてるとは知らず申し訳ありませんっ」
勢いよく頭を下げる、見慣れたオリーブグリーンのローブ。
「構いませんよ、頭を上げてください」
穏やかな口調と言い聞かせながらそう声を掛ける。
「ありがとうございま……す?」
マジマジと俺の顔を見つめる若手薬師。
「どうかしましたか?」
「いえっ……知人に似ており不躾な真似をして申し訳っ」
そう言ってまた頭を下げようとするから
「似てるも何も本人だからな。言ったじゃん、今日はお披露目で街に来るって」
呆れるしかねぇわ。
「は?!え、リシアンさん……あっ!」
やっと思い出したか。辺境伯の称号自体が今までにないものだし、いまいちピンとこないものらしい。
さすがに貴族だということは理解されているっぽいけど、わりと皆忘れている。
その方が楽でいいんだけど、さすがに今の反応は腑に落ちない。
「ほら、領主様。まだ行くところはあるんで行きますよ」
クレメンテが俺に貴族の自覚を持たせるため、わざわざ街の人々の前で着飾らせたということは後で知った。あと街の人々にも俺を領主だと分かりやすく示すため、だったらしい。
今の俺にはシンプルに、これ罰ゲームだよなとしか思えなかった。
行く先々で微妙な反応が返ってきて困惑する。……いっそ笑ってくれ、その方がマシだ。
久しぶりにこの地に領主がとご年配には拝まれるし、服の重たさ以上に疲れる。
けっこうなハイペースで視察だと張り切って出掛ける王弟殿下の姿が浮かんだが、あの人タフ過ぎんだろ。毎回こんな扱い受けててあのテンションなの?
王族ってやっぱやべぇなと改めて思った。
託児院にも立ち寄ることになったけど、子どもだから大丈夫だろうと思った。甘かった。
小さいのには数人、怖がられて泣かれるところから始まった。
貴族なんて見たことがないからな、そもそも。
「クレメンテ、ここだけはいつも通りじゃないとヤバいって!」
慌てたのもよくなかった。
「薬師の兄ちゃんだ?」
「変なのー!絵本の人みたい」
俺ということが分かれば、あっという間に子どもたちに囲まれた。
「ねぇねぇ!王子様って本当にこんなお洋服着てるの?あ、リシアンは王子様じゃないってちゃんと知ってるよ」
「すごーい、お洋服きれい……」
うん、王子様じゃないけど貴族とすら思われてなさそうだな。あとマジモンの王子様はもっと豪華なの着てるよ……。
助けてクレメンス。ちょっと託児院の管理者とのんびり話してないでこっちを何とか!
クレメンテと合流する頃にはもうぐったりしていた。疲れた……冒険者活動よりも薬師の仕事よりもずっとしんどい。
「やはり託児院のもう一つ増やすのが急務ですね」
「……うん」
力なく返事をする俺。
「領主様、この事はですね?」
「うん……さっきチビたちからも聞いた。やっぱ託児院に住むのと通いの二つがあっていいかもしんない。迎えが来ないと小さいのが泣いて大変らしいし……でも仲は良さそうだから、日中は一緒がいいと思うよ」
ぼーっとしたまま、つらつらと話す。
「領主様……!」
何やら感動しているクレメンテはそのままに、やっと麓まで帰り着いた。
そして最後は冒険者ギルドへの挨拶が待っている。
ギルドの扉を開けるとこちらを見てフリーズする冒険者たち、一拍遅れてドッとそれはもう盛大に笑われた。
「フハッ……リシアン?リシアンだよなぁ?!」
「えっ、何してぇっ……ブフッ」
そんなこいつらの反応がうれしい……わけもなく
「うるっせぇな!こっちだって好きでこの格好をしているわけじゃあねぇんだよ!」
ふざっけんなよ、マジで。鬱憤を晴らすように冒険者に掴みかかる俺を、クレメンテはもう止めなかった。
ひとしきり冒険者たちを黙らせたところで、椅子に座ってギルド長を待つ。機嫌は最悪だよ、最っ悪。
そんな顰め面の俺を遠くから、ルカが見ていた事は知らなかった。
『ヴァルディリア子爵……?』
そう呟いたルカの小さな声は聴こえなかった。
ギルド長が来て、彼の笑いが収まるまでさらに時間がかかった。
今日はもうレオ兄さんへの返事は書けないかな、と思いつつ遠い目をしながらギルド長が落ち着くのを待った。




