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続・片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww〜辺境伯編〜  作者: 康成


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春編14話「辺境伯お披露目」

 レオ兄さんへ


 先日は色々とためになる本をありがと!

 ちょっと最近は忙しくて


 *──*──*──*──*


「領主様、そろそろ行かないと遅れますよ!」

 呼ばれたので、書きかけの手紙は机に伏せて置いた。

「はぁーい」

 着慣れない貴族の服は重い。ただ今日ばかりは仕方がない。

 無意識に髪に伸びかけた手は

「せっかく整えたので触らないでください」

 と言うクレメンテの声で止まった。……危ねぇ。髪を整えてくれたのクレメンテ。姉妹が多いだけあって、さすがの腕前だった。


 何でこんなにめかし込む必要があるのかというと、領主就任の祝いと領民へのお披露目をやるから。

 俺はやりたくないって言った。でもクレメンテがこれは形式上、必要なので譲れませんと折れなかった。

 いつの間にやら各業種ごとの組合もまとまりを見せ、そっちと結託しやがった。

 ついでに広場に出店を出すことが決まり、小規模ながらもお祭りに近い雰囲気となっている。

 ここまでいくともう止められないよね。書類に不備がないか確認と最終決定権だけが次々に回ってきた。地獄だった。


 挨拶だけはしないからなとごねにごねて、そこだけは勝ち取れただけでもよかったんじゃないかな。

 その代わり顔見せにあちこち出歩くことにはなるんだけど。

「賑わってんね、新年祭でもないのに」

 街の様子は想像以上の盛り上がりだった。

 一番人集(ひとだか)りが出来ているのはショコラの出店か。出だし上々だな。

「今日だけは貴族らしい口調でお願いします」

「えぇ……別に知らないわけでもないからいいじゃん」

 話しながら歩いていると、不意に飛び出して来た人とぶつかりそうになって軽く避ける。


「すみま……貴族の御方がいらしてるとは知らず申し訳ありませんっ」

 勢いよく頭を下げる、見慣れたオリーブグリーンのローブ。

「構いませんよ、頭を上げてください」

 穏やかな口調と言い聞かせながらそう声を掛ける。

 

「ありがとうございま……す?」

 マジマジと俺の顔を見つめる若手薬師。

「どうかしましたか?」

「いえっ……知人に似ており不躾(ぶしつけ)な真似をして申し訳っ」

 そう言ってまた頭を下げようとするから

「似てるも何も本人だからな。言ったじゃん、今日はお披露目で街に来るって」

 呆れるしかねぇわ。

「は?!え、リシアンさん……あっ!」

 

 やっと思い出したか。辺境伯の称号自体が今までにないものだし、いまいちピンとこないものらしい。

 さすがに貴族だということは理解されているっぽいけど、わりと皆忘れている。

 その方が楽でいいんだけど、さすがに今の反応は腑に落ちない。

「ほら、領主様。まだ行くところはあるんで行きますよ」

 クレメンテが俺に貴族の自覚を持たせるため、わざわざ街の人々の前で着飾らせたということは後で知った。あと街の人々にも俺を領主だと分かりやすく示すため、だったらしい。

 今の俺にはシンプルに、これ罰ゲームだよなとしか思えなかった。


 行く先々で微妙な反応が返ってきて困惑する。……いっそ笑ってくれ、その方がマシだ。

 久しぶりにこの地に領主がとご年配には拝まれるし、服の重たさ以上に疲れる。

 けっこうなハイペースで視察だと張り切って出掛ける王弟殿下の姿が浮かんだが、あの人タフ過ぎんだろ。毎回こんな扱い受けててあのテンションなの?

 王族ってやっぱやべぇなと改めて思った。


 託児院にも立ち寄ることになったけど、子どもだから大丈夫だろうと思った。甘かった。

 小さいのには数人、怖がられて泣かれるところから始まった。

 貴族なんて見たことがないからな、そもそも。

 

「クレメンテ、ここだけはいつも通りじゃないとヤバいって!」

 慌てたのもよくなかった。

「薬師の兄ちゃんだ?」

「変なのー!絵本の人みたい」

 俺ということが分かれば、あっという間に子どもたちに囲まれた。

 

「ねぇねぇ!王子様って本当にこんなお洋服着てるの?あ、リシアンは王子様じゃないってちゃんと知ってるよ」

「すごーい、お洋服きれい……」

 うん、王子様じゃないけど貴族とすら思われてなさそうだな。あとマジモンの王子様はもっと豪華なの着てるよ……。

 助けてクレメンス。ちょっと託児院の管理者とのんびり話してないでこっちを何とか!


 クレメンテと合流する頃にはもうぐったりしていた。疲れた……冒険者活動よりも薬師の仕事よりもずっとしんどい。

「やはり託児院のもう一つ増やすのが急務ですね」

「……うん」

 力なく返事をする俺。

「領主様、この事はですね?」

「うん……さっきチビたちからも聞いた。やっぱ託児院に住むのと通いの二つがあっていいかもしんない。迎えが来ないと小さいのが泣いて大変らしいし……でも仲は良さそうだから、日中は一緒がいいと思うよ」

 ぼーっとしたまま、つらつらと話す。

「領主様……!」

 

 何やら感動しているクレメンテはそのままに、やっと麓まで帰り着いた。

 そして最後は冒険者ギルドへの挨拶が待っている。

 ギルドの扉を開けるとこちらを見てフリーズする冒険者たち、一拍遅れてドッとそれはもう盛大に笑われた。

「フハッ……リシアン?リシアンだよなぁ?!」

「えっ、何してぇっ……ブフッ」

 そんなこいつらの反応がうれしい……わけもなく

「うるっせぇな!こっちだって好きでこの格好をしているわけじゃあねぇんだよ!」

 ふざっけんなよ、マジで。鬱憤を晴らすように冒険者に掴みかかる俺を、クレメンテはもう止めなかった。


 ひとしきり冒険者たちを黙らせたところで、椅子に座ってギルド長を待つ。機嫌は最悪だよ、最っ悪。

 そんな(しか)め面の俺を遠くから、ルカが見ていた事は知らなかった。

『ヴァルディリア子爵……?』

 そう呟いたルカの小さな声は聴こえなかった。

 ギルド長が来て、彼の笑いが収まるまでさらに時間がかかった。

 今日はもうレオ兄さんへの返事は書けないかな、と思いつつ遠い目をしながらギルド長が落ち着くのを待った。

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