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続・片耳から「ピニャー」って聞こえるけど、俺にしか聞こえない精霊言語だったwww〜辺境伯編〜  作者: 康成


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春編13話「紅鱗鮭」

 ルナリアへ


 貴族学院への入学準備は進んでる?

 辺境に遊びに来たい気持ちは分かるけど、ちゃんとフェルネス夫妻から許可をもらってからおいで。

 珍しい魚の鱗が採れたので、そちらに送ります。商会で加工してもいいんじゃないかな?

 また話を聞かせて、待ってるから。


 *──*──*──*──*


 さて、本日は湖に魚釣り。辺境大森林の奥地には湖がある。

 ここでは珍しい魚もよく釣れる。たまに料理人や釣りが趣味の人が、冒険者に護衛依頼を出してまで行くこともあるくらい。

 目当ては次の新年祭の時にギンさんとカルパッチョを作る予定だから紅鱗鮭(ルージュイルサルモ)という魔魚。こいつはめっちゃうまい。でもあんま釣れない。

 狙うにはもう少し、雪深い時期のがよかったかもしれない事も懸念。


 まぁ釣れたらラッキーくらいの軽い気持ちで。別に今日は魚を食べたい気分ってだけで、釣れたら何でもいい。

「さてと」

 取り出したのは伸縮式の釣り竿。長いと邪魔だし木に引っ掛かるからな。

 糸は……とりあえず紅鱗鮭狙いということもあり、強度がほしいからお蚕さんに貰った繭の糸。


 澄んだ湖面からは、魚影がちらほらと見える。

 餌は地竜の粉末を練り込んだ団子。準備は万端だ。

 とりあえず見える範囲の魚影目掛けて釣り竿を振る。

……そして、水飛沫(みずしぶき)をあげながら逃げ惑う魚の姿。


「何でだよ?!」

 魚が見たことない動きをしてた。

 そして手元を見つめる。ちょっと久しぶりの釣りだけど、変えたのは糸と餌。

 引き上げた釣り針にまだ残っている団子を、(むし)り取って投げてみる。

 ポチャンと軽い音がして間もなく、魚たちが集まってきている。餌に問題はない。


 ということは……釣り竿を振るい針が着水するやいなや、せっかく集まっていた魚たちは我先にと逃げ出していった。

「……」

 無言で糸を、絡まないようしっかり丸めながら(ほど)いて……今まで使っていた物に交換した。

 精霊たちが俺の様子を見て笑っている。


『ふふっ……!リシアン、今度は何してるのー?』

『あーあ。お魚、怖がっててかわいそー!』

 いけると思ったんだよ、いい感じに強度もあるし!

 

 しかし、その後も一向に釣れない。というか、警戒されてんのか届く範囲に魚が来ない。

 ヤバい。まだ魚に合わせるための薬草も採ってないし、夕方には薬店の開店準備もある。

 仕方がない、最終手段だ。

 精霊たちを呼び寄せる。

「お前ら、手伝ってください」

 頼むのは何か(しゃく)だけど、背に腹は代えられない。

 

『仕方ないなぁ、リシアンは』

『もう!いつもは狩りに手出しするなーって言うくせにぃー』

 にやにやしてドヤった顔が腹立つな、こいつ。

 だから最終手段なんだよ!

 まず水の精霊と風乃が湖の水流を操る。渦を巻きながらくるくると魚たちが集められていく。

 色とりどりの魚が、リング状になった水を泳いでいる。

……水族館?やたら展示がオシャレなタイプの。


 現実離れした光景をしばらくぼんやり眺めていた。あの鮮やかな朱色は目当ての紅鱗鮭……って、多いな?!

『ほら、リシアンどのお魚にするのー?』

 木属性の精霊が蔦を網のように伸ばして待ち構えている。

「あの朱色のやつ」

『はーい!』


 そして網の中でビチビチと盛大に暴れる紅鱗鮭。

 一尾混ざった暗褐色のはメスか。こっちは逃がそう……。獲り過ぎはよくない。

「ありがと。こんくらいでいいから、残りは湖に返してあげて。それにしても、紅鱗鮭が多くね?」

『うん。いつもより多いねー。でもリシアン、これがほしかったんでしょ?』

 それは、まぁ……そうなんだけど。


 何か引っ掛かるけど、とりあえずは目の前の紅鱗鮭に集中しないといけない。

 ガチガチを歯を鳴らして臨戦体勢だ。これを包めるくらいの水球を出して、包む。

 そして、ゆっくり火魔法で水温を上げていく。凍るほどに冷たい水を好むので、温水になると動きが鈍くなるんだよな。

 じわじわと動きが緩慢になっていくのを見て、頃合いかなと水温を上げるのを止める。

 さて、あとは薬草をちょっと採って帰ろ。


 

 ◇──◇──◇──◇──◇


「こんな時間まで、何をしていたんですか?」

 帰宅早々、お出迎えはクレメンテ。いや、ごめんって。目当ての薬草も思ったより生えてなくてつい寄り道を。

「薬店の開店時間には間に合っ」

「この書類は領主様の分ですからね?今日中です!」

 えぇー……マジか。てか、分厚くね?


「リシアン様、お帰りでしたか!」

 にこにこと駆け寄ってくるのはジャスウェル。

「いいところに来た!ちょっと店番してくんない?!」

 何度か目を(またた)いてから、それは嬉しそうに快諾された。


 そこからはクレメンテが付きっきりで、ひたすら書類仕事に追われることになった。

 座りっぱなしって苦手。普段は立ってるか動いてることが多いからなぁ。組んだ足をゆらゆらと揺らして書類に目を通していく。


 全て終わったのは夕飯の時間すらとっくに過ぎた頃だった。

「……はい。確認しましたが問題はありません」

「リシアン様、お疲れ様です!」

 ジャスウェルがまだいた事に驚く。大方の冒険者たちがやって来る時間も過ぎたし、もう閉めるか。

「それでは」と帰ろうとする二人を呼び止める。


「ほんっと、今日はごめん。お詫びに……すごくいい魚が獲れたから、夕飯は(おご)るから付いてきて!」

 クレメンテとジャスウェルは少し目を見合わせてから、頷いてくれた。

 こっちこっちと二人を連れて来たのは、俺の行き付けの店。薬店に帰る前に「一尾あげるから残りも(さば)いといて!」とお願いしていたところでもある。

 ここの元冒険者の店主なら、紅鱗鮭の解体もお手の物。


「頼んでたの出来たー?あと今日はお客さんも連れて来たから!」

「リシアン!」

 皆、人の顔を見るなり怒鳴るのはやめてほしい。

「紅鱗鮭はありがたいが、せめて事前に持ち込むなら言ってくれ!仕込みの時間が変わってくるんだからな?あと……薬にならない素材だと思うと放置しようとする癖もやめろ。この鱗はお前の取り分のだから、ちゃんと確認しておけよ!?」

 それだけ言って、忙しいとばかりにそそくさと厨房へ戻った店主。


 せっかちな店主だが仕事は丁寧で、綺麗に洗われたキラキラと輝く朱色の鱗。半透明なそれは袋いっぱいにぎっしり詰まっていた。

「わ、紅鱗鮭の鱗ですか。妻が喜びそうです……」

 ほう、と溜め息をついてジャスウェルがそう言う。

「何で?魚の鱗だけど……」

 まぁ、色は綺麗なんだけどなー。


「紅鱗鮭の鱗は高級化粧品の材料なんですよ、領主様。……確かに辺境では見かけませんね」

「え、何でクレメンテも詳しいの……?」

 めっちゃ意外なんだけど。あ、辺境マダムと仲が良いのってもしかして……そっか。うん、そうだとしたらこっちでは自由にしてもらおう。

 

「……クレメンテ。俺はお前がいきなり化粧を始めても、ドレスが着たいと言っても決してバカにしたりしないから」

 もしバカにするようなやつがいたら締めとこうと決意する。

「いきなり何を言っているんです?姉が三人、妹が一人……嫌でもその手の情報は入ってくるのですよ」

 心底呆れたような、本当に何を言ってるんだ?って目をしていた。

 

 冒険者向けの店だが貴族な2人も「おいしい」と皿へ伸びる手が止まらなかったし、素材の勝利ということだろう。

 次の新年祭にはやっぱ紅鱗鮭をギンさんへの手土産に持っていこう。

 余った鱗は……そうだな、グラデーションになった淡いピンク色にかつての義妹が浮かんだのでフェルネス家に届けておこう。商会もやっているし上手く使ってくれるだろう。

 ほどよく脂の乗った肉厚な最後の一切れをパクリと口元に運んだ。

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