91 思いがけないお誘い
いつものように食堂の隅の席で夕食を食べながら、マリちゃんはジェニファに、さっきまで私の部屋で何をしていたのか話した。
魔法を使うための衣装を考えていただけなのだが、ジェニファにはちょっと違った風に受け取られたらしい。
それはいいことだわ、とジェニファは言った。
「王宮に上がるのに制服で行く、って前に話してたでしょ、それって大丈夫なのかなって気になっていたの。過去に制服で御前に出た生徒はいたけれど、それは学院としての威儀を示すために学院の指示でされたことだったってきいたから、今回シホちゃんが個人でそうするのとはわけが違うなって。それに、服の話はちょうどいいかも」
「何?」
私が訊ねると、ジェニファは少し緊張した様子で、
「あのね、今度の私の誕生日、誕生日パーティをするの。それに来てほしくって。マリちゃんもよ。どうかな?」
私は二つ返事で了承しようとしたのだが、それよりも先にマリちゃんが心配そうに訊いた。
「あの……、それって子爵家のパーティっていうことよね?私たちみたいな平民が行って大丈夫?」
「大丈夫!母様も父様も是非来てほしいって言ってるし。……それに、正確に言うと、子爵家のパーティというのとも少し違うのよ。私たち家族と近い身内だけでやる感じの、ささやかなパーティにする予定なの」
「近い身内って、おじいさまとかおばあさまとか?」
「そう。母方の身内が中心になるかな。父方の祖父母は亡くなっているし、父のきょうだいはこの前の連休のときにちょっと揉めてて。それで、母方の親戚だけが集まることになったの」
ジェニファの母方。
私は嫌な予感がしたが、期待を込めた視線でマリちゃんが私を見てきて、
「ねえ、行ってみない?」
と言ってきたので、とりあえず頷いた。まあ、ジェニファの家族は知り合いではあるし、少し面倒くさいことがあるかもしれないが行って悪いことはないだろう。
ジェニファは大喜びで、
「パーティの後は泊まっていってね。……私、今までそういう催しってやったことなくって。成人を期にやっていいって言ってもらえたの」
んーっと、それはちょっとどうかな?それって貴族の家に泊まるってことだよね?
私とマリちゃんは顔を見合わせたが、ジェニファが、
「いいでしょ、だって二人ともうちの遺跡に泊まったんだし。それと似たようなものよ」
と言うので承諾することにした。
話がまとまるとマリちゃんはそれまでと打って変わって弾けるような笑顔で言った。
「じゃあ、そのパーティに着ていく衣装を考えないとね!」
ジェニファも頷いていたが、相変わらず姿を消したまま私の肩の上に停まっているシュルが、私にしか聞こえない程度の声で、クルル……と鳴いたのが気になった。何か言いたいことがあるというのはわかるが、何を言いたいんだ。
夕食後、私たちは解散した。マリちゃんは私の部屋に来るかと思ったが、私の衣装を考えるのはまた明日にしようと言った。
「いろいろ考えが浮かんでいて、それをまとめておくから。また明日ね!」
本当にドレスを考えたりするのが好きなんだなあ、と思いながら私はマリちゃんの背中を見送る。
自室に入ると、ホリィがすぐに服のポケットから飛び出てきた。
ホリィはくるくると部屋の中を飛び回っている。
「いやー、良かったわー、あんたが変身してくれる気になって」
「悪かったわよ。そんなに心配かけてたなんて、思わなかった」
「そうよー、心配してたんだからね。本当に、前世の話ができる相手なんてそうそういないんだからさー」
そこで私はにやりと笑った。
「しかも、アニメの話で盛り上がれる相手なんてね?」
「それは……まあ。前世でも周りにそんなにいなかったし。いや、いたかもしれないけど、前世の私は引っ込み思案で研究しか頭にない人間だったからわかりようもなかったし。いやー、同好の士がいるっていいわー」
「前から言ってるけど、私、そこまでオタクじゃなかったからね?」
「いいわよ、私にすれば十分よー。だって私が言うアニメのこと、全部わかるじゃない?」
「それはたまたまね」
つまり趣味が一緒だったっていうことだ。
「ところでさ、さっき食堂でシュルが鳴いてたけど、あれ、何て言ってたの?」
「ああ、あれ?あれはね、修行して羽衣を使いこなさないと変身できないんだけど、って言ってたんだよ」
私は何も言えなかった。そうだった。確かにそう。
「でも、今までは変身する方向で羽衣を使おうとはしていなかったから。明日からはそっちの方向性で頑張るんで」
「そうねー、今までは変身しないままで魔力を操ってやろうなんていう無理筋なことをしようとしてたからねー。それに比べれば楽なはずよ」
それをきいて私は安堵の息をついた。
が。
翌日の放課後、学院の練習場で私は変身しようと一生懸命イメージを練っていた。だが、羽衣は全く反応しなかった。
ドレスのデザイン画を沢山用意してきたマリちゃんも、私が変身できて魔法を使えるようになったらアドバイスしようとついてくれていたジェニファも、何も言えなかった。
私は途方に暮れた。どうすればいいのか?




