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89 経験者の話

  午後、私はクラリィ婆ちゃんの家に顔を覗かせた。

 目的は、ルートヴィヒから話をきくこと。

 勿論、ラヴィの鱗の選別をするというつもりではあったのだが、魔法と魔素術の両方を使える人間から、両者を使うときにどういった違いがあるのか、具体的にきいてみたかったのだ。

 婆ちゃんの家を訪ねてみると、家に置かれた鱗は先週から飛躍的に量が増えていた。鱗が詰まったたくさんの木箱を前に私が呆然としていると、ルートヴィヒが声を掛けてきた。

「ああ、ちょうど良かった。午前中に買ったパンをお供にお茶にしようと思っていたところだったんです。貴女が選んだパンも入っているから、呼びに行こうかとクラリィと話していたんですよ」

 クラリィ婆ちゃんは奥の竈場で湯を沸かしているところだという。

「魔素術で湯なんて沸かせるでしょうに、律儀に薪で沸かしているんですねえ」

 少し小馬鹿にしたようにルートヴィヒが言う。私は訊ねた。

「貴族の家では違うんですか」

「いえ、貴族の家でもやっぱり薪だと思いますよ。私は実家にいた頃は台所になんて入ったことはなかったのではっきりとはわかりませんけど、今思えば、不必要に魔素まみれになった食べ物や飲み物は出ませんでしたねえ。ただ、自分で料理をし始めてからは、火を熾すのにかなり手間だと感じましてね、以後は魔素術を使うようにしていました」

「んー、できるのであれば、着火だけはどの家でも魔素術を使っているんじゃないですか。ただ、火熾しに魔素術を使うっていうのが、魔素の扱いにそれなりに長けていないとできないことだから、どの家でもできるわけじゃないと思うけど」

 ごく小さな種火だけを出すというのは案外難しいのだ。

「魔素を思い切り放つ方が簡単だなんて、魔素術も魔法と同じなんですねえ。魔法も、魔力を思い切り放出して大きな術を使うより、魔力を細やかに調節していく方が格段に難しかった」

 ルートヴィヒの言葉に乗っかって、私は質問した。

「魔法を使うときと魔素術を使うときって、どう違うんですか」

「どう、とは?」

 思い切り不思議そうにルートヴィヒは私を見返す。そんな質問が出てこようとはまさか思ってもいなかった、という風に。

「そのままの意味です。魔法を使うときと魔素術を使うときと、どこか違う感覚を使うんですか」

「……そういう質問をする、ということは、もしや貴女は魔法を使うことに興味がある?自分でも魔法を使えないかと思っている?」

 ルートヴィヒは心底愉快そうに口元を歪めた。私は警戒しながら訊ねる。

「そんなにおかしなことですか」

「それはそうですよ。今日パン屋から帰ってくるときに言ったでしょう、貴族と平民は人間の種類が違うのだと。平民は謂わば古い種類の人間で、魔素を扱う能力しか持っていない。貴族は神々によって作り替えられ、魔素を扱う能力に加えて魔力を扱う能力も与えられた。能力、というかそれを扱うための器官、というかな。目に見えはしないけれど、そこには確かに違いがある。だから、平民である貴女に魔法を使うことはできない。それこそ、千本杖が生まれたときみたいに作り替えられたりしない限りはね」

 私はルートヴィヒの言葉に考え込む。作り替えられたりなんかしなくても、羽衣を使えば魔力を発することはできている。

「魔法って、魔力が出せれば使えるんですよね?」

「まあ、そうですが……。いやに熱心に聞いてきますね?」

「……これ、私の知り合いの話なんですけど。魔力は出せるけど、魔法を使えるってところまでは行っていない人がいるんです。それって、どうしたらいいんですか」

「んー、それは、魔力は出せても操れていないんでしょうね。小さな子どもが習い始めにそういうことがあったりするものだけど」

「そういうときって、どうするんですか?」

「どうって、ただひたすら練習、かな。結局魔力を操って魔法を使える自分を想像できるかだし」

「知り合いはその状態から変化がないんですけど」

「どれくらいの期間そうなの?」

「えっと……一ヶ月とか?」

 ルートヴィヒは大笑いした。

「それはまだ悩まなくていいと思いますよ。出来なくても普通です。私が知る限りで一番長くかかった子どもは、一年半ほどその状態で足踏みしていたし」

「一年半?そんなに長く?」

「勿論、大半の貴族の子弟はもっと短いですよ。というか、そんな停滞を感じないですぐに魔法を使えるようになる者が大多数だ。感覚的に使えるようになるものだし」

「そういう風に停滞してしまう子どもとそうでない子どもの違いって何なんですか」

「さあ。個人差、としか。魔法の大家を出したような家の子でもそうなってしまうことはあったし」

「貴方自身はそういう苦労はしなかった?」

「勿論。魔法を使うのにも魔素術を使うのにも苦労したことはありませんよ」

「魔法と魔素術、どちらを先に使い始めたんですか」

「勿論魔法ですよ。貴族の家に生まれた者にとっては、魔素術を最初に習うという選択肢はないから。私が魔素術を使い始めたのは、八歳くらいからですね。その頃には考えられる限りの魔法は使えるようになっていたから、そうなると、次には魔素術を極めようというのは当然のことではないですか」

「当然じゃないと思いますけど。魔法の達人が皆魔素術を学び始めるわけではないし」

「でも、治癒術を身につける者は結構いるでしょう。あれも魔素術の一種ですよ」

 それはそうだ。

「魔素術を学び始めたときも全く苦労しなかったと言いましたけど、本当に?魔法と魔素術、使う器官が違うと言いましたよね」

「まあね。でも本当に苦労しなかった。それこそ自然に魔素術を使えるようになった。尤も、それが当たり前だとは思わないように、とは当時の魔素術の師匠には言われたけれど」

 全く参考にならない、というのが私の感想だった。ルートヴィヒの話しぶりでは、魔法は貴族にとっては自然に使えるようになるものらしく、そして魔素術をも自然に使えたルートヴィヒにとっては、両者を使うときにここが違う、みたいなものは存在しないようだった。

 ……これって、タロちゃんに改めて話をきいても、埒が開かなかったりするんだろうか。

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