85 クロウの義兄のしつこさに対応する
「待ってくれ。話があるんだ」
クロウの義兄に言われて、私は思わず顔をしかめてしまった。部屋の入り口にはそこに立ち塞がるようにいつの間にか侍女が立っていた。あー、これはどうしても話をきかないといけないか。
私は腰を下ろした。それを見て、クロウの義兄が言う。
「話というのは、他でもない、クロウの従者の件なんだが。クロウは宴に従者を連れていく気にはなってくれた。お前と話をした、と言っていた。感謝する」
「じゃあもう私に言うことないんじゃないですか」
「それがだな、あいつは家がつけようとする者を拒否するんだ。代わりに、同級生の家の騎士を連れていく、と言う。そんな面子の立たないことが通るわけがないのに、曲げようとしない。何とかお前から言ってくれないか」
私は思い切り渋面を作った。
「何で私が」
「クロウはお前には一目置いているようなんでな、そのお前が言うことなら聞き入れるだろう」
「知りませんよ、そんなの。従者を連れていくのを受け入れたのだって、私が言ったから、と言うよりは、私が本当は従者を連れていくんだってことを知ったからだし」
クロウの義兄は驚いた様子を見せた。
「お前、フロリゼル・テウル・ガリエスを連れて行くことを言ったのか」
「そうじゃないと収まりそうになかったんで。勿論、口止めはしましたけど。理由を言ったらものすごく納得してたし。とにかく、あなたのおとうとさんはちゃんと考えているんですから、口出しするのをやめたらどうですか」
「ちゃんと考えていたら、他家の、しかも子爵家の騎士を連れて行くなんて結論を出したりはしないだろう」
「子爵家?もしかして、ラウトゥーゾ子爵家ですか?」
ジェニファがクロウに、タロちゃんを連れていくように言っていたが、まさかそれが本当になったとは知らなかった。
「まさか、お前、知っていたのか?」
「いや、そういう話が出ていたのは知っていたんですけど、本当にそうなるとは思わなかったというか。でも実際のところ、いい話だと思いますよ。彼が連れて行こうとしているのが私が知っている人だったら、魔法も魔素術も使えて腕が立つし」
「そんなことをクロウも言っていた。だが、信じられるものか。両方使える人間は、どっちつかずで中途半端な腕前になるものだ。そもそも、クロウが言うような騎士は、ラウトゥーゾ子爵家には存在しない。枠外で雇っているのかもしれないが、そんな腕の立つ人間を枠外に置いておくなんて、まともじゃない。何か後ろ暗いところがあるに違いない」
「後ろ暗いって何ですか。タロちゃんはラウトゥーゾ子爵家で重宝されてますけどねえ。王宮に出入りだってしているし」
「王宮に?」
クロウの義兄は眉間に深い皺を寄せた。少し考え込む素振りを見せた後、首を横に振る。
「お前が言うのは、子爵令息が神祇庁に勤めているから、その従者として王宮へ同行しているということだろう。それくらいなら、枠外の者でも可能だ」
「でも、矢鱈な人は王宮への出入りなんて認められないんじゃないですか、たとえ誰かの付き人だとしても。まあ、私は別にどっちでもいいんですけどね。タロちゃんは信頼できる人だって知ってるし、腕が立つのも違いないし。私にとってはそういう人だから、たとえタロちゃんに何かの事情があるとしても、関係ないです。ついでに言うと、クロウがタロちゃんを従者として宴に連れて行こうが行くまいが、それもどうでもいいです。クロウにはタロちゃんがついていった方がいいとは思うけど」
「お前、本当にその騎士を知っているんだな。……それなら話が早い。そいつに会わせろ。直接会って見極めてやる」
私は顔をしかめた。
「クロウにつける従者の見極めをするのはそちらの自由ですけど、何で私がその仲介をしないといけないんですか。クロウに言えばいいじゃないですか」
「俺が会いたいと言っても、あいつは頑として受け入れないんだ。先方の了解が得られるかわからないからとか言って。子爵家が伯爵家である我が家の頼みをきかないわけがないのにおかしなことを言って」
いや、別にそれおかしなことないでしょ……。何か、貴族のこういう振る舞いって慣れないなあ。
クロウの義兄はぶつぶつと、そいつはどんな男か、いつ頃会えるか、等訊いてきたので、私はふと思いついて言った。
「もしかしたら、今日今から行ったら会えるかもしれませんよ。案内しましょうか?」
タロちゃんの方の都合があるかもしれんが、それは知らん。




