78 マツカサリュウとの交流について
アンリウォルズ先輩とクロウの義兄は帰っていった。
私は呆然として椅子に座ったままでいた。クロウを説得するとか、何でそんな面倒くさいことを私がしないといけないんだ。
ガリエス先輩が気遣わしげに私に話しかけてきた。
「えっと……、一人で事に当たろうとしなくていいから。俺も手伝うから」
「そうだよー、シホちゃん。俺らも頼ってよ。とりあえず、フェドール伯爵家の噂の養子に紹介してよ。そこから親交深めればさ、何で従者を連れていかないのかとか聞き出したりして、うまい具合に話を持っていくから」
「……なんか、ファラーグ先輩みたいなのを紹介したら、却って態度が硬化しそうな気がするんですけど」
「なんだよ、それ。俺みたいに話しやすい先輩、そうはいないでしょ」
話しやすいっていうのかなー、それ。ただ軽いだけに思えるんだけど。
とりあえず、週があけたらクロウに話すことにした。先輩たちを紹介するかどうかは、マリちゃんやジェニファにも相談してみよう。
「あら、お話は終わったの?」
魔法部部長のシェーデ女史が部屋の入り口から顔を覗かせた。この人は伯爵家令嬢の三年生で、平民を無碍にすることのない人だ。
ファラーグ先輩がへらりと笑って言った。
「終わりました」
「そう。じゃあ、会議室に集まって。ラヴィの、マツカサリュウの世話のことについて話し合うから」
「話し合い、ですか」
私の問いに、女史は頷く。
「そう。ちょっとマツカサリュウの状態がいつもと違っているから、注意事項が来ていて」
「いつもと違っているって何なんです?しばらくラヴィは姿を見せてなかったですけど、何かあったんですか」
「あなたたちも聞いてるでしょ、一年生のオリエンテーションのときにおかしな出来事があったって。そこのアリス・ゼンさんは実際に巻き込まれてるわよね」
「あ、はい」
「そのときにマツカサリュウの尻尾が短くなってしまっているんですって」
「それって、直るんですか」
ガリエス先輩が訊ねると、女史は肩を竦めて見せた。
「どうなのかしらね。まあとりあえず、会議室に来て」
私たちは会議室に移動した。会議室といっても部室の中で一番大きな部屋のことで、部員しか入ってこない場所だ。そこには既に十人程度の部員たちが集まっていた。当然のことながら全員が浅葱色の制服を着ている。臙脂色の制服は私一人だ。そして部員たちは私などいない者のように振る舞った。
それは今に始まったことではないので、今更傷つくこともないのだが、ガリエス先輩は私を壁際の籍に座らせると、自身は私を他の生徒から庇うような位置に陣取って座った。それを見ていたファラーグ先輩が苦笑しながら更にガリエス先輩よりも前に腰掛け、他の部員から私に不躾な視線が通らないようにと目を配っていた。
んー、この過保護な感じ、むずむずするわー。
女史は全員が椅子に座ったのを確認すると、話し始めた。
「ラウトゥーゾさんがまだだけど、始めましょう。ラヴィは今、傷ついた体を神々の元で癒しているところです。最初の予定では年が明けた頃に回復することになっていたのですが、先週神使様から学院に連絡があったところによると、来月中には直りそうだということです。回復したらテッサ山脈のラヴィの縄張りに戻ってくるということですので、来週から順番でテッサ山脈に観察に行くことにします」
「神使様の方からラヴィが直ったという連絡は入らないんですか」
二年生の部員が訊ねた。ナイス。私も同じことを疑問に思ったところだったんだ。
「神使様から連絡が入ることにはなっていますが、いろいろと取り込んでいるので、ラヴィが直ってすぐに連絡できるかどうかはわからないということでした。なので、神使様からの連絡が遅れても対応できるよう、私たちは自主的に様子を見に行くことにしようと思います」
話し合いはそれから、誰がどの日にテッサ山脈に行くか、ということになった。転移陣が使える人がいないと話にならないので、まずは転移陣が使える人から当番の日を割り振っていく。
転移陣を使えるのは、部員の中でも部長とガリエス先輩を含めた四人ほどだった。四人の担当の日が決まるとすぐに、ファラーグ先輩が言った。
「俺とアリス・ゼンはフロリゼルと一緒の日に行くよ。それと、ジェニファも。フロリゼルの当番の日はもうそれ以上人はいらないでしょ」
部員たちの間から不服の声が上がった。が、部長は取り合わなかった。
「わかったわ。ガリエス君の日の同行者は締め切りね。それでは、別の日の同行者を決めましょうか」
部長の手腕により、間もなくラヴィ観察隊の陣容は決まった。ガリエス先輩の最初の当番の日は、来週の水曜日になった。火曜日と木曜日は放課後に私の課外授業が入っているので、そこは避けて入れてくれたのだった。ありがたい。
翌日の土曜日、私は自宅に帰った。マリちゃんも一緒だった。土日は基本的に家に帰ることになっているのだが、マリちゃんは今まで帰っていた伯父の家に帰ることを拒み、かといって会長のところだと連れ戻されるかもしれない、ということで、うちに泊まることを希望したのだった。勿論、マリちゃんの事情については予め手紙で知らせ、我が家に泊まることについて両親からの了解はもらっている。
その日はマリちゃんは王宮に行く日だった。私の家に王宮からの迎えが来た。私は家の前に出て、馬車に乗ってマリちゃんが去っていくのを見送った。それから家に入ろうとして振り返り、クラリィ婆ちゃんの家の前に見知らぬ男が立っているのに気付いた。




