79 最近このパターンが多い気がする
その男は長い白髪を後ろに束ね、人形師がよく着る白い上っ張りを着ていた。男の髪は白いが顔を見ると若い。そして美形である。……なんか、本当にこういうパターンが最近多いな。まさかこの人もガリエス家の関係者なんだろうか。
まじまじと男を見つめていると、向こうはにっこりと笑って話しかけてきた。
「君が、シホさんかな。ターンさんの娘さんの」
「そう、ですけど」
言いながら、この男は何者だと警戒心を抱く。纏っている魔素の感じが、錬られている感じもありながら、それでも制御の仕方が他の人とは違う感じもする。
男はにこやかに言った。
「初めまして、私はクラリィ師のところに手伝いで入っている人形師だ。今日も手伝いに来ていてね」
「手伝い、ですか」
「そう。マツカサリュウの鱗の選別をやっている」
私は驚いた。ラヴィの修復に携われるなんて、かなりの腕前ということだ。上師以外にもこんな人がいたんだ。
そのとき、クラリィ婆ちゃんが家の中から出てきた。
「ルートヴィヒ、何を勝手に出ていってるんだい。……おや、シホ、帰ってたのかい」
「ああ、うん。さっき帰ってきた。マリちゃんも一緒だったんだけど、王宮の迎えが来てて、もうそっちに行っちゃった」
「あの子がかい?……わかった、ちょっとそっちに話しに行こう。ルートヴィヒ、お前は作業を続けてな」
「わかりましたよ、了解です。シホさん、それではまた。お友達のこともいずれ紹介してください」
にこやかに男はクラリィ婆ちゃんの家に入っていった。
ため息をつきながら婆ちゃんは男を見送る。男が家の中に入るのを見届けてから、婆ちゃんは私と一緒に私の家に入っていった。母がすぐに出迎えてくれる。
お茶を一緒にしようと言う母の申し出を婆ちゃんは断った。私と二人で話したいことがあるから、部屋を使わせてくれ、と言う。
私はそれじゃ自分の部屋で話をしよう、と誘った。婆ちゃんは了解した。
「それで、さっきの人って何なの。人形師って言ってたけど」
階段を上がりながら早速と訊ねる。婆ちゃんはため息をついた。
「まあ、人形師には違いないね」
「ラヴィの修復を手伝ってるって言ってた。そんなに腕がいいの。でもあの人、上師じゃないよね?」
「ああ……まあ、詳しいことはお前の部屋で話そう」
私の部屋に入り、婆ちゃんと私はラグの上に腰を落ち着けた。私の服のポケットからホリィが飛び出し、肩の上のシュルが姿を現す。
神使がニ体現れても婆ちゃんは特に反応することなく、さっきからの話題を続けて言った。
「あの男は、人形師だよ。それも、すこぶる腕がいい。上師ではないが、それに匹敵する腕前がある。というか、協会長に次ぐくらいの力かな」
「へー、それって凄いじゃん。……何で婆ちゃん、浮かない顔してんの」
「そりゃそうもなるさ。あの男は私の師匠の兄弟子でね」
「婆ちゃんの師匠の兄弟子?」
あんなに若いのに?婆ちゃんは私の考えていることがわかったのだろう。
「お前さんの言いたいことはわかるよ。でも、間違いない。何十年も前に失踪して、もう死んだだろうと国の手続きも全部して、遺体はないけどまがりなりにも墓まで建てられて、でもその当人が若いままで帰ってくるなんてね」
「そんなことあるわけないでしょ」
「あるんだよ。あれを連れてきた神祇庁の職員の話では、あの男は長いこと、自分が作った人形に取り憑いた魔が作った空間にいて、年を取らないままでいたらしい」
「何でそんな人がこんなところにいるの」
魔と関わっていただなんて、王宮からすると重罪人じゃないか。牢屋とかに入るものなのでは。
「王宮の方で厳しく取り調べたそうなんだよ。本人は知っていることは話し、でも罰を受けさせるにも特に本人は何もしておらず、やったことといえば精巧な人形を作ったくらいだ。自分の作品にたまたま魔が宿ったからといって罰することはできない、それは人形師と王宮との取り決めで遥か昔に決まっていることでね。かといって本人を野放しにもできない。それで、どういう方法か知らないけど、あいつに魔法を使えないよういさせて、後は人形師組合で面倒を見ろ、とさ」
話を聞きながら、私は目眩がしてきていた。あの髪の色とか精巧な人形を作った、とか。あとは、
「あの人の名前、ルートヴィヒって言った?」
「そうだよ。ルートヴィヒ・ドスポリフ、と名乗ってる。偽名だけどね。元は貴族だ」
「あー、もしかして、貴族だったときの家名はガリエスとかいう?」
婆ちゃんはため息をつきながら頷いた。
「そうだよ。……やっぱりお前が関わってるんだね。神祇庁から、あれのことについてはシホに話しておくように言われたんだよ」
神祇庁ってどうせヨハンのことなんだろうなあ、と思ったが、そのことは婆ちゃんには訊かなかった。




