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64 懐かしい輝き

 セイナ・ニコナを見て、私は顔をしかめた。あんまり会いたい相手ではない。

 あの人形師協会の建物で会った後、もちろん学院でも顔を合わせたが、もともと話をする間柄ではなく、視線は合うが目礼すらしない、という感じだった。とはいえ、もともとそういう関係だったので、一緒にいたマリちゃんに特に何か言われることもなかった。

 今回も、セイナ・ニコナとはそんな風にお互い黙ったまま通り過ぎるかと思ったが、何故か今日は向こうから話しかけてきた。

「ラウトゥーゾの遺跡に行っている、ってきいたけど」

 私は少しばかり目を細めながら言った。

「まあ、行ってたけど。それが何か?」

「いや、その。……マリ・リーヌ・フォロも一緒だったの?」

「そうだけど。それが何か?」

「その……。やっぱりあんた、あの子を従者にするつもりなの?」

「は?」

 私は訊き返した。あの顔だけ王子がマリちゃんを侍女にしようとしていたという話があったばかりだったので、貴族が平民を従えるみたいにする意味合いでの「従者」かと思ったが、待てよと思い当たった。

「それって、神々の宴に連れていくつもりか、っていうこと?そんなつもりはないけど」

「そうなの?仲がいいから、てっきり」

「仲はいいわよ。でも、連れていくつもりはないわ。というか、宴には私一人で行くつもりだから」

 私は、すぐ傍できいている母の反応を気にしながら言った。母は黙ってきいていた。

 セイナ・ニコナは驚いた様子で訊いてきた。

「どうして?宴は危険なのよ。誰か助けてくれる人がいるでしょう」

「危険だから連れていけないのよ。そんなの当然でしょ?」

 セイナ・ニコナは黙る。

 そうしていると、馬車がやってきてクラリィ婆ちゃんの家の前で停まった。

「セイナ、もう終わったの?」

 馬車から降りながら声を掛けてきたのは、セイナ・ニコナの母親、メイナ・ニコナだった。その手には、果物が入った籠があった。

 彼女は私に気がつくと、それまでの笑顔が妙な具合になっていった。

「あら、シホさん、こんにちは。そちらはお母様?」

「そうですけど」

 私が素っ気なく返す傍で、母はメイナに負けず劣らずのにこやかさで笑んでみせた。

「こんにちは、初めまして。シホの母です」

「初めまして。私は上師ダントス・ニコナの妻のメイナ・ニコナです。この子は娘のセイナ」

 セイナ・ニコナは母に少しだけ頭を下げた。

 メイナはにこやかに話し続けた。

「娘が人形師の修行をすることになって、それでクラリィ師にお願いしに来たんです。今後、ちょくちょくこちらに参らせていただくことになると

思いますので、よろしくお願いしますね」

「あの、母さん」

「なあに、セイナ」

「えっと、修行の件、断られて」

「えっ?」

 メイナは驚いた表情で固まっていた。が、すぐに気を取り直したように笑顔になると、

「あなた一人で先に行かせたのが良くなかったのかしら?大丈夫よ、私が一緒に行って頼んであげるから」

「ううん、そんなことしても無駄だって、もう言われた。父さんが来ても駄目だって」

「そんなわけないわ、私が直接話に行くから」

 メイナは果物の籠を持ったまま、クラリィ婆ちゃんの家の中に入っていった。

 私と母はそれを見送った。母は微笑しながらセイナに話しかけた。

「貴女のお母さん、すぐに戻ってくると思うから、そこで待ってらしてね」

 そう言って、母は家に入っていった。私も母について家に入る。

 しばらくして、クラリィ婆ちゃんが家にやってきた。くたびれた様子だったのを見て、母がほほえむ。

「お客様は帰ったの?」

「まあねえ。少し苦労したが」

「娘さんの修行を見てあげてもよかったんじゃないの?」

「あの母親がいる限りは見る気はないよ」

「えー、そんな理由?」

 私は少し呆れながら言ったが、婆ちゃんは結構真面目な様子で言った。

「あの母親がいろいろと口を出しているせいで、娘の折角の素質をダメにしている。あれでは誰に習ってもダメだろうねえ」

 婆ちゃんは茶を飲むと、私の顔をまじまじと見た。こんな風に見られることは珍しかったので、私は少し緊張した。もしかして、遺跡で鶴の一声を使ってぶっ倒れたことがばれたかな、と思った。

「お前、この後うちに来られるかい」

「うん、いいけど」

 制服から着替えた後、私はクラリィ婆ちゃんの家に行った。

 玄関入ってすぐの土間には、床の上にもテーブルの上にも、そこら辺を埋め尽くすほど木箱が置かれ、その中には灰色や紫に光る青い石のかけらのようなものが入っていた。

 その光に私は懐かしいものを感じ、目についた一つを取り上げて見た。

 それはマツカサリュウの鱗なんだが、と婆ちゃんは話す。

「それを、いいものと悪いものに振り分けてくれ。いいものはこっちの籠に入れて、そうでないものをこっちの袋に入れるようにして」

 なるほど、前に言われていたラヴィの修復の手伝いか。

 私は椅子に座ると、手に持っていたモノを観察し始めた。そうしながら、婆ちゃんに訊ねる。

「どういうのが合格なわけ?」

「お前にわかりやすいように言えば、高原のお化け百合に似た雰囲気のモノだよ」

 それならわかる。

 高原のお化け百合は、神域に近い森によく生える。咲いてすぐはその花びらは柔らかいのだが、月の光を浴びると硬化し、貝殻のようになる。真珠のような輝きを持つそれは、その硬さもさることながら、魔素や魔力の両方を弾くという性質を持ち、高原の民はそれを加工して正装に飾りとしてつけていた。

 私も高原にいた頃は、森に入ってお化け百合の花びらのかけらを拾って回ったものだ。それは高原の民にとっては大事なの収入源になるとわかっていたので。どの家の子も、あわよくばと森に入ってはお化け百合の花びらを探していた。

 とはいえ、私は他の子どもたちみたいに、集落の近くの森に落ちていないかと運任せで探して歩くのではなく、お化け百合が主に生えている神域の森まで単独で取りに入っていた。

 そんなところまでそんな子どもが一人で行けるとは誰も思わなかったらしく、私が綺麗な花びらを何枚も持って帰ると、集落の者には運のいい子だと言われた。実のところ、母には、もしかしたら一人で神域まで行っているのではないかと疑われていたわけだが。

 私は、マツカサリュウの鱗の原料を一つ一つ手に取ってより分け始めた。いいか悪いかを判断するのは簡単だった。そして、これは使えると判断したものを見れば見るほど、懐かしさを感じた。

 選んだ花びらは形が不揃いだから、このままじゃ使えない。それは魔素術を使って成型していく。婆ちゃんはそれも手伝ってほしいと思っているけど、私も忙しいだろうからねえと言った。

「週末は帰ってくるから手伝えるよ」

「だといいんだけどねえ。それより、あんたのシャツのポケットに入っているモノを紹介してもらえないかね」

 制服から着替えた後、シュルは私の私服のシャツのポケットに入って移動していた。ホリィはクラリィ婆ちゃんの家ではもう隠れようともしないで、既に部屋の中を飛び回っている。

 婆ちゃんに言われて、シュルは姿を現した。クエッ、と一声鳴く。

「この子も神使なのよ。空間を安定させる能力があるの」

 ホリィが説明する。婆ちゃんは顔をしかめてシュルを見た。

「何でそんな神使が遣わされているんだい?遺跡で何かあったのかい?帰ってくるのも予定より早かったし」

「えっと……」

 私は口ごもった。婆ちゃんは今度は鋭い視線を私に向けてきた。

「何かあるのならさっさと言いな。然るところに訊けば、どうしたってわかるんだからね」

 私は観念し、話した。


 本日もう一話投稿します。

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