63 なんかもう一体増えてる
翌日、私とマリちゃんとジェニファは王都に帰された。本当は私とマリちゃんだけ帰る筈だったんだけど、ジェニファは何故だかぷりぷり怒っていて、「こんなところにもういたくない!」と宣言し、私たちと一緒に帰ってきたのだった。
転移陣で私たちを王都まで送ったのはガリエス先輩で、ガリエス先輩がいなくなると移動できなくなるファラーグ先輩も必然的に同行し、結局学院生はラウトゥーゾの遺跡から全員帰ることになったのだった。
「もうちょっと遺跡にいたかったなあ」
帰る支度をしながら私は呟いた。遺跡は広く、全部を実際に見て回ったわけではない。夢の中ではかなり見たのだけど、夢でしかないし、実際に遺跡を全踏破しようと密かに考えていたのだが。
「また来られるかなあ?」
「呑気ねえ。あんなことしたんだから、あんた、もう出禁になるんじゃないの」
ホリィが言う。私は口をへの字に曲げるだけで、言い返すことはできなかった。結界は修復されたときいてはいるけど、自分がまずいことをしたっていう自覚はあるんですよ。
ガリエス先輩が転移陣を使い、私たちは遺跡を後にした。転移した先の景色は一瞬どこかわからなかったが、ファラーグ先輩が
「お前、何で学院なんかに転移してるんだよ」
と言うので、そこが学院の中庭だと気づいた。
ガリエス先輩が私を指さす。
「そういうのがくっついてるのを人に見られない方がいいと思って。学院なら今休みで人がいないだろうから、うってつけと思ったんだけど」
先輩の指先をたどり、私は自分の左肩に小さな物体が乗っているのに気づいた。
彫刻刀の掘り跡も荒々しく残った木彫りの鳥の人形だった。
それは首を動かして私を見ると、ルルル?と高い声で鳴いてみせた。
「シュル!」
私の服のポケットに入っていたホリィが、飛び出ながら喚いた。
「あんた、何でついてきたのよ。神祇庁についているんじゃなかったの」
「コロコロッ?」
「いや、そういうわけじゃ……。でもあんたに何ができるのよ。そりゃあ、うん……まあそうなんだけど。でもあんなこと滅多に起きないと思うし。うん……うん……そうまで言うなら仕方ないけど」
ホリィは私に向き直った。
「この子はシュルっていって、私と同じ神使よ。空間を安定させる能力があるわ」
遺跡の結界を直すのに力を貸してくれたのだという。
「で、私たちについてくることにしたんですって」
「私たちって……え、この子も一緒に暮らすってこと?」
「大丈夫よ、この子も食事はいらないし、姿を隠すこともできるし。迷惑はかけないから」
「いや……まあいいけど。でも、神使って、そんなにほいほい現れるもんなの」
「そんなことないわよ。でも、神使の数そのものは多いわねえ、姿を見せていないだけで」
「え、そうなの」
「そうよ。ほとんどの神使は神々がおわす次元で出番を待ってるのよ。それぞれの使命を抱えて眠っているの」
そう言えば、他の世界からやってきた魂たちは大抵が神使になるとか言ってたっけ。
私たちがそんな話をしているうちに、ファラーグ先輩とガリエス先輩とジェニファの間で、どうやって家に帰るかという話をしていた。
「とりあえず、王都の外の発着場に行ってもらえます?そうしたら、兄が用意した馬車が待っている筈なので」
ジェニファが言う。ガリエス先輩は少し迷っている様子だった。
訝しげなジェニファに、ファラーグ先輩が言う。
「転移陣って、目的地が遠い場所の方がやりやすいんだよ。ここから王都の外の発着場って、ちょっと近すぎるかなって」
「そうなんですか?兄様はもっと近い場所への移動をよくやってますけど」
「……まあ、あの人は特別って言うか」
苦笑気味に言うファラーグ先輩に対し、ガリエス先輩は表情を引き締め、
「わかった、やる」
一言、言った。あー、これはむきになってるかな、大丈夫かな、と私は思ったが、先輩は見事に目的地に到着させた。そのときには新しい神使であるシュルは透明化して、私の荷物のポケットに入っていた。
私たちはヨハンが用意していたという馬車に乗って、ジェニファの家に帰った。私とマリちゃんはそこから歩いて私の家に戻り、マリちゃんは私の家でお茶を飲みながら待っていたマリちゃんのおばあちゃんと一緒に帰っていった。
私が帰っていくマリちゃんたちの姿をぼんやりと眺めていると、母が声を掛けてきた。
「かなり疲れてるみたいね。休んだ方がいいんじゃないの?」
その言葉に、私は固まった。そう言えば、私が鶴の一声を使ったこととか、ヨハンからうちの両親に伝わっていたりするんだろうか。
この世界では、特別な装置の助けを借りれば、魔力によって電話で話すみたいなことができる。その装置を持っているのは普通は高位貴族なのだが、クラリィ婆ちゃんの家にはその装置がある。高位の人形師の特権だと言っていた。ヨハンとクラリィ婆ちゃんが繋がっていれば、そこから両親に話が伝わっている可能性はあるが。
「ああー、えっと……まあね。疲れたから、寝るわ。婆ちゃんと話をしたかったんだけど、婆ちゃん、出かけてるの?」
私は婆ちゃんの家の玄関の扉を見ながら言った。いつもは婆ちゃんはうちのお茶の時間に同席するのだが、今日はいなかった。
「お客様が来ているみたいなの。用が終わったらこっちに顔を出すと言っていたけど」
言っているうちに、婆ちゃんの家の玄関扉が開いた。
中から出てきた人物を見て、私は固まった。
同級生のセイナ・ニコナだった。




