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61 羽衣の使い手の条件

 私はホリィを凝視した。

「今、古代ギリシャって……」

「言ったわよ、それがどうかした?」

「いやいやいや、何でそんなのあんたが知ってるのよ?」

「そりゃ、あたしがあんたと同じ世界から転生してきたからに決まってるじゃないの」

「へ……?」

 私は衝撃が大きすぎて頭の中が本当に真っ白になってしまった。

「いや、その、転生って」

「あんたが転生してきてることを何で知ってるのか、とか野暮なことは言わないでよ。こっちは神使なんだからね。それぞれの人間の魂がこの世界由来かどうかくらい把握できてるってば。ついでに言えば、あんたも察してると思うけど、この世界とかあたしたちがいた世界以外にもこの世にはたくさんの世界が存在していて、それぞれの世界からこの世界に魂が来てるのよ。まあ、大抵は神使やってるけど、たまにあんたみたいに人間に転生してるのもいるわ」

「あ、そうなんだ……。いや、その」

「何、納得いかない?転生っていう事象があるのはあんた自身がわかってることでしょ。他に何かあるの?」

「いやその、同じ世界から来てるってのが、すごい偶然だなって。しかもそういう相手と会えるとか」

「そうだけど、そもそも、あたしを呼び出して偏倚の羽衣を使える人間の条件って、あたしが前いたのと同じ世界から転生してきた魂の持ち主で、あたしが受けたのと似たような科学教育を受けた、ってことなのよね」

 だから、自分たちが出会ったのは偶然だけど必然なのだとホリィは言った。

「なるほど……。あんたがずっと、羽衣を使うには条件があるって言ってて、一体どんな条件かなって思ってたんだけど」

「そうよ。そういうことだから、羽衣を使えるのはあんただけなの」

「他に、同じ世界から転生してる人はいないの?」

「いないわよ。第一、よその世界に飛び出して来られる魂ってのが圧倒的少数だし、そんな中で数多ある世界のうちこの世界にくるっていうのもかなり確率が低いの」

「他の世界に出て来られる魂?」

「そうよ。一つの世界の中で輪廻転生を繰り返す魂がほとんどだから」

「そうなんだ……。いや、なんか、ちょっと興味があって訊くんだけど、私の前の世界の両親とかが偶然この世界に転生してきてるとか、ないのかな」

「あんたの両親って、実の親?」

「そうだけど」

「じゃあ、ないわね」

「何で言い切れるの?」

「あんたっていう子どもを作ったからよ。子どもを作った人間の魂は、その世界の重力に引かれて、そこから飛び出せなくなるの。その世界との結びつきが強くなるのね。人間だけじゃなくて、ある一定以上の自我を持つ生命は子を成した瞬間にその世界との結びつきが強固になるわね」

「そっかー……」

 それでいくと、私は自分が前の世界で関わりがあった人たちの九割以上とはこの世界で生まれ変わった者同士として再会することは不可能、ということになる。まあ、別にいいんだけど。さして思い入れはないし。寧ろ、前の世界での黒歴史とか持ち出されなくて良かったかしれない。

「何、あんた、前世の親に会いたかったの?」

「ううん、そうじゃないの。ただ、突然予想外のところで知り合いに会う、みたいなのは嫌だなと思っただけで。でも、飼ってた猫とかには会ってみたかったかな、なんてね」

「猫ねえ……。そんなのに会ってどうするんだって思うけど」

 それから私たちは他愛のない話をした。私とホリィは前世で、ほぼ同じ時代を生きていたことがわかった。私は日本、ホリィはアメリカで暮らしていたが、インターネットのおかげで共通の話題もあった。

 懐かしい話をしている途中で、私はあくびが出た。それを見て、ホリィが言った。

「あんた、あんなことをしたばかりで疲れてるんだから、休みなさい。あんたが大丈夫ってことは、私からヨハンたちに知らせておくから」

「うん。……あのさ、前世のこと、他の人たちには言わないでね」

「わかってるわよ。他の連中に理解できるとは思えないしね」

「ありがと」

「礼なんていいわよ。あと、魔法のことは、また話しましょ。連休はまだあるんだし、学校の寮の部屋で話したっていいんだし」

「やっぱり魔法を使えないといけないの?」

「生き残りたいんなら、ね。前から言ってるでしょ?」

 私はため息をついた。ホリィはぶれなかった。仕方がないか、と思いながら私は眠りについた。

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