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58 練習メニューに関する攻防

 翌日、私はヨハンやジェニファ、マリちゃん、それにガリエス先輩やファラーグ先輩たちと一緒に遺跡の練習場に行った。そこで魔素術を使う私とマリちゃんはジェニファたちとは分かれて練習することにした。ホリィも一緒で、そしてなぜかタロちゃんがついてきた。

 ジェニファたちからかなり距離をおくために、私たちは歩き続けた。大分歩いたところで、マリちゃんが訊ねてきた。

「これからどんな練習をするつもりなの?随分ジェニファさんたちからは距離をとろうとしてるみたいだけど」

「鶴の一声を練習しようかと思って」

 鶴の一声は、六つある名つきの魔素術の中で最も攻撃に適した術だ。魔素を強力な勢いで打ち出すことによって、物質を貫く威力を放つ。前世で言うところの、空気を圧縮して弾を打ち出したような感じだ。

 その威力によっては世界の端から端まで打ち抜くこともできると言われたり、様々な攻撃魔法に確実に対抗できる術だと言われたりもしている。

 六つある名つきの魔素術の中で最も難しいと言われているし、そもそも用途が攻撃にほぼ限られている術なので、日常生活ではなかなか見ることはないのだが、昨日、モモノが使ったのを見て、これは神々の宴を生き残るのに使えるのではないかと思ったのだった。

「鶴の一声って、長らく使っていないからさ。ここなら思う存分練習できるでしょ?」

 私の言葉に、マリちゃんは戸惑った様子で言った。

「でも、シホちゃん、鶴の一声は使うのを禁止されてるんでしょう?」

 マリちゃんに言われて、私は固まった。何でそんなことを知っているんだ?私は言ったことないけど。

 マリちゃんはあっさりと種明かしをした。

「ここに来る前に、クラリィおばあちゃまに言われたの。シホちゃんがもしかしたら鶴の一声の練習をするって言うかもしれないけど、そのときには止めてくれって。アリス・ゼンのおじさまもおばさまもクラリィおばあちゃまも、シホちゃんが鶴の一声を使うのを禁止してるからって」

「ああ、いやまあ……。でもさ、鶴の一声って、魔素術の中でも一番強力なんだよ?使わない手はないじゃない?私、高原にいた頃には森に入ったときにはしょっちゅう使ってたし」

 マリちゃんは小さくため息をつく。私は気になって、何?と訊ねた。

「だって、クラリィおばあちゃまが言っていた通りのことをシホちゃんが言うんだもの。でね、何言われても、シホちゃんを止めてくれって言われてるから」

「ええー……」

 私が落胆の声を上げていると、タロちゃんがマリちゃんに訊ねた。

「あんたは、何でこいつが鶴の一声を使うことを禁止されてるのか、理由をきいてるか」

「あ、はい。何でも、制御が甘くなって、威力が大きくなりすぎるって」

「それくらい、いいじゃない?」

 私が言うと、マリちゃんは軽く睨んできた。

「駄目だよ。威力が大きい反動で、シホちゃん自身にもものすごい負荷がかかって、最低でも寝込むことになるってクラリィおばあちゃまが言ってたよ?シホちゃんだって知ってるんでしょ」

「いや、そうきいてはいるけどさ、大袈裟だってば。魔素術の制御に失敗しすぎて寝込むなんて、そんな小さな子どもみたいなことにはならないってば。今までだってそんなことになったことないし」

 すると、タロちゃんが大きくため息をついた。

「お前、本気でそれ言ってるのか」

「え、何?」

 私はタロちゃんの反応に本気でわけがわからず訊き返した。タロちゃんは半眼になりながら私を見る。

「今までの話をきいてわかった。確かに禁止されるはずだ」

「え、何でタロちゃんまでそんなこと言うわけ?」

「クラリィ師もちゃんと説明してないってのがなあ……。八年前、高原からこっちに出てきたときのこと。まさか、忘れたわけじゃないだろうな」

 八年前、のことは勿論覚えてる。あのときも鶴の一声を使った。それが私があの術を使った最後だった。確かに、あの後私は寝込んだけど、でもそれはまだ子どもだったからだし。 

 私がそう言うと、タロちゃんは口をへの字にして言った。

「本当に何もきいてないんだな。お前が禁じられたのは、鶴の一声じゃなくて、龍の咆吼だよ。八年前に高原から出るときに使ったのは、鶴の一声じゃなくて龍の咆哮で、お前はそのせいで寝込んだんだ」

「へ?」

 私は間抜けな声を上げた。龍の咆哮とは、鶴の一声の別名、というか、鶴の一声でものすごく威力があるヤツを指して言うものだ。それを使うと世界を壊してしまうかもしれない、と言われている。

 マリちゃんの顔色が青くなった。

「龍の咆哮って、使うと命を削るって……」

「ああ、そう言われてるな」

「いやいや、待ってよ」

 私は打ち消しにかかる。確かにあのとき、術を使った後に私は寝込んでしまったけれど、でも、

「龍の咆哮って、どんな達人でもそれはなかなか使えないって言われてるんだよ?私がそれを使ったって……、私、そのときまだ八歳だったんだけど」

「俺が見てきた限りじゃ、龍の咆哮を撃てるかどうかは、年齢とは関係ないけどな。使えない奴は何歳になっても使えないし。第一、お前、あの頃には年齢に似合わないくらい魔素術を使いこなしてたろう。初めて会ったとき、鶴の一声だって自在に使ってたし」

「いやまあ、そうだけどさ。でもでも、あのときに撃ったのが龍の咆哮だったとしても、次に鶴の一声を使っちゃ駄目っていうのは違うよね」

「お前が次に鶴の一声を使ったら、その制御が甘くなって龍の咆哮になるんじゃないかって心配してるんだろう」

「やだなあ、そんなことあるわけないじゃん?」

 私はくるりと回って二人に背を向けると、手の指を嘴の形にかたどり、空に向かって鶴の一声を撃った。まあ、前世でいうところのピストルの弾くらいの魔素の塊を高速で打ち出したつもりだった。

 が、私の指先から発せられたのは、大砲どころではない、私の背丈ほどもある魔素の塊だった。それは私の指先から一瞬のうちに形成され、飛んでいってしまった。

 そして、轟音とともに、空の色が変わった。

「これはまずいわよ!」

 言いながら、私が術を放った方向へホリィが飛んでいった。その後を、タロちゃんが魔法で追っていく。

 そんな二人を見ながら、私はひどいめまいを感じ、それと同時に視界がブラックアウトしたのだった。


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