51 今に始まったことではない確執
マリちゃんの実の母親は、マリちゃんが三歳の頃に病気で亡くなった。そしてその後に後妻に入ったのが今ここで這いつくばっているこの女である。
後妻とマリちゃんの父親との間には、程なくして男の子が二人生まれた。そのうち下の子は病弱で、いつ死んでもおかしくない状態ながらも生き延びていた。
あるとき、父親が仕事で不在だったときに、継母は用事があって少しだけ乳母に子どもたち三人を任せ、出かけた。
継母が三時間ほどして帰ったとき、乳母が真っ青な顔をして出迎えた。その他の召使いも沈痛な面もちをしており、何があったのかと子どもたちのところに駆けつけた継母は、顔色をなくして横たわっている次男を医者が診ている場面にでくわした。
乳母が継母に話したところでは、継母が出かけて少しして、次男の容態が急変したということだった。執事は医者を手配し、また継母に戻ってくるよう使いを出した。ただ、継母は予定を変えて別な場所に出かけており、使者が継母をつかまえることはできなかった。
医者が来るのを待つ間もなく、次男はみるみるうちに血の気が引き、呼吸も浅くなっていった。それを見たマリちゃんは、次男に治癒術を使った。
次男の顔色はすぐに戻り呼吸もはっきりきこえるようになったが、また動かなくなった。呼吸はあったが微かになり、どうしたものかと乳母や執事たちが右往左往しているところに医者が到着し、救命措置を施して次男は安定したという。
医者の説明では、次男が最後に危なくなったのは、マリちゃんが治癒術を施したのが原因ということだった。
「わかったでしょう、あの子は私の息子を殺そうとしたの。そんな子を追い出して何が悪いの。家族の安全のためじゃないの」
「あー、おばさん、治癒術のこと、ろくすっぽ理解してないんだね」
「何ですって?」
「マリちゃんはそのとき、ちょっとやりすぎちゃったのよ。治癒術で回復させすぎたの。それで、施術を受けた方が耐えられなかったのよ。あんたが帰ってきたときに医者に処置を受けてたときにはそういう状態だったのよ。お医者さんから説明はなかったの?」
「そんなの知らないわよ!」
「いや、私はそう説明を受けた」
傍から言ったのはマリちゃんの父親だった。
「幼いから制御が効かないだけで、卓越した治癒の才能がある、と。それを伸ばしてやるといいが、家族と一緒に住んだのではあの子も危うく弟を死なせかけたことで自身の能力に無意識に制限をかけるのではないかとも言われて、それで私の両親のところに預けたんだ。そもそも前に住んでいた町では、治癒術の良い師匠だっていなかったから」
「ですよねえ。私も会長ご夫妻から、腕のいい治癒術師の指導者を探して王都に来させたって聞いたんですけど」
私は同意した。が、マリちゃんの継母は話を遮るようにして言う。
「でも、あの子は間違いなく私の子を殺しかけたのよ!」
「あのねえ、継子を悪者にしたがるんだったら勝手にすればいいと思うけど、その理屈でいくと、貴女、平気で人殺しをするような子を王子の侍女にしようとしたってことになるわよ。それって不敬になるんじゃないの?」
マリちゃんの継母は黙った。
「とにかく、今回の王宮に入る件、マリちゃんは全然承知していないんで。ディエール、あんたもいい加減にしなさいよ。同級生がどうなるか全然考えもしないで」
「でも、王子はそんなおかしなことをされる方じゃない。貴重な治癒術の名手を粗末に扱うもんか」
「あんたそれ、本気で言ってる?」
私は半眼になりながら同級生を見下ろした。




