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49 マリちゃんの家

 私たちは歩いてフォロ商会に行った。フォロ商会モノルム支店。富裕層向けの宿もやっているマリちゃんの実家。

 宿屋もやっているだけあって、連休中といえど玄関は閉ざされていなかった。

 ベイルが玄関の扉についていた立派なノッカーで扉を叩くと、すぐにお仕着せを着た男性が出てきた。ベイルを見ると、玄関をすぐに開けてくれる。

 私たちが中に入ると、男性は扉をすぐに閉めた。ファラーグ先輩に気がつくと、僅かばかり目を細める。

 ファラーグ先輩は軽い調子で男性に話しかけた。

「やあ、番頭。ちょっとこちらに戻ってくる用ができてね。貴賓室に泊まっている人物に会いたいのだけど、取り次いでもらえないかな」

「承知いたしました。少々お待ちください」

 番頭はすぐに奥へ入っていった。それと入れ替わりになるように、玄関ホールに気配を隠そうとした人間たちが近づいてくるのが感じ取れた。

「動きが早うございますな」

 ベイルが小声で言う。ヨハンはホールを見渡しながら言った。

「そうだな。もしかしたら、転移陣の着地場からこちらに情報が入っていたかな?」

「申し訳ございません、不心得者については必ず見つけだして処置をいたします故」

「頼んだよ」

 主従がそんな話をしているうちに、番頭が戻ってきた。戻ってくるなり深々と頭を下げて言う。

「申し訳ございませんが、彼の方は誰にも会いたくないと」

「では、区長を呼んでもらえるかな」

 ヨハンが言う。番頭はヨハンに正対し、また頭を深く下げた。

「申し訳ございません、そちらも今は叶うことができません。ただいま大切な話し合いをしておりまして」

「大切な話し合い?領主代理の私に会うよりも優先するような案件があるとは思えないが」

「申し訳ございません、私にはこれ以上お話できることはありません」

「話にならないな。勝手に入らせてもらっても?」

「領主代行といえど、それは承知できません」

 番頭は頭を下げながら、だがはっきりと言う。

 そのとき、ファラーグ先輩が私に囁いた。

「君さ、この廊下を突っ切って行ける?」

 言いながら、玄関ホールからちょうど領主館へ向かう方向へ伸びている廊下を指さす。

「この廊下の突き当たりが庭園に繋がっているんだけど、そこで問題の人物が君の友達の両親と今後についての話をしている」

「……何でそんなこと、わかるんですか」

「魔法で音を拾った」

 私は廊下を見た。気配を隠した人間が一番多く配置されている場所だ。

「行けますけど。私一人で行くんですか?」

「すぐに私も追う。君は先行してくれ」

 私たちの囁き声での会話に、ヨハンが入ってきた。ベイルがすぐにヨハンと番頭の間に入り、番頭の首筋に手刀を入れる。

 ヨハンは杖を宙に浮かせると、それに腰掛けた。先行してくれ、と言われた私が遅れをとるわけにはいかない。私は魔素術を使い、廊下へ向けて大きく飛び出した。魔素を操って廊下を滑るように移動する。廊下に面する扉から男たちが現れるが、彼らに対して蚕の繭の糸を投げ、体を拘束する。

 何人も出てきて面倒くさくなると、亀の甲羅を大きめに、廊下をふさぐ大きさに展開しながら前に進む。もちろん、前に進むスピードは緩めない。あたかもブルドーザーが進むように、ぶつかった男たちを押しのけて進んだ。

 男たちを数人押しながら勢いをつけて進んでいく。男たちの体が廊下や壁にすり付けられていくが、そこは気にしない。そのまま廊下の突き当たりのガラス戸を、押し潰してきた男たちごと突き破って外に出た。

 ファラーグ先輩が言う通り、広い庭がそこにはあった。木々が植えられることなく、草花が敷き詰められるように配置されている。

 所々に池があった。こんな乾燥した土地に珍しいことだと思って見ていると、後から追いついたベイルが言った。

「レング商会の庭園跡ですな」

「レング商会?」

「元々はここはレング商会というモノルムでも指折りの老舗があったんです。そこの家が絶えたため、フォロ商会が建物を買い取ったんですが、崩してしまいましてな。このモノルム最古の建物と言われていたんですが」

 ベイルは言いながら、私が亀の甲羅で押しつぶした男たちの体を蚕の繭の糸でぐるぐる巻きにして動けなくしていた。私もそれに倣う。

「そんな建物を壊すなんて、もったいないことをしたもんですね」

「そうですな。ちなみに、レング商会というのは、フォロ商会の次男の前妻の実家だったんですが。死んだ前妻の実家を今の妻のおねだりで買い取って潰して、そこに領主館を越える高さの建物を建てようとしたんですから、まあフォロ商会の次男のこの町での評判はよろしくないですな」

 さらりとマリちゃんの父親についての評判をベイルは口にした。まあ、意外ではないけどね。マリちゃんの父親には一度だけ会ったことがあるけど、マリちゃんと積極的に関わろうという感じはしなかった。情の薄い人間だなというのが、マリちゃんの父親についての私の評価だったが、それが裏付けられた感じだ。

 庭園には男たちが十数人配置されていたが、隊長とファラーグ先輩が剣と拳で何とかしていた。ファラーグ先輩が腕っぷしが強いというのが意外だった。

 ヨハンは魔法で杖に乗ったまま庭園の隅にあった四阿に向かっていた。その周りにはよりいっそう多い男たちが配置されていた。

 ヨハンは空中高くに舞い上がると、領主館の方へ向けて手を振った。

 と、領主館から魔素の塊が飛んできた。それに対しヨハンが魔法でその軌道を変えさせた。それは四阿の屋根を正確にぶち抜いた。

 あー、筍の階の応用かあ、と私は見てとった。筍の階は魔素の塊でできた岩が地面から空に向かってまっすぐ伸びるのだけど、そのてっぺんに横から衝撃を与えて、砲弾のように飛ばしたのだ。

 そういう手法があるのは知っているが、私は今まで使ったことはなかった。だって、飛ばした魔素の塊がどう飛ぶか、制御できないからだ。まあ今見たように魔法で軌道を修正すれば使い物にはなるけど。

 四阿の屋根が四散した瞬間、ヨハンは四阿に急降下していった。そして、杖からさっと降りると、杖を手にもったまま空から降り、四阿にいた人物のうち、一人の若い男の上に器用に着地した。下敷きになった男が手足をばたつかせて抵抗しようとするその首もとに、上着の下から取り出したナイフをつきつけた。

 組み敷かれた男は体を硬直させた。

 ヨハンは大きな声で言った。

「こちらは神祇庁だ。王子の身柄を渡してもらう」


 読んでいただき、誠にありがとうございます。

 これまで土日祝日は一日二話更新してきたところですが、来週以降につきましては、次回作の投稿スケジュール調整のため、土日祝日も一日一話更新とします。

 その分、最後まで安定して更新していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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