48 領主館
高貴な人物の身柄を確保しに行く、と言われても男性は顔色も変えなかった。
「少し準備して参りますので、今しばらく応接室でお待ちください。モモノ、案内を」
言うなり男性は身を翻し、家の奥へと足早く入っていく。
メイドの案内で、私たちは玄関ホールにほど近い小さな部屋へ案内された。
私たちはそれぞれが椅子に座る。それを見届けて、メイドは部屋を出ていった。
メイドを見送ってから、隊長が言った。
「さっきの男がベイルだ。この家の元執事長で、今もこの家に仕えている」
「今の執事長もメイドたちもよくやってくれてはいるのだけど、魔素術の面ではベイルに届かなくてね」
ヨハンが補足する。
ベイルはすぐに戻ってきた。軽い外套を羽織ってきていた。ポケットに何か入っているらしいのが見てとれる。
その後ろには先ほど出迎えに来たのとはまた別なメイドがいた。ティーポットやカップが載ったワゴンを押している。
「少しばかり喉を潤していかれてはいかがですかな。その間に少しお話をきかせていただければ。先ほど、高貴な方の身柄を、とおっしゃいましたが、それは昨日、そちらのご令息がフォロ商会の宿屋に連れてきた目立つお若い方のことでしょうか」
「それが該当の人物かどうかはわからないが、目立つのは目立つよ」
「でしたら、先ほどこちらの館にお見えになりました。ご当主かご令嬢はいないか、と言っておいででした」
「父上に会いたい、はわかるけど、ご令嬢というのは……。他には何か言っていなかったか?」
「お二人とも不在であると伝えると帰っていかれました。それだけでした」
「一人だけで来たのかい?」
「十代後半くらいの少年を連れていました。王都の高等学院の制服を着ておりましたな」
ベイルは紅茶をカップに注ぎながら話す。全員にお茶が行き渡ると、メイドは部屋を出ていった。
そこでベイルはヨハンに訊ねた。
「若様、初めてお会いする方がいるので、ご紹介いただけるとありがたいのですが」
「ああ、そうだね。こちらの令息がファラーグ侯爵令息。こちらのお嬢さんはシホ・アリス・ゼン。ジェニファの学友だ」
「おお、あなたが。お嬢様からの手紙で存じあげています。なんでも魔素術の達人だとか」
私はどう反応を返せばいいかわからなかった。こうやって話してくるベイル自身がただ者ではない気配を漂わせているからだ。そんな人物にべた褒めされても、どう言えばいいのかわからない。
「それから、もう一人。神使様、お出で願えますか」
ヨハンの声に、私の服のポケットに入っていたホリィが飛び出てきた。
「何よー、黙ったままでよかったのにー」
「いえ、何かあったときに神使様のお力をお借りしなければならなく可能性がありますので、予めベイルに引き合わせておいた方が良いかと」
「わかったわよー。私はホリィ。神使をやってるわ。基本的にシホと一緒に動いているから。よろしくね?」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします、神使様」
ベイルが恭しく頭を下げ、それを見るなりホリィはまた私の服のポケットに戻った。
ベイルはヨハンに訊ねた。
「それで、この後はどのように事を運ばれるご予定ですか」
「正面から訪ねていく。フォロ商会はどう反応するかな?」
「彼の御仁が若様との面会を拒否すれば、そのように。そうでなければそのまま面会できる、それだけです」
「恐らくあちらは拒否するだろうね」
「でしたら、次には領主代行としての権限を行使しての揺さぶりですな。しかし、彼の御仁の身分が身分ですので、そううまくいくとも思えません。もし拒否された場合は、どうされるお考えですか」
「もちろん、強行突破だ」
「承知いたしました。彼の方ご自身で連れていらした護衛はごく僅かですが、フォロ商会の護衛はそれなりの数がおります。もしもの場合に備えて、この館からモモノ達に支援させるようにいたしましょう」
「そんなに大事にするつもりはないんだけどね」
「ある程度は大事になるでしょう。お迎えに行く方の身分が身分ですし、フォロ商会の次男もこの町ではなかなかの顔です故」
「わかった。それではモモノ達にも頼んでくれ」
読んでいただき、誠にありがとうございます。今後の更新について少しお知らせです。
本日はもう一話更新しますが、来週以降につきましては、次回作の投稿スケジュール調整のため、土日祝日も一日一話投稿とします。
その分、最後まで安定して更新していきますので、よろしくお願いします。




