47 古都モノルム
モノルムまではヨハンの転移陣で行った。てっきりファラーグ先輩が使うのかなと思っていたが、ファラーグ先輩は転移陣は使えないということだった。使えるのはガリエス先輩らしい。
隊長も転移陣は使えるらしく、最初、自分が転移陣を使う、と隊長が言っていたが、ヨハンが、自分が使う、と言い、そのようになった。
ヨハン、隊長、ファラーグ先輩、私の四人で転移陣を使って移った先は、これまた立派な石の壁に囲まれた都市のすぐ外だった。そこが転移陣を使った場合の転移先と定まっているらしい。見張りの人がついていて、私たちが現れるとゆっくり近寄ってきた。ヨハンと隊長の顔を見ると、慣れた様子で町の入り口に案内した。
町に入る。
モノルムは、町を囲む石と同じ材質でできた建物が整然と並ぶ石の町だった。通りには食べ物の屋台が並んでいて美味そうな匂いを漂わせているが、通行人はそう多くはない。王都とは明らかに様子が違う。
出くわした人たちはヨハンと隊長に気づくと、会釈をした。この二人が領主の息子とこの辺りの守備隊の隊長だというのは知られているらしい。
そんな二人にくっついて歩くいかにも貴族といった服装のファラーグ先輩と学院の制服姿の私には町の人々の視線が一瞬向いたが、すぐに何事もなかったように視線はよそに向いた。
「昨日来たときとちょっと反応が違うなあ。俺たちのことなんていないも同然に振る舞われてたのに」
ファラーグ先輩が呟いた。私は少し通りを見回して言った。
「よそものは受け付けない、とか?」
「そうかもしれないなあ。まあ、ホテルの待遇は良かったんだけど」
「フォロ商会だろう?そりゃ、あそこは最高級のホテルだからな。そこはきっちりするさ。でも、この町の住人の気質自体はなあ。警戒心が強いというか」
隊長が言う。私は納得がいった。
「なるほど。田舎だから、誰が余所者かははっきりわかって用心するんですね」
「まあそうなんだが、ここの住人に田舎とか言うなよ。連中は、かつてラウトゥーゾ遺跡に都があったことを誇りに思っていてな、ただの田舎だとひとくくりにされると激怒するんだ」
言われて、私は神妙な顔をして頷いた。こういう土地の人たちの怒りを買うと面倒くさそうだと思ったからだ。
通りをずっと歩いていくと、通りに建つ建物の石壁のそこかしこに装飾が増え、建物ではなくただの塀が並ぶようになってきた。塀の向こうには木が植わっているのが見える。
「なんか、一軒一軒の家が広くなってきてる?」
私が呟くと、隊長が頷いた。
「領主の館に近づいているんだ。この辺りは富裕層が住んでいる。ああ、あそこがあのシホって子の実家だな」
そこには、四階建ての立派な館が建っていた。そして、石でできた高い塀が延々とそれに続いている。
「大きいですね」
私は感想を言った。ひょっとすると、王都にあるフォロ商会の本店よりも大きいかもしれない。
「ああ。本当は隣に別な建物があって、そこを崩して立て替えようとしたんだが、領主館よりも高さが高くなって見下ろすようになるのはまずいってことになって、建物の跡地は高い石の塀で囲って庭園にしてるんだよ」
塀は突き当たりの辻まで続いていた。辻の先には広場があり、その正面には三階建ての建物が建っていた。正面の建物を指さして隊長が言う。
「あれが領主の館だな」
「え、ジェニファたちの家ってこと?ていうか、マリちゃんとジェニファって、こんなご近所だったんだ」
「今はそうだが、君の友だちはここの家に来たこともないんじゃないか。フォロ商会の次男からは、長女は王都で暮らしていて、こちらには顔を出さないときいていたから」
フォロ商会の次男、というのはマリちゃんの父親のことだろう。確かに、マリちゃんの祖父である会長の次男がマリちゃんの父親だ。
「あー、そういえば、マリちゃんって前はリエーザに住んでたって言ってたっけ」
「そのリエーザから、フォロ商会の次男は一家で五年前に引っ越してきたんだよ」
「五年前なら、もうマリちゃんは王都に来た後だね」
そしてマリちゃんは、王都に出てきてから、一度も親元に帰っていない。
「それで、王子はフォロ商会がやっている宿に泊まっているということでいいんだな」
ヨハンがファラーグ先輩に訊ねる。先輩は頷いた。
「そうですよ。あそこの三階ですね。三階全体が貴賓用になっていて、四階に当主家族が暮らしているとききました」
先輩はマリちゃんの家を顎で示した。
ヨハンはマリちゃんの家を一瞥すると、そのまま前を通り過ぎる。そして、道の突き当たりの広場に面した領主の館のドアノッカーを引いて強く
ドアを叩いた。
玄関のドアが少しだけ開いた。隙間から顔をのぞかせたのは若い女性だった。
「申し訳ありませんが、この連休中は領主館は閉鎖しております。お急ぎのご用でしたら、外壁傍の詰め所まで行ってください」
「モモノ、私だ、ヨハンだ。ガリエス隊長やジェニファの学友も一緒なのだが、開けてもらえないか」
ヨハンが言うと、玄関のドアが瞬時に閉まった。何で?とこちらが戸惑っている間に、玄関のドアが今度は大きく開いた。
玄関の内側には、二人の男女が立っていた。一人は、先ほどの若い女性。メイドが着るお仕着せの黒いワンピースを着ている。
もう一人は白髪に長身痩躯の年配の男性だった。白いシャツに黒いズボン、灰色のベストを着ていた。
二人は揃って深々と頭を下げた。
「ヨハン様、お帰りなさいませ。家臣一堂、お喜びを申し上げます」
「うん、ただいま。帰ってきて早速なのだけど、ベイルに同行をお願いしたい」
「承知いたしました。而して、どちらへ」
「フォロ商会の宿屋へ、高貴な人物の身柄を迎えに行く」
ヨハンの言葉に、年配の男性は一度頭を上げ、再び恭しく頭を下げた。




