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46 王子様を迎えに行く

 何でそんなことがわかるんだ、とヨハンは言いたそうにしていたので、私は何てことないことだと説明した。

「だって、さっき、マリちゃんのことをその貴族に教えた同級生の名前を言ってたじゃないですか。カート・ディエールって。彼、学院を卒業したら王族に仕えるんだって今から言ってますよ。その伝手があるって」

 まあ、何で王族が来たら昨日みたいなことが起きるのかよくわからないけど。

「確かに彼がそういう進路を考えてるとはきいてるけど、卒業前から王族と話なんてできないでしょ」

 マリちゃんは真っ青になって言う。だがヨハンは、正解だ、と言った。

「ディエールは平民だが代々王宮に勤めている。だから、その子弟が王宮に出入りし、王族と話をする機会はある」

「なるほどねえ。それで、王族のうちの誰なんですか」

 王族と言えば、国王とその家族だ。

 国王は王位に着いて五十年以上経つが、特に極端な政策を押し進めるわけではなく、また人となりについても巷に伝わってくる噂では温厚な人だというのが専らだ。現時点では、名君と言われている人物である。妻は既に鬼籍に入っている。

 あと、王族っていったら、王様の娘が四人と、その子どもになるが。

「ハーヴェロイ王子だ」

 ヨハンが言う。国王の孫で、美形王子ともてはやされている人物だ。人となりは……学院の先輩方から伝わってくる風評からすると、あまり褒められたような感じはしない。顔はよかったが、魔法はあまり得意ではなく、得意科目は歌舞。在学時は生徒会に在籍していて、王族としての特権を使って魔法部を痛めつけていたとかなんとか。

「あー、それでガリエス先輩たちに転移陣を使ってくれっていうお願いがきたんですか」

 先輩たちは首肯した。

 私たちのやりとりが一段落つくのを見て、ヨハンは言った。

「それで、これから王子を回収しに行こうと思っているんだ。申し訳ないが、シホさん、同行してもらえるかな」

「私ですか?いいですけど、でも何で?」

 ヨハンに訊ねると、

「君にはちょっとした護衛と、王子を捕獲するときの助力をお願いしようと思ってね。知っての通り、魔法で人を攻撃するのは避けないといけないし、物理的な力に訴えようにも、向こうには腕が立つ護衛がついているから、刃が届かない可能性がある。でも魔素術なら問題はないからね」

「王子サマに魔素術使っていいんです?」

「いいよ。今はいわば緊急事態だし。勝手に王宮を抜け出してきた王子を王宮に返すだけだから」

「抜け出してきた?」

 私はファラーグ先輩を見た。ファラーグ先輩は少し肩をすくめてみせた。

「いや、俺はそんなこととは思わなかったけど」

「王子が学生に転移陣での移送を頼むっていうのは、そういうことだよ。きちんと認められた外出なら、王宮の魔術師に頼んでいる」

「でも、侍女候補を見に行くっていう正当な用事なんじゃ」

「正当、ねえ?」

 ヨハンは眇めるようにしてファラーグ先輩を見た。それを見て隊長が、あー、と納得したように声を上げる。

「もしかして、侍女っていっても枠外の?それはまたよろしくないですな」

「枠外って?」

 私は首を傾げながら訊いた。

 隊長は説明する。

「それぞれの王族や貴族は、格によって持てる近侍や侍女の数が決まっているんだよ。貴族だと家ごとに何人、王族だと一人あたり何人、ってな。多分、ハーヴェロイ王子は決められた数の従者が既にいるんだろう。それを越えて侍女を持とうとしているんだ」

「枠外の召使いとそうでない召使いにはどういう違いがあるんです?」

「枠外だと、いてもいないことにされるというか、極端な話、たとえ勤務中に死んでも不問に付されるんだ。そもそもいるはずのない人間だからな」

 私はファラーグ先輩を睨みつけた。

「先輩、マリちゃんがそんな待遇になるってわかっていて、王子の片棒を担いだんですか」

「いや、枠外で使用人を雇うなんてどの貴族の家でもよくあることだけど、そんなひどい目に遭ったとはきいたことはないし」

「それは認識が甘い。枠外の従者をしていた者が賃金が払われず、しかしいないはずの人間だからと抗議ができなくて泣き寝入りになったというのはよくきく話だ」

 隊長が言う。私は訊ねた。

「枠外だろうが何だろうが、そんな話、進めさせるわけにはいかないんだけど。どうすればいいんですか?」

 隊長はヨハンを見た。ヨハンは、

「とりあえず、然るべきところに話をすれば大丈夫だろう。国王は王族の従者の定員に厳格だから。それで、王子はいつ帰ると言っていた?」

「この連休が終わるまではモノルムにいると言っていました。迎えに来てほしい、と言われています」

 ガリエス先輩が答えると、ヨハンは唸った。

「そんなに長くいるつもりなのか。王宮の管理官にばれるだろうに、何を考えているんだ。それで、彼は何人連れてきている?」

「二人です。カート・ディエールと、シグマ・バンビス」

「バンビスか。護衛としてはいいのを連れてきたが、バンビス自身は王子の行動の目的を承知しているかな。まあ、いい。とりあえず、王子を王宮に連れ戻す。彼をモノルムにいさせるのは良くない。隊長、一緒に来てもらえるかな」

「いいですよ。任務の方は副隊長に頼んでおくので」

「あとは、ファラーグくんとシホくんとで」

「え、フロリゼルは?」

 ファラーグ先輩が訊ねる。ヨハンは首を横に振った。

「ガリエス家の兄弟は、分かれて動いてもらう。フロリゼル、君には妹やマリくんの警備をお願いできるかな。うちの家人のタロスと協力してやってほしい」

「わかりました」

 ガリエス先輩は素直に頷いたが、ファラーグ先輩の方はぶつぶつ言っていた。

「えー、フロリゼルが行かなくていいんなら、俺もそれで」

「俺たちだけだと、王子が滞在していることをごまかされるかもしれない。王子を連れてきた人間がいればそれは避けられるだろう」

 ファラーグ先輩は黙る。

「私が行くのはいいんですけど、その面子だと、魔素術使えるの、私だけですよね。大丈夫ですか?」

 魔法だと人間相手に使ってはいけないという制約があるので、いざというとき相手を制圧するのに体術か魔素術しか使えない。相手が王子たち三人だけなら問題はないかもしれないが、もっと多人数だった場合対応が難しくなる可能性がある。

「自分の身は自分で守れるつもりだが、そうだな、戦力をちょっと補充してから行くか」

「当てはあるんですか」

 ファラーグ先輩が訊く。ヨハンは頷いて、

「ベイルを連れて行こうと思う」

「ああ、あの爺さんか。なら、安心だ」

 隊長が心底安堵したように言った。私は説明を求めて隊長を見た。

 隊長は口元に笑みを浮かべながら言った。

「ラウトゥーゾ家の前の執事長だ。年はいってるが、魔素術も体術も滅法使える」

 それをきいて、私は楽しみになった。魔素術の達人!それだけで会う価値があるというものだ。

 ヨハンの指示で、私は学院の制服に着替えた。私の部屋までついてきたマリちゃんが、不安そうに言った。

「私が行かなくていいのかな」

「いいんじゃないの。一緒に来てくれって言われてないし」

「でも、私のせいでこんなことに」

「違うよ、マリちゃんは全然悪くないよ。何もかも王子の勝手だし。今だって、宮殿を抜けだしてきてるんでしょ」

「この子の言う通り、気にしないでいいのよー。あんたは何も悪いことしてないんだから。片づくまでここでジェニファたちとまったりしてればいいのよ」

 部屋についてきていたホリィが言った。

 私がホリィを見上げると、ホリィは、

「私も行くわよ。あんたの服のポケットに隠れていくか、姿を消して飛んでいくかどちらかでやっていくわ」

 羽衣を使わないと対応できないかもしれない事態になったときのことを考えると、ホリィがついてくるのはありがたい。

 身支度を終えて書斎に行くと、ヨハンもきっちりとした服装に着替えていた。昨日の夜にも見た杖を持っている。

 不安そうに私を見ていたマリちゃんに、じゃあ行ってくるね、と私は明るく言った。

本日もう一話投稿します。


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