43 魔法を使える?
隊長によると、昨日の夜、私が魔を消したときに羽衣から放っていた光は魔力によるものだったということだった。
「聖魔法とか光魔法とか言われるもののうちのごく初歩の魔法だな。どの魔法使いも、自分の得意な魔法の属性というのはあるんだが、それとは別に必ず習得するように家庭教師に指導されるものだ」
「え、あんなに威力があったのに初歩なんですか?」
「ああ。初歩の魔法だが、魔を確実に滅ぼすには効果的なんだよ。聖魔法と言われるものは他にも幾つかあるが、それはすべてあの魔法の応用でしかない。出力の形を変えただけ、みたいな感じというか。国に魔法騎士として使える者は皆、聖魔法を全て身につけているんだが、実戦では結局あの基本的な光の放出しか使わないな」
「何でですか」
「それだけ強力だからだよ。力を単純に押し出すだけだから当然と言えるが。ただ、その分融通がきかなくてな。どうしても軌道が単純になりがちで、当てるのが難しかったりするんだが、あんたはそれをうまくやってのけてた。神具のおかげかもしれんが、それでもよくやった」
神具、という言葉を知っているということは。
「あの、私が神使から神具を使わせてもらってるってこと、隊長さんも知っているんですか」
「お前さんがここに来る前に、神祇庁から連絡があった。宴の参加者で魔素術科の女子学生がこの遺跡に修行をしに来るが、いろいろ配慮をしてやってくれ、と。そのときに神使のことも神具のことも説明があったな」
「……神祇庁ってもしかして、ジェニファのお兄さんのことですか」
「そうとも言うな。ああそうだ、彼も魔法の達人だ。フロリゼルの説明が合わなかったんなら、あちらに習うのも一つの方法だろう。恐らく、フロリゼルよりもきちんと説明してくれるんじゃないかな」
まあ、そういう感じはした。杖に乗って遺跡の廊下を飛んできた、あの魔力を思うがままに操っている感じも実際に見ているし、私に必要なノウハウを知っていそうな感じはする。
とはいえ、今はヨハンよりももっと適した指南役がいる。タロちゃんだ。魔素術と魔法の両方を使える人物。魔素術と魔法の違いを説明するのにこれほど適した人物もいないだろう。
とりあえず、隊長には、私が魔法を使えていたことを教えてくれたことの礼を言った。あとはタロちゃんを捕まえて話をきけばだいぶいろいろなことがわかりそうだ、と思ったとき。
私たちがいる場所の周りに突然水色の光がわき上がってきた。
この光には見覚えがあった。転移陣の光だ。
一体誰が来るのか、と私は魔素術をいつでもどれでも放てるよう身構えた。
隊長に目をやると、全く警戒していない様子だった。
誰が来るのかわかっている?
私が考えていることがわかったらしい。隊長は肩をすくめて見せた。
「大丈夫だ、この連休のどこかで来ることにはなっていたからな。ただ、こんな時間に来るとは思いも寄らなかったが」
水色の光は地面にも空間にも幾何学的な模様を描きだし、それがひときわ強い光を放って消えた後には、二人の人物が立っていた。
ガリエス先輩とファラーグ先輩だった。
ガリエス先輩は学院のマントを羽織っていたが、下に着ているのは私服で、一方のファラーグ先輩はマントから何から明らかに私服だった。いかにも高級そうなものを身に着けている。
隊長はガリエス先輩にちょっと目を向け、頷いて見せた。先輩も頷き返し、兄弟間の挨拶はそれで済んだ様子で、なんだかほほえましいものを見たなあ、と私が内心で和んでいる前で、隊長はファラーグ先輩に少し険しい表情を向けていた。
「君も一緒に来るとはきいていたが、その服装はどういうことかな。ラウトゥーゾのごきょうだい、特に妹君の意向は、今日こちらに誘った平民の友人たちに気を使わせたくない、とのことだが、君の服装はそれとは真反対なように想われる」
「いやー、気楽な服装で来たかったんですけど、そうもいかない事情が出てきて。フロリゼルには普段着で来てもらったけど、俺だけでもきちんとした格好しろって圧力がねー」
ファラーグ先輩はへらりと笑った。
隊長は眉間に深い皺を寄せながら、私に言った。
「すまないが、このことをラウトゥーゾ子爵令息に先に知らせに言ってもらえないかな。私は二人と少し話してから行くので」
「あ、はい。わかりました」
私は魔素を操り、床を大きく蹴り出しながら石の床を滑るように移動していった。そうやって移動すると宿泊先のコテージに戻るのはすぐのことで、私はヨハンに先輩たちがやってきたこと、じきにこのコテージに来ること、を伝えた。
ヨハンは特に驚いた様子も見せず、とりあえず朝食の準備を三人分増やすか、とだけ言った。




