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39 遺跡にいるモノ

 夢の中でヨハンは言っていた。ここは昔の王宮跡で、古王国時代には裁判所も置かれており、当時使われていた牢獄の跡もあるのだが、そこは後年の魔法使いによってよくないものを溜める場所に改造されたのだと。

 世界の危機を脱し、王都が今の場所に移った後、この王宮跡はラウトゥーゾ家に管理が任されたが、その理由が、当時ラウトゥーゾに天才的な魔法使いであるレオナルド・テウル・ラウトゥーゾがいたからだった。

 レオナルドは、王家の許可を得てかつての王宮の建物に様々な仕掛けを仕込んだのだが、その一つが、よくないものを王宮の牢獄だった場所に封じるものだった。

 それは、魔と呼ばれるものだ、と夢の中のヨハンは言った。

 魔、ときいて私は思わず顔をしかめた。それは、世界の秩序を壊すものだと、幼い頃からきかされてきた。高原の民は神々から使命を与えられて高原に住んでいるのだが、それを邪魔する最たるものが魔であると。魔は多数存在していて、それを滅するのに限りはないのだと。

 そして、魔、という言葉自体を口にするな、と何度も言われていた。だから、その言葉をためらいもなく口にするヨハンに嫌悪感を覚えたのだが。

 私の表情の変化に、夢の中のヨハンは少しばかり苦笑していた。

「高原の民は、そういうことに注意深いよね。ただ、ここは高原ではないから。少々口にしてもそう問題はないと思っているんだ」

「でも」

「勿論、あれらについての危険を軽視しているわけではないよ。あれが一つでも姿を現せば、それに関わった者は大なり小なり影響を受ける。そんなことは起きない方がいいに決まっている」

「……そんな危険なものだとわかっていて、人間が作った仕掛けの中にとめおくようなことをしているんですか」

「痛いところを突いてくるね。確かに、僕自身、何てことをしてくれたんだという思いはある。実は、レオナルドがこの世を去って後、ラウトゥーゾの誰もが彼と同じ技術を使えなくてね。彼がこの遺跡に施したいろんな仕掛けを持て余しているというのが正直なところなんだ」

「……えっと、あなたは魔法部中興の祖って言われているほど魔法に長けているときいたんですけど」

「この遺跡の仕掛けに使われているのは魔法を物体に付与する技術なのだけど、ほとんどの魔法使いはそういうのはあまり学ばないんだ」

「魔法に流行がある、と」

「違うよ。神々から魔法が与えられた当時から、魔法使いは魔力をいかに瞬間的に効率的に出力するか、ということに血肉を注いできた。魔法の付与の研鑽までも手を伸ばしたうちの先祖は、どちらかというと変わり者だったんだ」

「ご先祖の作ったものを持て余している、ということでしたけど、危ないものを封じている仕掛けに不安を感じることがあるということですか」

「ああ。だからちょくちょく遺跡の様子を見に来るようにしているんだ。ここに滞在している間、もし遺跡の中から異変が感じられるようなことがあれば、それは間違いなくこの遺跡の中に封じられているモノが原因だろうね」



 あれは夢の中で交わした会話だった。  

 でも、間違いなく現実に起きていることの説明になっているように思われた。

 夢の中のヨハンは、遺跡にいるモノが何か騒ぎを起こしたときには、すぐにそれから遠ざかるようにと言っていた。が、私は、音がする方向に向かって走っていった。

 私は高原で、高原の民の一員として育った。高原の民としては、魔が出現したとなれば、逃げるだけではなく封じるように動くべきだと教えられてきた。それが高原の民の存在意義の一つだから。

 私は魔素を使いながら、滑るように通路を移動していった。

 通路は長かった。それが終わると、私たちが泊まっているコテージがあるのとは別な中庭に出た。ここも、高い壁に囲まれた、広大な空間だった。

 空には星が見え、そしてその下に多数の魔法使いたちがいた。彼らは、宙に浮いたり、壁の上や地面の上に立っていたりしながら、掲げた杖の先に明かりを灯していた。

 その光に照らされて、それはいた。

 中庭の真ん中が大きくえぐれ、そこに黒い影のようなものがうごめいていた。黒い小さな影がたくさんこごっていて、くっついたり離れたりを繰り返している。

「押し返せ!」

 黒い影に一番近い場所で誰よりも明るい光を杖に灯しながら声を張り上げているのは、隊長さんだった。光に照らされて、黒い影は少しずつ小さくなっていた。多分、魔法使いたちが杖に灯しているのはただの光なのではないのだろう。魔を退ける力があるのか。

 魔法使いたちは一様に光を放っているように見えたが、黒い影の削れ方からすると、隊長の出力が他の魔法使いとは段違いに大きいようだった。

 影の一部が千切れてそのまま地中に紛れていうのを見て、私は思わず飛び出した。それが隊長を狙っているように思ったからだ。

 私が隊長に向かっていく目の前で、隊長の足下の地面から黒い棘がいくつも出現し、隊長に向かっていった。光を灯すのに集中していた隊長が動揺するのが見えた。黒い棘のうちとりわけ太いものは隊長の後ろに回り込むと、まず隊長の後方にいた魔法使いを貫き、そのまま隊長に向かっていった。

 私は、魔法使いたちが作っているのと同じ光を羽衣に灯し、それで隊長を照らそうとした。

 が、それよりも早く、長身の黒ずくめの男が隊長と黒い棘の間に割って入り、持っていた短い杖の先に小さな光を灯すと、それを棘の先端に直接当てた。棘は瞬時に消えた。

 そのほかにも出現していた黒い棘を、長身の男は短い杖で捌いていった。棘はおびただしく発生し、隊長も自分を攻撃してくる棘を祓うのに魔法を使わなければならなくなっていた。

 そうなると、中庭の中央にいる黒い影本体への攻撃が緩くなり、影の大きさがだんだん大きくなっていっていた。

 私は羽衣に灯した光を最大限強くしながら、大きく宙へと跳びあがり、そのまま空に浮かび上がって影本体の上空に移動した。

 そして、強い光を放ちながらゆっくりと下に降りていく。黒い影を押しつぶすような形になっていったので、また影が分裂するかも、と用心のために、光で影を包み込むようにした。

 すると影は徐々になくなっていった。

「あれ……?」

 羽衣を通じての感触だが、影には二種類あるように感じられた。光に包まれるとそれに溶け合うようにして消えていくものと、光から逃げようとして細分化し、いつの間にか光をすり抜けるようにして消えてしまったものと。

 この違いは何だろう、と思いながらゆっくりと降りていき、地上に立った。

 影はもう手鞠くらいの大きさにまで縮んでいた。

 私は一歩ずつ影に近づいた。影は大きく跳ね、私の頭上を飛び越えていこうとした。私は羽衣を操り、影をとらえようとする。

 影は羽衣をかいくぐり、夜空の闇にとけ込もうとした。その行く手を遮るようにして、さっき隊長を助けた長身の男が飛んでいく。

 男は魔法による光を当てて、影を完全に消した。それを見ていた魔法使いたちからどよめきが上がった。

 男は地上に降り立つと、そのまままた飛んで行こうとした。私は羽衣を操り、男の手首に羽衣を巻き付けて足止めをした。

 男は飛び立つのをあきらめ、地上に降りると、無言で私を見返した。

 私は半眼になりながら男に言った。

「八年ぶりだね、タロちゃん」

 向こうは無言だった。

 お互いが暫く無言でいると、そこに隊長が歩いてやってきた。改めて見ると、服のところどころが切られている。

「おいおい、何やってんだ、嬢ちゃん。別にその男は敵っていうわけじゃなくてだな」

「知ってます。前からの知り合いなんで」

「そうなのか」

 そこへ、通路の方から騒がしい声が聞こえてきた。

「シホー、あんた何してんのよー、倉庫で大人しくしてるかと思ったのに」

 ホリィが飛んでくるところだった。その後ろを、杖に跨がって低空飛行するヨハンがついてくる。器用なことだ、と私はヨハンをまじまじと見た。前世で読んだ物語では、魔法使いは杖だか箒だかに乗って空を飛ぶものと相場が決まっていたが、今の世界で読んだ本には、魔力を制御するのは難しいので、杖に魔力を通して低空飛行するなんてのは、できなくはないがまず困難だと書かれていた。

 私はごまかすように笑いながらホリィに言った。

「いやー、音がしたからさ、その元を確かめないとと思って?羽衣出してもらってて助かったよ、ホリィ。あれを相手にするのに、魔素術ってなかなか決め手がなくてさ」

 魔、という言葉を使いたくなくて私は言った。ホリィは怪訝そうだった。

「まあ、役に立って良かったわ。で、何であんたこの人を捕まえてるわけ?」

「いや、こうでもしないとすぐに行方くらましそうでさ。ちょっとこの人にききたいことがあるんだけど」

 一方、ヨハンは隊長のすぐ前で杖から降りると、隊長に声を掛けた。

「随分と格好がひどいことになっているが、大丈夫か」

「大丈夫ですよ、やられたのは服だけです。体に傷はありません」

「出現したのは、予想通りかい?」

「ええ。でも、小物でした。少なくとも、本命ではなかった」

「まあ、また機会もあるだろう。とりあえず、お疲れさま。今後の警備についてもよろしく頼むよ、ガリエス隊長」

 私は固まった。

 ガリエスって……。あのガリエス?

 本日もう一話投稿します。

 そしてこの隊長さんはあのガリエスさんです。


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