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38 夢の真偽を確かめる

 その日、私とマリちゃんは魔素術の、ジェニファは魔法の練習をした。

 魔法を使うための手がかりが掴めるかも、と思ってジェニファが魔法を使う様子を見ていたが、今までと同様、何もわからなかった。

 そうしながらも一方で、私は先ほど夢の中で見た、千本杖が生まれた場面について繰り返し考えていた。たかが夢で見た話、ではあるのだが、それだけではないような気が私にはしていた。

 論より証拠。

 夜、皆が寝静まった頃、私は泊まっているコテージを抜け出した。遺跡の中庭から外に通じる通路は扉で閉ざされていたが、私は夢でジェニファが言っていたとおりに魔素術を使って扉を開け、通路に滑り込んだ。夢の中でジェニファは、この扉は魔力でも魔素でも、正しいやり方で操作すれば開く、と言っていたのだ。正しいやり方、というのも夢の中のジェニファは教えてくれていた。

 そして、夢で見た通りに歩いていった。この通路は、午後に練習場に行ったときの道とは全然違う場所にある。つまり、現実に歩くのは今回が初めて。なのに通路は夢で見たとおりで、やっぱりさっきのはただの夢ではないのだという気持ちを強くしていた。

 とある扉の前で、私は立ち止まった。私は夢で見た通りに扉の鍵穴に向かって魔素術を使おうとした。

「何してんのよ?」

 突然声がして、私は驚きのあまり小さく飛び上がった。

「ホリィ?」

 ホリィがいつの間にか、私の後ろについてきていた。

「あんたがこそこそ出て行くから、気になってついてきたのよ。何してんのよ、こんな時間に」

「あ、いや、それがさ。昼に見た夢がどこまで正しいのかなって思って試そうと」

「何でまたそんな」

「だって、練習場が夢で見たそのまんまだったから、そのほかの場所もどうだろうかって」

「夢の中では練習場以外の場所にも行ってたの」

「うん。いろいろ見せてもらったよ。でも、一番見たかったのはこの部屋で」

「ここが何だって言うの」

「夢の中できいた話では、ここは宝物庫なんだって。ずっと開いていないけど、千本杖が生まれる前、ここが王宮だった頃から宝物庫として使われてたって」

 夢の中のジェニファの話では、ここの扉の仕掛けには微細な穴が開いていて、そこをごく細い魔素でできた糸を何にも触れることなく通すと扉が開くけれど、それをしくじって扉のどこかに魔素の糸が触れると、扉が途端に重くなって一週間は開けられなくなるのだとか。

 貴族が魔法を使えるようになって以降、貴族たちの魔素術の腕はめっきり衰え、誰もここを開けられなくなったのだと言う。だったら腕のいい平民に頼んで開けてもらえばよかったろうにと思ったが、それをジェニファに言うと、かつての王宮の心臓部に近い部分に平民を入れようとは誰も考えなかったのだと言われた。

 夢の中でのやりとりをホリィに伝えると、

「なるほどねえ……。それが本当なら、古王国時代の宝物が眠ってる筈ってことか」

「そういうこと。ね、ロマンがあるでしょ」

「それはそうだけど、そんなややこしい術が求められるっていうのに、あんたにこの扉を開けられるの?それとも夢の中でこの扉を開けたりしたわけ?」

「まあ、夢の中でちょっとだけこの扉の構造を魔素の気配をたどって調べてたんだけど、これならやれそうって手応えがあったんだよね。もし夢のとおりだったら、あの夢で見たことが現実と同じなんだってことの証明になるかなって」

「それを証明してどうすんのよ」

 もっともな突っ込みに、私は言い返せなかった。うん、わかってる。そんなのは変な理由付けで、結局は私がやりたいだけなんだ。

 ホリィはため息をついた。

「どちらにしても、あんたはやる気まんまん、てことね」

「勿論。だって、ここが開かないってこと、きっとジェニファの家の人たちは先祖代々悩んでたと思うんだよね。もし金目のものがあったら、ジェニファたち喜ぶだろうし」

「わかったわ。まあとにかく、やってみなさいよ。さっさとやらせた方が後腐れがなさそうだわ」

 随分な言われようだったが、私は気にせず頭を切り替えて、扉に向き直った。

 扉には細い糸くらいの太さの穴が開いていた。それが鍵穴なのだと夢の中のジェニファは言った。鍵は存在せず、扉を開ける旅にその蟻の巣のように開いた細い穴に魔素の糸を通して開けていたのだと。ただし、魔素の糸を穴に通すときには、魔素の糸は何にも触れてはいけないのだと。

 私は、蚕の繭を使うときに作る魔素の糸を指先から出した。それをいつもよりも半分以下の太さにして、穴に入れていく。

 穴の縁に触れさせないように魔素の糸を操り、糸を穴の奥へ奥へと入れていった。穴は入り組んでいて、迷路のように途中でいくつも分岐していた。仕掛けの奥まで入っていく道筋を探りながら糸を操り続け、ずいぶんと時間が経った後に、扉を動かす仕掛けにたどり着いた。

 糸を仕掛けの軸に幾重にも巻き付け、それを引くようにして仕掛けを動かす。

 最初はびくともしなかった扉がやがてゆっくりと開いていった。

 やった……!と私は達成感で震えた。

 扉の向こうは完全な闇だった。ホリィが羽衣を出して、私に言った。

「ほら、これに魔素を通して光らせて」

 言われたとおりに、羽衣を掴んでから薄く魔素を通した。羽衣は辺りに光を振りまいた。

 部屋の中は、羽衣の光が届く限りは空だった。とてつもなく高い天井をした広い空間で、羽衣で辺りを照らしながら、部屋の奥へと入っていく。

 途中、色あせた絹が貼られた木箱がいくつか置かれていたが、中を開けると全て空だった。

 これって、私、無駄なことをしたかな……?と思いながらなおも奥に進むと、一番奥の壁に石の棚が作り付けられてあった。

 棚には書物が数十冊と小さな壷が幾つか、それから綺麗な石がはまった腕輪が数本と小さな箱が二十ほどあった。

 ホリィが意外そうに言う。

「あら、価値がありそうなものがあるじゃないの」

「そうだね」

 言いながら、私は箱の中身を確認してみる。素っ気ない意匠の木の箱に見えたのだが、中には絹が張ってあって、綺麗な石が入っていた。

「これって宝石なのかな」

「そうかも。待っててよ、ちょっとひとっ飛びしてジェニファたちを呼んでくるわ!」

 ホリィは言うや否や飛んでいった。私は他に何かないかと棚の周りを見ていた。もしかしたら、棚の後ろに何かないか、とか。

 念のため、棚の一番下の板と床の間にまで手を突っ込んでみた。すると、手に小石のようなものが当たった。指先を引っかけるようにしてそれを引っぱり出す。

 それは、小さな白い石だった。ちょうど角が丸まったさいころのような形をしていた。六つあるそれぞれの面には花の模様が刻まれていて、まさしくさいころのように花の数や意匠に違いがあった。

 しばらくそれを私は見つめていた。

 花の模様が彫られたさいころ。

 なんか、こういうのを知っている気がする。でも、実際に見たことはないと思う。話にきいたのだろうか。

 と、さいころが突然私の手のひらの中に沈み始めた。

「はあああああ?」

 私はあわててさいころをつまみ上げようとした。が、そのときにはさいころは私の手のひらの中にすっぽり埋まり、皮膚の中にとけ込んでしまっていた。

 私は何度も手を大きく振ってさいころが出てこないか試した。が、出てくる気配はなかった。

 私は呆然とした。何がなんだか、という感じだった。手には全く違和感がなく、さっきのさいころなんて最初から存在しなかったかのようだった。

 あ、そうか。それじゃもう気にしないようにすればいいのか。

 いやいや、あんな異物が体の中に入っていったのに、気にしないとかそんなことできるか!

 そんなことを思っていた最中に、大きく建物が揺れ、大きな音がきこえた。

 私はその音の方へ走り出した。


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