37 ラウトゥーゾの練習場
割り当てられた部屋に荷物を置き、服を着替え、ジェニファが家から持ってきたパンで昼食を済ませる。
食事の後、私はヨハンとジェニファに連れられて、中庭からまた別な通路に入っていった。
廊下は全て砂岩でできていたが、床や壁がうっすら光っていた。
どういう仕組みなのかなと思ってよく見てみるが、わからない。前世なら間接照明を仕込めばいいが、この世界には発電のための機械はない。魔法で雷を起こすことはできるけど、電気だけ発生させるなんてきいたことはないし、常に魔法を使い続けるなんて不可能だ。
魔素術で電気を発生させることはできるが、明かりから魔素の動きが感じられないのだから、魔素術でこんな風にしているのではない。
二人は遺跡の中をいろいろと案内してくれた。こんなに隈無く見せてくれていいの、というくらいに。
最後に二人は一つの扉を開けた。そこは、先ほどのパティオと同じような光景が広がっていた。
「ここがうちの練習場だよ」
ジェニファがにこにこしながら言う。アンリウォルズ公爵家の闘技場とは見た目は違ったが、流れている空気の感じが似ていた。
「じゃあ、訓練を始めようか。君は、魔法を使えるようになりたいんだったかな?」
ヨハンが言う。ジェニファから話をきいているらしい。
「そうなんです。使えるようにならないと、その」
「神具を使わせてもらえない?」
ヨハンの言葉に、私は目を丸くした。ほぼ同時に、私の服のポケットに入っていたホリィが飛び出してくる。
「やーっと私の出番ねー?」
「ホリィ?」
ホリィのことについては、ジェニファにも私は話していなかった。魔法を学びたい理由については、神々の宴を生き残るために魔法が必要なのだとホリィの存在には触れずに説明していた。それがこんな風に突然現れたりなんかして。
ホリィの出現に二人がどんなに驚くだろうかと私は慌てたが、ジェニファは目を輝かせながらホリィを見て言った。
「あの、神使様ですか?初めまして!私、ジェニファって言います」
「知ってるわよー。私、いっつもこの子の傍で見てるから。私はホリィ、神使よ。よろしくね」
ホリィも上機嫌である。
ヨハンが穏やかに笑みを浮かべながら言った。
「神使様、こんにちは。彼女が魔法を使えるように、できる限りのことをしようと思います」
「お願いねー。この子、結構頑なでさー。神具を使ったらすぐに魔法なんて使えるのに、絶対嫌だって拒否して。まあ、どんな方法でもいいから、この子が魔法を使えるようにしてね?」
ホリィはうきうきした様子だった。
それに反して、ヨハンは少し表情をなくし、私に言った。
「さて、それでは始めようか。君は、魔法に関する本は幾らか読んでいるそうだね」
「あ、はい。基礎理論とか、魔力操作のための応用についての論文とか」
「王国史書は読んだ?」
「史書?勿論読んだことはありますけど」
私は首を傾げた。そんなもの、魔法の勉強とは関係なく、十歳前後の頃には既に読み終えていた。マリちゃんもそんな感じだったように思う。
ヨハンは薄く笑った。一方で、ヨハンの隣に立っていたジェニファはにっこりと大きく笑む。
ヨハンが私の目の前にその手をかざした。
「それでは、実体験してみようか」
「何を?」
「千本杖が生まれた瞬間をだよ」
ヨハンの手から光が放たれた。




