31 友だちの親が知り合いだった件
ジェニファの父親は私を見ても気がつかないようだった。まあ、あれから私も随分背が伸びたし、顔も大人になって変わっているし。
ジェニファは私と父親を見比べていた。ジェニファの父親も戸惑った様子で私を見ている。
と、そこへ声がした。
「何、父さん。そんなところで立ち止まらないでよ」
ジェニファの父親の後ろから若い男が出てきた。ジェニファと同じ金の髪、青い目。顔立ちも似ている。が、溌剌とした雰囲気のジェニファと違って、目が眠たげである。
「あ、うちのお兄ちゃんね」
アンリウォルズ先輩が言っていた、魔法クラブ中興の祖というのはこの人か、と思いながら、私は頭を下げる。
ジェニファは私のことを兄に紹介していた。学院に通っていて、精霊科で、宴に出るのだと。すると、彼の眠たげな目が細くなった。
「ああ、なるほど。どうもよろしく、ジェニファの兄のヨハンです。アンリウォルズ公子との戦いは、見させてもらいました。あのときは裁定者からの映像でしか見ることができなくて顔がよく見えなかったのだけど、こうして近くで見ると高原出身というのがよくわかるね」
高原氏族は前世でいうところの平たい顔族に似ているのだ。おかげで、転生した後も特に違和感を感じなくて済んだ。……じゃなくて。
「えっと……。戦いを見たって?」
「そうだよ、お兄ちゃん。どういうこと?」
「職場で観戦してたんだよ。神々の宴に関わることはうちの職場に関係があるしね」
ああ、ここにも関係者がいたのか、と私はげんなりした。
ジェニファは首を傾げる。
「えー、それ、お兄ちゃんの仕事に関係あるの?お兄ちゃんって、いろんな役所を監査して回る仕事でしょ?」
「それは前の仕事。今は別だよ。神祗庁にいる」
神祗庁、というのは、神々にまつわる諸々を処理する役所だ。婆ちゃんからは、人形師が神域に人形を納めるときには神祗庁が窓口になるのだともきいている。
私はジェニファに訊ねた。
「それで、ジェニファはなんでここに?バイト?」
ジェニファはどう見ても店員のような動きをしている。
ジェニファはころころと笑った。
「違うよー、ここ、私の家なんだよ。お父さんがパン職人で、お店をやってるの。で、お兄ちゃんはお城に勤めてて、いつもはお店に出てこないんだけど」
「仕事が忙しくてね。でも、こうやって手伝えるときには手伝ってる」
「そりゃ、新装開店仕立てだもんね。そういうときくらい手伝っても罰は当たらないでしょ」
「えっと……。ラウトゥーゾって、テウルだよね?それでパン屋……?」
「だから、うちは名ばかり貴族って言ったでしょ。血筋だけは古いんだけどねー。で、シホちゃんはパンを買いに来てくれたの?」
「あ、うん。えっと、うち、近所で」
「え、そうなの?どこ?」
家の位置を説明すると、あれ、とジェニファは首を傾げた。
「そこって、人形師さんの家?」
「それはうちの隣。同じ長屋なんだよ。あ、こっちがその人形師のクラリィ婆ちゃん」
ジェニファとクラリィ婆ちゃんは和やかに挨拶を交わした。婆ちゃんはヨハンとも挨拶を交わす。
「神祗庁なら、今後世話になることがあるかもしれないね」
「そうですね。是非、神域の住人になるような人形をお作りください」
貴族で王城勤めのヨハンが恭しく婆ちゃんに言う。こういうことがあると、私は人形師というのは不思議だと思う。人形師は魔素術が必須で当然平民がなるものだが、貴族の中にもこうして敬意を払う人が一定数いる。
「今日はちょっと寄らせてもらったんだ。先日、引っ越し祝いでもらったパンがおいしかったんで、買っていこうと思ってね」
「それはありがとうございます。ね、父さん」
ヨハンに促されて、ジェニファの父親は慌てて頭を下げた。
「あ、はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
私と婆ちゃんはそれから気になったパンを買って店を辞した。
家まで歩いて帰りながら、婆ちゃんは私に言った。
「さっきの店主、知り合いだったかね」
「ん、まあ……。知っている人、ではある」
「ラウトゥーゾの人間を知る機会があるだなんて、いつのことだい」
「高原を出てこっちに来たときに、馬車に乗せてもらったんだよ」
「なるほど。向こうも、お前を見て何か言いたそうだったよ」
私は驚いた。
「え、そうだった?そんな風には見えなかったけど」
「お前が娘の方と話したりしているときに、そんな風に見ていた。まあ、命のやりとりがあるような旅路で一緒だったんだ。忘れたりはしないだろうさ。あちらにとってはお前は命の恩人だし」
「それを言うなら、こっちだってあちらの奥さんには命を助けてもらったよ。……奥さん、元気なのかな」
「どうだろうね。もしかしたら店に出ることもあるかもしれないけど」
会えるといいなあ、と思いながら、私は家に帰った。
クラリィはここで少しボケて見せてます。と、いうことにしておきます(どっちだ)。




