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30 そして週末の予定が埋まる

「あのさ、クラリィ、あんたとシホでこの子を直してあげられない?」

 ホリィが言うのに、私はどう反応していいかわからなかった。婆ちゃんにやってほしい、というのはわかる。でも、何で私?

 婆ちゃんは組合長を見る。

「私はやってもいいがね。そっちはどうだい。神々からマツカサリュウの修理を頼まれて、組合としてダントスに頼んだんだろう。それを私がやっていいのかね?」

 組合長は考え込んでいた。ラヴィが軽く私の体に巻き付くようにした。そして、クルル……と鳴きながら、組合長を見る。

 クウェーラが言った。

「良いのではないですか。クラリィ師の腕は確かですし」

「ダントスはどうか?」

「私は……、できればこの仕事を続けさせてほしいのだが」

「できるわけないでしょー。不出来な鱗を挿すのを止めなかった人形師に任せられるわけないじゃない?」

 ホリィが言う。

「私からもお願いします!」

 いつの間にか近付いてきていたセイナが頭を下げながら大きな声を出した。

「父さんが悪いんじゃないんです。私のせいなんです」

「違うでしょ。未熟なあんたに仕事を任せたのはあんたの父親なんだからあんたの父親に責任があるに決まってるじゃない」

 セイナはうなだれた。それ以上は何も言わなかった。メイナがセイナの背中を優しくさすっていた。

 他の人形師たちから異論は出ず、婆ちゃんが私を助手としてラヴィの修復を引き受けることになった。……だから、何で私?

「だって、その子はお前に懐いてるじゃないか」

 確かに、ラヴィは私の傍から離れようとしない。

「いいけどさ……。私、手伝いって言っても何ができるかって話だよ」

「作業中、その子の気をそらしてくれればいいさ。他に何ができるかは、これから考えるよ」

「クラリィ師、お願いです、私も参加させてください。お役に立てます」

 セイナが婆ちゃんに言ってきた。婆ちゃんは視線だけそちらにやる。

「断るよ。この子をひどい目に遭わせた張本人を、立ち会わせるわけないだろう」

「セイナ、諦めなさい。クラリィ師の言われる通りだ」

 ダントスがたしなめた。でも、とセイナは泣きながら言う。

「こんな何の役にも立たない子よりは、私の方が。人形師の修行をずっとしてきてるんだし」

 役に立たない、というのはどうやら私のことらしい。私はため息混じりに言った。

「役に立たないかもしれないけど、少なくともラヴィの治療の邪魔はしないわよ」

 それに今回天球を使ったのは私だし。

「あー、はいはい。聞いてらんないわ」

 ホリィが言った。

「四位のあんた、ちょっと往生際が悪いわよ。今回こんなことになったのはあんたのせいなんだから、退きなさいよ」

「どうして……。何であんたばっかり。宴の参加者にも選ばれて、マツカサリュウの修復まで……!あんたなんか、魔素術しか取り柄ないくせに!」

「あれ、私、その他の科目でも上位五位に入っていますけど、何か。少なくとも、一教科たりともあなたに負けてないですけど」

「成績さえ良ければいいってもんじゃないでしょ!」

「えー、何?自分の方が性格がいいとか?そういうの、自分で言っちゃう?いい性格してるわー」

 言ったのは、ホリィだ。煽るような口調に、セイナの顔が真っ赤になっていた。

 私とセイナとホリィが言い合っている間、大人たちはラヴィの治療をどうするかについて、話し合っていた。私の耳はどちらかというとそちらに向いていた。

 組合長が言った。

「マツカサリュウにはここにいてもらって、週末にクラリィ師とあの嬢ちゃんに来てもらうことにするか」

「しかしそれだと、ここの工房を他の人形師が使えなくなってしまう」

「そうだがなあ……。マツカサリュウにどこに控えてもらうかという問題が」

「マツカサリュウはもともとはテッサ山脈の向こうで過ごしていたんだろう。そこで暮らしてもらうというのはどうか。修復のときだけこちらに来てもらうというのは」

「どうやって移動させるんだ。転移か?魔法使いに依頼するには金がかかるぞ」

「神々から何か下賜されていないのか」

「成功報酬だな。それに、金目のものをもらえるという保証はない」

「クラリィ師、修復にはどれくらい時間がかかりそうですか」

「鱗は何枚必要という見積もりだったんだい?」

 婆ちゃんに訊かれて、ダントスが答える。

「予備も見込んで三百五十枚ほどだ。全部準備できていたんだが」

「さっきの体落からすると、今準備されているものが全部使えるかは怪しいねえ。それに、あの子がさっき暴れたせいで必要な枚数は増えただろうし。用意してある中にはあんたが作った鱗もあるのかい?」

「もちろんだ」

「じゃあ、とりあえずあんたが準備していた分を精査して、使えるものとそうでないものを取り分けよう。そこから必要な枚数を計算する。今日、新たに傷ついた鱗も差し替えないといけないだろうし。シホ、帰ってきたときには鱗を作るのを手伝っておくれよ」

 婆ちゃんに声を掛けられた。

「私、週末くらい休みたいんだけど」

 私がそんなことを言っていると、後ろから軽く小突かれた。振り返ると、ラヴィだった。ラヴィは嘴でまた、私の頭を軽くつついてくる。

「あー、わかった。やるわよ」

 こうして私の週末の予定が決まった。

 が、私が不満に思っていることは婆ちゃんにはばれていたらしい。帰りの馬車の中で婆ちゃんは言った。

「機嫌をお直し。あの子を見捨てるわけにはいかないだろう」

「それはそうなんだけどさ。私、いつ休んだらいいんだろうって。平日は学校で、休日はラヴィの修復なんてさ」

「なに、そんなに長くはかからないだろうし、そもそもすぐに始まるわけじゃない。鱗の制作そのものは私が一人で進めておくから、鱗が揃ってそれを移植するという段になったらお前に手伝ってもらう」

 家の近くまで来たときに、婆ちゃんは御者に言って馬車を止めさせた。例の新しくできたパン屋の前だった。

「ほら、パンを買ってやるから。後は歩いて帰ろう」

 私は婆ちゃんに続いて馬車を降りた。馬車は帰らせる。

 店は、古い石造りの建物をうまく修復してあった。扉は白く塗られたものに取り替えられていた。

 客がちょうど出てくるところだった。入れ替わりになるように店に入る。

 店員だろうか、頭に三角巾を巻いた若い女性が入り口に背を向けて棚にパンを補充しているところだった。入り口のドアについていたベルが鳴る音にこちらを振り返る。

「いらっしゃいませ……あ、シホちゃん?」

 ジェニファーだった。驚きで、私は固まる。

「知り合いかい?」

 婆ちゃんに訊かれて、学院の同級生だと紹介する。向こうは魔法科だと言い添えることも忘れない。

 婆ちゃんはジェニファーが魔法科ということに特に驚いた様子は見せなかった。

「ジェニファー、次のが来たよ」

 店の奥から、パンが載ったトレイを持って男性が出てきた。その男性を見て、私は更に驚きで固まった。

 八年前、高原から王都に出るときに私たち家族を馬車に乗せてくれた夫婦の夫の方だった。

 そして、ジェニファに初めて会ったときに見覚えがあると思った理由に思い当たった。ジェニファは母親似なんだ。


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