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24 ファラーグ先輩の要求

 ファラーグ先輩は言った。

「あいつは兄貴のことでいろんな人にいろんなこと言われててさ。まあ、禁忌をしでかした者の家族は何を言われても黙っているしかないっていう考え方もあるかもしれないけど、それにしたって、いろいろ言われっぱなしの場面を何度も見ると、何とかしてやりたいって思うんだよ。で、一番辛いのは、何も知らないってことかなって」

 そのためには何があったかを知った方がいいと思うんだ、とファラーグ先輩は続けた。

「シホちゃん……」

 マリちゃんが不安そうに私を見る。マリちゃんは、私がまだあのときのことを思い出すたびに様子がおかしくなるのを知っている。

 そう、私はあのときのことを克服できていない。先日のオリエンテーリングのときに再度あの男に対峙したときには、持てる気力を全て使ったのだ。

「簡単に言ってくれますね、先輩。それって、命令ですか。私にも話したくないことはあるんですけど。……殺されかけて、ちょっとした心の傷になっているんで」

「命令じゃないよ。そんなつもりはない。でも、そんなに拒否するようなことかな。先日のオリエンテーリングのとき、フロリゼルの兄貴らしき魔法使いが現れたとき、君は撃退したそうじゃないか。だったら、心の傷というのも大丈夫だったりしないかな」

 私はここが図書室なのも目の前にいるのが貴族であることもぶっ飛ばして怒鳴りそうになった。

 が。

「シホちゃん、どういうこと?」

 マリちゃんの問いに、我に返った。

 やばい、バレた。

 六年前のことについて、私が乗り越えられていないのと同様に、マリちゃんも傷ついたままであることを、私は知っている。だから、あの男が再び現れたことをマリちゃんには言わなかったのに。

 ファラーグは私とマリちゃんの顔を見比べていたが、にっこり笑ってマリちゃんに言った。

「君は?」

「あ、はい、あの、マリ・リーヌ・フォロと言います」

「ああ、六年前の事件のときに現場にいた子だね。聞いて知ってるよ」

「あのときのこと、誰かが話して回ってるんですか」

 私は低い声で訊く。

「そういうわけじゃない。知っている人間はごく少数だと思うよ。ただ俺は詳しい人に少し教えてもらったんだ。なあ、フロリゼル?」

 ファラーグ先輩の言葉に、私はガリエス先輩が戻ってきていたことに気がついた。ガリエス先輩は首を傾げながら訊ねる。

「何の話をしているんだ」

「六年前にお前の兄上が起こした事件の話」

 ガリエス先輩の表情が固まった。ファラーグ先輩は笑ってみせた。

「いいじゃないか、話そうぜ。お前、言ってたろう。事件のとき、兄上は正気じゃなかったに違いないって。俺もそう思うよ。きっとお前の兄上はいろいろあって正常な判断ができなかったんだろうと思うんだ。でも、本人に話を聞けないから確かめられない。じゃあ、もう一方の当事者に聞けばいい」

 ファラーグ先輩は私とマリちゃんを手で示す。

「ここに、あの事件のときに現場にいた二人がいる。訊けばいいじゃないか」

「やめてください!」

 マリちゃんが大きな声を出した。ここは図書室ですわよ、と公爵令嬢が思わずと言った風に声を掛けると、マリちゃんは我に返ったようだった。

「あの、ごめんなさい。でも、シホちゃんに負担をかけるのはやめてほしくて」

「何でアリス・ゼンさんだけに負担がかかる話になってるの?君は話さないの?」

 ファラーグ先輩が不思議そうに訊く。マリちゃんは俯いた。

「あの……。私、あのとき、一緒にいた人にただ守られていて、ほとんど何も見てなくて」

「なるほど。で、君がそんな風に守られているときに、お友達の方は勇猛果敢に戦ってたわけだ」

「先輩、そういう言い方は……」

 ジェニファが窘める。

「まあね。で、そうなると、話をきけるかどうかはアリス・ゼンさん次第なわけだ。うん、リーヌ・フォロさん、帰っていいよ。後は、アリス・ゼンさんから聞くから」

 マリちゃんはファラーグ先輩から庇うように私の前に立った。 

「帰りません。シホちゃんについています」

「あ、そう。まあ、好きにしたらいいよ。で、アリス・ゼンさん?」

 私の頭の中ではいろんな考えがぐるぐる回っていた。

 あのときのことを話したいかどうかというと、話したくはない。話すためには思い出さないといけないからだ。

 とはいえ、相手は貴族だ。身分差を設けないという建前の学院の中とはいえ、向こうの要求を拒否して大丈夫か。命令ではないということだが、これを断って家族に迷惑がかかりはしないか。

 話したくはない、しかし相手を考えると断ってもよいか、と考えこんでいると、ガリエス先輩が言った。

「いい。話さなくていい」


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