166 最終的に
私の戸惑いなどおいておいて、ガリエス家のきょうだいは話を続ける。
「兄上、何を勝手なことを。第一、シホが戸惑ってる」
「まあ、今はじめて言ったからな。だが、我が家の総意ではある。兄上も姉上も、ルートヴィヒおじうえもだ。父上も、生前、そうできたらいいなと言っていた」
「生前……?」
「ああ。父上は去年息を引き取った。姉上やルートヴィヒおじうえの子どもたちに見守られて、満足そうにあの世へ旅立たれた。父上は最後までお前のことを案じていた。父上はお前のことについて事実を知らされていなかったから」
事実?どういうこと?
ガリエス先輩も首を傾げていたが、私が疑問に思っているのとは違うことで引っかかっているようだった。
「それは、どういう意味ですか。俺の不行状について、秘密にしようとしても誰かから伝わるものでしょう。父上が社交をしていないとしても、誰かから耳に入ったのでは」
「そうでもない。お前が今までどこにいたかなんてことは、伏せられているからな。お前はただの行方不明ということになっている」
ガリエス先輩は口を二度、三度と開け閉めしていた。
私は訊いた。
「あの、それって、先輩は行方不明じゃなかったってこと……?」
「まさかシホも知らされていないのか」
ガリエス先輩が心底驚いた様子で私を見つめる。
レクスが肩を竦めて見せた。
「ああ。シホにも知らせてない。シホだけじゃない。世間には事実は伏せられている」
「まさかそんな。王宮がそれを許すとは」
「陛下は同意してくださったよ。三つの公爵家も同意してくれて、お前が神の煉獄に入ったことは内密にしようということになった。我が家の不運を嘆かれてね。我が家がこれ以上の不名誉を被らないようにしようと」
ガリエス家の不名誉、とはなんぞや。そして公爵家が三つも事実の隠蔽に力を貸そう、とか。
私が怪訝そうな顔をしているのに気付いたらしいレクスは少し苦笑いをしながら、
「まあ、半分は俺のせいでもある。俺が神の煉獄に入って、その次にまたその弟が入ったなんて、不名誉だろう」
「煉獄?」
私は思わず声が裏返っていた。
「どういうことですか?ガリエス先輩は魔にさらわれていたんじゃ?」
「フロリゼルは国境で部隊ごと魔に襲われて。そのときに、視界を誤魔化されて、うっかり魔法を使った先に同僚がいてな」
「それで、魔法を使って人間を攻撃したことになって煉獄に収容されていた、と?でもさっきまでユゲリアに憑かれてましたよね?」
「神の煉獄から連れ出されたんだよ。まさかそんなことがあるとは誰も予想していなかった。俺のときにはユゲリアはそんなことをしなかったし、フロリゼルをさらいに煉獄まで乗り込んでくるとは思わなかったんだ」
それについては手落ちだった、とレクスは悔しげに言う。
「せっぱ詰まってたんだろ」
レオナルドが言う。
「レクスの掃討作戦が続いて、力を削られて、これ以上やられると力を維持できなくなるから、煉獄を暴くような目立つことでも手を出さざるを得なかったのだと思う」
「そしてこのたび、めでたく消滅させられた、と」
ファラーグ先輩が明るく言った。
「良かったな、フロリゼル」
「だが、俺が魔法で攻撃してしまった同僚たちは」
「全員無事だ。彼らは、自分たちは魔によって攻撃されたと思っている」
レクスが言う。
ガリエス先輩は呆然とした様子で、
「そうか、俺、帰ってもいいのか……」
そう呟いた瞬間、先輩は大きなくしゃみをした。うん、先輩の服装、国境の守備隊にいたときとほぼ変わらない薄着だしね。いい加減暖かいところに行かないと、風邪を引くよね。
「とりあえず、家の中に入りましょう」
私は家のドアを開けた。小さな小屋に、たくさんの客人。ラヴィは体から抜け出て中身だけで家の中に入りたそうにしていたけど、それは我慢してもらった。扉は開けたままにしておいて、シュルが入り口に結界を張り、冷気や風が家の中に入り込まないようにしてくれて、そうして私たちは今後のことについて話し合った。
それから私はガリエス先輩と暮らしはじめた。というか、ガリエス先輩という居候を私が受け入れたという形。二人の生活がどんな感じかは、想像にお任せします。時々うちにやってくるレクスが、
「ガリエス家の男は伴侶に対して皆こうなるのか……」
と呆れたように言うけど、私たちの生活ぶりの何を見てそう言っているのかは私にはわからない。
私たちの住まいは今まで通りテッサ山脈の奥にあるラヴィの縄張りの中。時々先輩の転移陣で王都とかに行って買い出しをする。そしてうちの親とかマリちゃんとかにも会う。
生活費を稼ぐのもやりやすくなった。先輩は今までいろいろな場所に行っていて、それらの場所に転移陣で行くことができるから。
そうやって私たちは生活していった。この世界でそれぞれが息絶えるまで。
その間、私や先輩の体の中にある花ダイスを狙って魔が現れることはなかった。ホリィが常に側にいて私たちの体の中にある羽衣の状態を確認していたおかげかもしれないし、シュルが結界をそれとなく張り続けてくれていたからかもしれない。
魂の行く末については考えない。なるようになるだろう。
私が前世で生きていた世界からこちらの世界に転生してきたときのように。そしてホリィもそうであったように。
私は余計なことを心配せず、この世界で今の生を生ききるのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
明日20時にはまた新しい物語を公開します。現代を舞台にしたファンタジーです。
もしよろしければ、そちらもどうぞ。




