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「魔族の個の強さは、ソイツが生まレた種に比例スル。稀に、血筋以上の力を派生する奴もいルらしイ、ケド……」
異形の肉体の一部たる刃で威嚇したまま、ソレはたらたらと恨み言のように小言を漏らした。
揺らめく小さな影のような胴体。その下から伸びた、腕と同じ鎌状の脚が――サクッ、――サクッ、――サクッと何度も地面を抉る。
「下級魔族の代名詞、ソレがお前ら『アンデット』だろ」
苛立ちを孕んだ声は、頭部の代わりを成す灰色の球体から聞こえていた。
第一層での奇襲が失敗に終わり、影のような存在は次なる好機を窺っていた。そんな最中、標的の護衛騎士が自身よりも遥かに劣る種族だと露呈されたことで、ソレが身を潜めておく理由はなくなった。
「ソイツ寄越せよアンデット。戦場の養分にされるくらイなら、代わりにコッチで大事にマモってやるからさ」
本来なら今頃、護衛騎士の身体を切り刻み、周囲の魔族と結託してハデルを取り押さえているはずだった。
思えば、あの一撃目を防がれたとき。
下級魔族に手こずっている自身を俯瞰し、腑が煮え繰り返りそうになりながら、ソレは自身の要求を呑むようにロアへ迫る。
「それはお前が決めることではない」
「一丁前にアンデットが意見スルなヨ? ……魔力もナい。ゴブリンやスライムよりも劣ル、最弱種族の分際が……」
牽制し合う両者。ハデルはロアの影からそっと、ことの成り行きを見守っていた。
今にも爆発しそうな敵対者の情緒に、彼女の騎士は至って冷静に今の状況を把握していく。
指、歩幅の僅かな動き。呼吸音。風の揺らめき。傍観者たちの話し声。どの行為がきっかけで、今のこの均衡が崩れてもおかしくはない。
ヤツはまだ、なにかを隠している。
彼の剣捌きを目の当たりにして尚、手を引かなかった相手にロアの太刀筋もより相応のものとなる。
「……ハっ、まアいいよ。……どの道ソイツは戦場には出らレナい」
影のような存在は鼻先で笑うと、徐に突きつけていたかぎ爪を下ろした。
「それもお前が決めることでは…」
「イイや、ボクじゃナくても決メラれる。ソイツが遠征で、進入禁止区域に入るノを見たってヤツがいるんだカラな?!」
興奮気味に公に口外された事実。突然の発言にハデルは、思わず反応しそうになった身体に力を入れて抑え込んだ。
ざわりと、列に並ぶ魔族たちが一斉にハデルに視線を向ける。
正直でまかせだろう。そう信じたいが、もし目の前の存在が隠密に長けた種族ならば、ハデルはその気配を戦場で見抜ける自信がなかった。
「ワタシも見た!」
そうこうしているうちに、その言葉を皮切りに、数十体の魔族が列から外れた。それぞれが『ハデルを戦場で見た』と、こぞって声を上げたのだ。
困惑、憐れみ、失望、喜び。様々な感情の渦の中に、ケラケラと下品な笑い声が周囲に反響し、ハデルの目元に影を落とした。
特に声を大にしているのは、皮膚の裏側のように赤い屈強な肉体を持つオーガ。山羊のような角を眼球の部位より生した悪魔だ。
彼らを筆頭に、そのほかの面々も、自分たちが生まれ落ちた種族の特徴を色濃く帯びた異形種である。故に、彼らよりも非力なものや、同位種でさえ異議を唱えることは憚られた。
やがて、列から外れた異形の集団は、影のような存在の左右に集まると、ハデルとロアの退路を断たせた。
『アンデット』という言葉も火種になったのだろう。以前ならば、ロアの存在がハデルに向けられる敵意の抑止力になっていたが、その護衛が魔族最弱と罵られたことで、牽制する壁はないに等しいかった。
多勢に無勢の光景に、ただ一人、口火を切ったものは滑稽のあまり肩を震わせていた。
「ハハハっ、ホラな? ほかにもコンナニ見たって言う奴ラがいるぞ? ダから、……寄越せヨッッ!」
それまで地面を抉っていた脚が、一段と深く陥没させる勢いで踏み込んだ。再び、影のような存在の執念がロアへとかぎ爪を光らせる。
一方、自身の記念すべき瞬間を台無しにしてくれた魔族たちに、ハデルの内心は穏やかではなかった。
今すぐにでも、こいつら全員を氷漬けにしたい。
その衝動を手前のところで抑え込んでいるのは、洞窟内で誓ったロアの忠誠心。その強さを知るためにも、彼女は敢えて手を出さない、つもりだった。
影のような存在の発言通り、本当に彼女の姿が目撃されていたのならば、話は変わってくる。
口封じも兼ね、一歩前進しようとしたハデルの前に、ロアの片腕が突き出された。
「下がっていろ」
強くもどこか安心する籠った声が、己が主人への忠誠心を証明する機会にもう一度、と剣を構えた。
ハデルもまたそんな騎士の覚悟に、主人として応える立場がある。ロアの背を見つめながら、軽く頷き二、三歩後ろへと下がった。
甲冑が金属音を鳴らし、ロアは小柄な相手に合わせるように膝を折ると、重心を低くする。そして、兜の真横に剣を突き立てるように構え直し、迫り来る影を待ち構えた。
完全に静止した標的に、むしろ好都合と言わんばかりに、ソレの六本となったかぎ爪が捉える。
その姿がロアの間合いに入るのと同時に、剣の穂先が一直線に走った。
空気を切る一閃の先端が、相手の頭部を穿つ―――よりも早く、影のような存在はするりと身を翻し、刀身の真横を縫うように潜り抜けてきた。
「ザコがッ」
吐き捨てながら、やはりこの程度と男の甲冑を切り刻もうとした寸前。
突き出された彼の刀剣が、左手一本だけで握られていることに気付く。
まだ、攻撃の主導権は切り替わっていない。
右手の行方を探すよりも先に、いつの間にか、その手に隠し持っていた短剣が視界に入った。が、明らかに短い。
このままいけば、確実に自身がこのアンデットを討ち取る方が早い。
そう慢心した矢先。短剣が眩く発光した。
―――まサかっ。
ソレの予感が、形を変化させて的中する。
瞬く間に光が分散すると、短剣は鋭く尖った細い刀身に、その刃渡りを何十倍にも伸長させた。その勢いは凄まじく、標的の振り下ろされた方の肩を刺突するまでに至った。
突然の閃光もあり、反応が遅れたことで刺突剣の攻撃を許してしまう。
それでもと、もう片方のかぎ爪で追撃しようとするが、肩を突いた刺突剣に押され、兜手前の空気を六等分に切り裂いた。
「ッグう"ぅ"ゥ……! 魔導具の類か……ッ」
「さあな」
華奢な体が、浮き上がった状態で無理やり後ろへ押し戻される。
一定の距離まで突き放されると、その肩とロアの右手からも刺突剣が姿を消した。
浮いた小さな身体が、重力で地面に脚を付こうとしたとき。その両の足の間に、それまで屈んでいたロアが大地を一蹴り、踏み込んだ。
刺突剣の消滅と共に、分散した光が再び結集し、ロアの左手に握られていた剣と同化する。
その柄を、今度こそ両手で掴めば、またしても別の武具へと変貌を遂げるのだった。
長さは先程の刺突剣よりも短く、剣というよりは棍棒に近い。その頭部には肉厚な鉄塊が、一撃で相手を叩き沈めんとする意思を放つ。
両の手でしっかりと握り締め、ロアは体勢を大きく振り被った。
―――っッ!!!
空気を押し潰すような唸りを纏い、標的の頭部目掛けて力の限り前へ振るう。
標的は咄嗟に体を丸め、両腕で防御の体勢に入った。しかし、ソレとロアとの体格差では、紙切れほどの軽減さえ見込めなかった。
計十ニ本のかぎ爪の内、三本を残して、ガラスが割れるような悲鳴を上げ粉砕される。
ついには、腕の防御壁を超え、鉄塊に付属していた斧の部位が、その球体の末端に触れた。
―――死の悪寒。序列に対する意地など、生を天秤にかけられればあっさりと崩壊する。
隠密のために授かった力で、この攻撃を回避することに全神経を集中させた。慢心故の躊躇いで、末端へのひび割れは防げないものの、その後、身体を透過させることで致命傷を免れた。
しかしながら、防御した際の衝撃までは相殺しきれず、華奢な肉体は悪魔たちよりも後方へと激しく吹き飛んだ。
地面に全身を強く打ちつけるも、なんとか上体を起き上がらせようともがく。
「ッチィィぃ……! クソがあァアア……」
「『シェイド』にしては随分、口が悪いな」
地に這いつくばる姿を一瞥し、ロアは次の標的に向け威厳を放った。一連の闘争の光景に、悪魔たちはまるで別人のように気後れしていた。
「…………嘘、っ……だろ。……アレが、本当に、最弱魔族の、動き、かよ……?」
先程まで意気揚々だった異形の集団が、その場から一歩も動けずにいた。
ハデルからアンデットを引き剝がすはずが、応戦の機会さえ与えられず、一人の騎士相手に尻込みをする。
今、彼らの反転目に映るのは、アンデットと知りながらも完全なる上位種の格だった。
もし、この場で動けるものがいるとすれば、それは恐れをよく知り、その上で譲れないもののために挑むものか。それとも、恐れすらも愉悦とほくそ笑む生粋の戦闘狂か。
「―――おいおい、なんの騒ぎだよ?」
まごつく悪魔たちの肩が大きく跳ねた。
透き通った湖を、僅か一滴で黒く澱めてしまうような禍々しい気配が、彼らの背後から近づいてくる。
金縛りの如く硬直した身体は、本能か、それとも過去にその者によって味わった屈辱か。
なんとか後ろへ振り向けば、そこには、長身な悪魔たちよりも、飛びぬけて頭を出す巨体を持った男が立っていた。
身の毛もよだつ気配とは裏腹に、黄金色の手入れの行き届いた長髪は艶があり神々しい。
悪魔たちは、頭上の男へ畏怖にも近い念を持ちつつ、それまで引き攣っていた口元に、勝利を確信した不適な笑みを零した。
空気が一変したのを、ロアも感じ取っていた。漂ってくるただならぬ気配に、兜越しの虚空がより深みを増す。
「だから、早く済ませたかったのだ……」
ぼそりと悪態をつく騎士の前方。異形の集団が自ら道を開け、そこから大地を踏みしめ、畏怖の根源が自ら姿を露わとした。
「シンだ。『魔人族』のシン……」
列に並んでいた誰かがそう呟く。
三メートルは優に超える巨体が、両脇に美女を連れ、眼下の悪魔たちを伏し目がちに見下ろしていた。
影を落とすほどの長い睫毛に、線の細い端麗な顔立ちは、どちらの性ともつかない繊細さと見たものの視線を吸い寄せる色香があった。
それを明確に男だと断定できるのは、肩に巻かれた白いショールの下。まるで、絵画から出てきたかのように精悍で逞しい鍛え抜かれた肉体。
そして、左胸から下腹部にかけ大きく刻まれた古傷が、なにより男を魔族の中でも特異な存在であることを物語っていた。
無数の視線を独り占めにし、シンは優越感から、にいぃーっとはにかんだ笑みを浮かべる。その何者にも縛られない自由な笑みは、誰よりもこの状況を楽しむ童に近しかった。
「んで、どういう状況?」
どこか気だるげな視線が、誰に問いているわけでもなく高い位置から周りを一望する。
「聞いてくれよシン! アイツがよお!」
一人のオーガが、馴れ馴れしくシンの前に縋った。
自身では敵わないと判断したロアを差し、事の経緯を説明し始めたのだ。やがて、魔人の周りには数多の魔族が羨望の眼差しで集まり、より彼の存在感に拍車をかけた。
オーガの小言を軽く聞き流しながら、シンは指の向けられた先、その僅か横に目を向けた。
「おっ?」
シンの黄金色の瞳に、ハデルの見目麗しい姿が映し出される。
ハデルもまた瞬きの内に、彼の存在に気が付くと二人の視線が合う。
「ハデルじゃねえか! ひっさしぶりだなあ。ハハっ、すげー嬉し」
シンの表情がぱああっと明るくなるのと同時に、弾けるように声のトーンが高くなった。
すると、男は自然と両脇の美女の頭を一撫でし、妄言を吐くオーガを横切り一人、ハデルの方へと歩み寄っていった。
「何年ぶりだ? てかハデルお前、噂になってたぞ。期待されてきた十柱血族による戦争参加。今回で、その最後の一枠が埋まるって。俺も半信半疑で来てみたんだけどよ。……ハデルがいるっていうことは、噂は当たりってことでいいんだよな」
「そうみたいね、お陰で苦労したわ」
「ハハっ! そりゃあ災難だったなー。……ところで、」
そう言いかけたとき、シンの姿が音もなく消える。
はらりと、針金のようにか細い黄金色の髪がロアを素通りし、意中の相手に影を落とした。
ハデルが反応するよりも先、男らしい指先が彼女の顎先に触れる。ゆっくりと、それでいて力強くシンは、自身の熱い視線へ誘導するように引き上げた。
「いつになったら、俺の『もの』になってくれるの?」
セレストブルーの瞳に、シンは艶めかしく目を細めた。うっとりするような甘い優美な囁き声。ふわりと、ハデルの鼻先を嗅いだことのないような心地の良い香りが掠める。
そして、彼の肩にかかった横髪が、ハデルの方に垂れるよりも先。二人の間に、護衛騎士の大剣が渾身の一撃を振り下ろした。
「……っっ…………」
地響きを起こすほどの威力。
ハデルが彼の指を払おうとした途端の出来事で。少しでも動いていたら……と、あまりの従者の常軌を逸した行動に、唖然とその場で固まってしまうのだった。
一方のシンは、すでにハデルから指を離しており、怪訝な面持ちで視線を彼女からロアへと移した。
「次またその穢れた手でハデルに触れてみろ。心臓の一つは貰わんと気が済まんぞ、シン」
静かな殺意の宿った一振りを前に、寧ろ、魔人は待っていましたと言わんばかりに、人外じみた笑みをその口元に滑らせた。
にいぃぃいイイーー……と、愉悦に浸った表情で完全にロアへと対象を切り替える。
「なんだ、いたのかよロア。あまりに小さ過ぎて気付かなかったぜ」
シンは、騎士へ上体を大きく前のめりにし威圧する。敢えて、ロアの背に合わせているようで、嫌でもその体格差をわからさせられる。
ロアもまた、地面から変貌した大剣を引き抜くと、シンに向き直った。
兜の奥の眼窩と、黄金色の瞳を宿した男の、その皮膚の皮一枚先に隠れた血液よりも色濃く、闇よりも業深い人外としての本性が対峙した。
「ちっせえ体、ちっせえ剣……。そんなんで、よくハデルの騎士なんて名乗れんなあぁぁあアア? ……あんときの剣はどうしたよ? ………ああ、そうだった。―――俺が折ったんだよなああ……!」
捲し立てながら、シンは肉食動物のような鋭い牙を覗かせて盛大に高笑いをした。
その声に同調されてか、周囲の悪魔たちからも嘲笑が巻き起こり、場が一気に賑やかになる。
「そうだよ、さっさと絶滅しろアンデット!」
「お呼びじゃねえんだよ」
「よっぽど、ネクロマンサーに飼われてた方がお似合いよ~」
「シーン! そんなアンデット軽く砕いちゃってよー」
すっかり天狗になった悪魔たちから、数多の罵声が飛び交う。中には、彼らの傍にまで足を運び暴言を吐くものまで現れた。その一人であるオーガが、シンの真横まで近づき面と向かって暴言を吐き捨てた。
「ハっ! 何かの手違いで生まれちまった紛いモノがよ。とっとと淘汰さてしちまえ、この弱小種族!」
「―――おい」
爽快に笑うオーガの、頭上から地獄まで叩き落とすかのような重く低い声。その無礼な口を閉ざさせたのは、他でもないシンであった。
オーガの視界を遮るほどの掌が、水風船を握りつぶすよりも簡単に、そのモノの頭部を掴み、握り潰した。
途端、制御を失った屈強な肉体は、その実力を披露することなく、オーガとしての生涯に幕を下ろした。
「なに調子乗ってんだゴミ。ひとの背中越しからでしか喚けねえやつが、一丁前に、俺らと同じ土俵に入って来ようとしてんじゃねえよ……」
離した掌から赤い鮮血が滴り落ちる中、シンの蔑んだ眼がオーガだったものから、後方の異形の集団に注がれる。
すでに、彼らから嘲笑は消え、先程までの賑やかさが嘘のように静まり返っていた。
今この場を支配しているのは、確実にこの魔人である。
「個を種族の範囲内でしか見れねえ小者が。コイツのこと嬲っていいのは、俺だけなんだよ……」
鮮血の滴る手で拳を作り、その親指でロアを指した。そこには、有無を言わせない、己が信念に反するものを力で黙らせる絶対的な強い意志があった。
シンの気迫に押されてか、誰一人として物申すものはいなかった。その様子が、今でも高みを目指すシンを失望させ、男の熱は急激に冷めていった。
「はああー、……なあ、お前もそう思うだろ? ロア」
シンは伏し目がちにロアに振り返ると、彼は戻した剣を鞘に納めている最中だった。そして、魔人の問いに対し、溜め込んだ鬱憤を晴らすように、
「ニセ筋肉」
そう一言、陳腐な悪口で返したのだった。
……パキリっ。
どこからか、踏み込んではならない一線に亀裂が入るような音が響いた。
サーーーっとハデル以外の、列の魔族たちも含め、その場の全員から血の気が引いていく。
「……い、いくらなんでもソレハー………」
声は掠れ、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。後ずさりするものまでおり、騎士の発言が何を意味するのか、身に染みてよく知っているようだった。
「禁句だぜロア」
そうして口を開いたシンの、左側の顔面に変化が起きていた。
双眼の結膜はハデルと同様に夜の如く澱み、弧を描くように耳元まで裂けた口から立て割れが発生する。割れ落ちた皮膚の下からは紺色の肌が露出し、本来の魔人族として風貌が垣間見え始めた。
「貴様こそ、その胸から腹にかけての傷。誰に付けられたか、忘れたとは言わせんぞ……」
魔人の怒りを一身に受けながら、ロアは淡々と男の胸の傷について話した。
「己が肉体を未だに受け入れられずにいる貴様に、再びアレを使うまでもない」
「………ああ、いいぜ。なんなら今ここで、あんときの続きといこうじゃねえカッ―――?!」
怒りを糧に、魔人族本来の姿へ戻ろうとするシンの身体に次々と変化が起き始めた頃。水を刺すように、彼の背後からロアに向け、再び影が牙をむいた。
一度は警告した、自分たちの土俵に踏み込もうとする不届きものへ、シン自らが対処しようとしたそのとき。二人の人外の間に、影を引連れヘマタイトが割って入った。
残りの三本のかぎ爪を、彼女の湾曲した双剣が受け止める。
「命拾いしましたね。……アナタに言っているんですよ? 我ガ同胞」
相克しあう刃が、互いが上だと火花を散らせた。
最後までお読み頂きありがとうございました!
今回で第三話、完となります。
次回も楽しみにしてくれたら幸いです。




