令和3年4月第4週
4月19日(月曜)
今月6日の時点で、全遺伝情報解析で確認された国内の変異株の感染者は886人。空港検疫での確認を合わせると1038人だが、大半を占めるのは英国由来の変異株である由。国立感染症研究所が2月1日から3月22日までの国内の変異株への感染例を分析した所、英国株は従来株に比して実効再生産数が1.32倍だった由。「実効再生産数」を「一人の感染者から何人に感染が広がるかを示す値」と説く記事を散見するが、誤謬では無いものの語義説明として不十分か。
感染症疫学に於いて、最も基本となる感染性の指標は「基本再生産数」とされるが、此れは「或る感染症に対して全員が感受性を持つ集団」の中で「典型的な1人の感染者が感染性を有する期間に再生産する二次感染者数の平均値」とされる。「感染が広まる前の状況、まだ誰もその免疫を持っていない集団の中」で「一人の感染者から平均して何人の二次感染が生み出されるか」と読み替えても良かろう。此れに対して、感染症流行後の再生産数が「実効再生産数」と呼ばれる。「既に感染が拡大して相応の対策も実行された状況下」で「一人の感染者が平均何人の二次感染を生み出すか」の指標と云う事になるが、此の実効再生産数を1以下にする事が感染症制御の目安となる。即ち「実行再生産数を押し上げるような遺伝子変異は、感染症制御を根底から覆す恐れが有る」と言っても、過言では在るまい。感染研の推定を信ずれば、今月初頭には「大阪府と兵庫県で、新規感染者の約7割がN501Y変異を有する変異株に感染していた」模様。
表面にスパイク蛋白質が多数隆起する形状が、恰も王冠の如し。その外見から羅甸語や希臘語で冠を意味する”Corona”の名を授けられたのが、即ちコロナウイルスと云う訳だが。昨年から世界を騒がしている所謂新型コロナウイルス、真の名をSARS-CoV-2のスパイク蛋白質を構成するアミノ酸のうち、501番目が突然変異でアスパラギンがチロシンに置き換えられたものを、N501Y変異と呼ぶ。501番目のAsparagine、即ちアミノ酸略号Nが、Tyrosine、即ち略号Yに置き換えられた変異株と云う意味だ。因みにAsparagineがA、TyrosineがTと単純に略されないのは、頭文字がAやTで始まるアミノ酸が複数存在する為。N501Y変異は英国株の他に南亜弗利加株、伯剌西爾株も有するが、スパイク蛋白質が人間の細胞と結合しやすくなる為に感染が拡大しやすい。
研究者達はD614G変異株に“Doug”、 N501Y変異株に“Nelly”、 E484K変異株に“Eeek” との愛称を付けたが、そんなネリーさんことN501Y変異株に因る感染が山形県でも18日に2人、19日に1人確認。厚生労働省の調べでは、13日時点で変異株疑いの感染者は山形県を除く46都道府県で合計3564人だったが、此れで全47都道府県で変異株が確認された事になる由。
4月20日(火曜)
本日午前に自民党の二階俊博幹事長が、緊急事態宣言に就いて「関係者の専門的な知識に依り判断を下して行く」「躊躇してはいけないし、積極的に遣って貰いたい」と述べる一方、宣言を発令した場合に飲食店や百貨店等へ休業要請を行うべきかとの問いには「現場の責任者の判断に委ねたい」と述べるに留めた由。
午後に大阪府が対策本部会議。「蔓延防止等重点措置が適用されてから2週程が経過するも依然、感染拡大は続く」「重症病床の運用率や感染経路の不明者の割合等、感染状況を示す指標のうち、殆どの指標が最も深刻なステージ4」等と府内の深刻な感染状況が報告された後、より強い対策を講じる必要があるとして緊急事態宣言の発出を国に要請する事を決定。大阪の窮状に対し、4月15日の時点で厚生労働省が各省庁を通じて看護師派遣を呼び掛けた結果、文部科学省では22の大学病院から35人、厚生労働省は労災病院等から十数名、警察庁や国土交通省等の関連病院から若干名の助太刀有り。昨日迄に総計65人の看護師派遣が可能となったとの事だが、其れだけでは焼け石に水の情勢。
兵庫県内でも、火曜日としては最多の427人の新規感染を確認。感染拡大に歯止めが掛からぬ状況を受けて、同県にも緊急事態宣言を発出する様、国に要請する方向で最終調整に入ったと報じられた。東京都知事の小池百合子氏からも圧が掛かった挙句、遂に政府が決断。感染が拡大している東京都、大阪府、兵庫県を対象に特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令する方針を固め、週内にも決定する模様。発令されれば昨年4月と今年1月に続く緊急事態宣言となるが、三度目の正直で今度こそ感染を抑え込める事を期待したい。
4月21日(水曜)
正確な日付は把握出来なかったが、つい先日にtwitterへ投稿された一文。「2019年の笑顔を取り戻そう」、「日本全国1つ空の下、同じ想いの人たちが繋がり合い」「新鮮な空気を吸って、素顔で笑い合い、楽しく遊びませんか?」と老若男女に或る行事への参加が呼び掛けられ、其の行事が「企画者が把握できないほどに」広がった果てに「日本全体が笑顔で包まれますように」との美辞麗句で締め括られるも、企画名は「全国同時ノーマスクピクニックデー」。大型連休中の5月1日及び2日に全国各地で同時多発的に「マスクを着けずに屋外でピクニックを楽しむ」との活動内容が世人を戦慄、或いは呆れ果てさせた。都内3箇所と秋田や茨城に神奈川と埼玉と千葉、大阪と京都と兵庫、広島や香川、福岡の2箇所と鹿児島、そして沖縄の合計17箇所が会場とされるも、無断で決定された現地自治体も当惑。
批判が殺到したのは当然の成り行きだったが、一昨夜に開催場所等の詳細が削除され、昨日に「主催者一同」が全面中止を発表。理由は「予期せぬ形での拡散・報道により、個人的な誹謗中傷」等が多く寄せられて「参加者の身の安全を考慮した結果」との事。改めて「お互いの表情が見えないことで心身に影響が出ている子ども達」「マスク依存症になってしまった子ども達」「今まさに顔認知を養っている赤ちゃん」の為に「マスクのない世界に少しでも居させてあげたい」、「コロナ騒動に疑問を持たず、過剰な感染症対策を受け入れることは、子ども達の成長に大きな悪影響を及ぼす」「子ども達の笑顔・日本の未来のために、これからも私たちは信念を持って、歩み続けます」と主張する等と意気軒昂で、決して感染拡大を助長する恐れに関して反省した訳では無い模様。
主催者や賛同者のtwitter投稿や経歴欄を見ると、「ワクチンは不要」「5G反対」「マスク社会を終わらせよう」「コロナ騒動にいつまでも騙され従っていては未来は守れません」、「ワクチンを売りたいがために、コロナは怖いウイルスでないといけない製薬会社」、「#子供にマスクを付けさせるな」「新型コロナウィルスは『国民を支配する為』に何年も前から計画されたTVメディアウィルスです」等の文句が並び、比喩では無く眩暈を起こしそうになった。
COVID関連の陰謀論は「新型コロナは中国の生物兵器」、或いは「新型コロナはただの風邪」若しくは「そもそも存在しない」との二派に大別されるが、本件も含めて現在は後者が多くなっている由。其の理由に関して、ウイルスの危険性を肯定する生物兵器説では結局、行動様式が世間の大多数に似通ってしまって「自分は大衆とは異なる」との実感から得られる快楽が乏しく、陰謀論がInternet memeとして拡散する原動力として弱いのではないか、との考察を読んだ。
4月22日(木曜)
世界保健機関(World Health Organization; WHO)の纏めた情報に拠ると、世界の新型コロナウイルスの一日当たりの新たな感染者数は本日の速報値で88万人を超え、此れ迄で最多。取り分け患者数増加が著しい国は印度。
印度政府は本日、新たに31万4835人の感染を確認したと発表。同国で一日当たりの感染者が30万人を超えるのは初めてで、米国で今年1月に確認された凡そ30万人を上回り世界最多と報じられた。一日の死者数も同国内では最も多い2104人との事。首都の新德里や最大の商業都市たる孟買では病床の空きが殆ど無く、医療用酸素も不足する等と医療体制は逼迫。Narendra Damodardas Modi首相が20日演説で「経済への影響を考慮して、厳しい外出制限措置は最後の手段にすべきだ」と述べるも、ニューデリーやムンバイでは各々の地方政府が厳しい外出制限を開始。ワクチンを少なくとも1回接種した者は人口の1割未満に相当する1億人余りとなったが、政府は来月から接種対象を45歳以上から18歳以上に拡大する事を目論むもワクチン不足が懸念される状況有り。
また同国内の二州で最初に確認されたのが二重変異株、"B1617"。L452RとE484Qの二箇所で遺伝子変異を認めるのが特徴で、感染力が強く免疫を掻い潜ってワクチン効果に影響する可能性も指摘されているが、本日の記者会見で加藤勝信官房長官は「件の二重変異株が日本国内で5件確認された」旨を公表。「情報収集と評価分析を進め、水際対策や監視体制を強化して感染拡大防止を徹底したい」と述べた由。
東京都のモニタリング会議は「都内の略全ての感染が変異株に入れ代わった場合、2週間後に新規陽性者数は2000人、入院患者数は6000人を超えると推定。小池都知事の発した「大型連休と云う特別な期間が此れからやって来る」「最早、一刻の猶予も無い」との言が止刺刃となりしか。政府も昨年4月、本年1月に続く三度目の緊急事態宣言を出す事を今夜に決断。東京、大阪、兵庫、京都の4都府県を対象に、今月25日から来月11日迄の期間で発令する方向で明日の分科会に諮る旨が与党側に伝えられた由。いよいよ風雲急を告げ、暗雲垂れ込める世情となって来たか。
4月23日(金曜)
本日午前に基本的対処方針分科会が会合を持ち、政府方針を了承。閉会後に尾身茂会長が報道陣の取材に応じて「変異株の広がりも有り、強い措置が必要だと云う事には、誰も反対しなかった」と語り、今夕に首相官邸で新型コロナウイルス対策本部も開催。既報の通り東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象とし、遂に三度目の緊急事態宣言発令が正式決定した由。
期間は今月25日から5月11日迄とされる一方、尾身氏曰く「5月11日になったら無条件に解除する」展開を承認した訳では無く、「状況がステージ3相当になっている事が解除の最低条件」と云うのが分科会の総意。「期限迄にステージ3になっていなければ延長も有り得る」との見解が語られたとの報道有り。同じ期間で「蔓延防止等重点措置の適用対象に愛媛県を追加する」事や「既に適用中の宮城、沖縄両県の期限を5月5日から11日に延長する」事も併せて決定。
緊急事態宣言の再発令に際し、各都府県は「酒類を提供する飲食店に休業要請」、「提供しない場合は時短要請」を行う方向で調整を開始。其の一方で萩生田光一文部科学大臣は、発令後も4都府県の小中高校に「地域一斉の臨時休業を要請する事は考えていない」と発言。また大阪市教育委員会が授業について、自宅での回線接続学習と学校での印刷物学習を組み合わせて対応する方針を示した由。プロ野球と蹴球J LEAGUEも、宣言対象地域での試合を無観客で開催する事や日程延期も視野に入れて対応を検討。
昨日の気候変動首脳会議で菅総理大臣が「我が国は2030年度に於いて、温室効果気体を2013年度から46%削減する事を目指します」「更に50%の高みに向け、挑戦を続けて参ります」と世界へ宣言。
其れに呼応したのか、自民党内で能源問題に関する動きが活発化。元幹事長の細田博之氏が会長を務める「電力安定供給推進議員連盟」。そして元防衛大臣の稲田朋美氏が会長を務め、前総理大臣の安倍晋三氏も参加する「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」の二勢力が原発の新設や増設、原発の再稼働に向けた審査を効率化すべき等と主張する現状有り。
地球環境を守る為に二酸化炭素を削減するのは時代の要請としても、国難の真只中で加速させるべきか否かは議論が必要だろう。環境保護の美名の下に福島第一原子力発電所事故の悲劇が顧みられる事も無く、コロナ禍に喘ぐ国民の預かり知らぬ所で原発が増やされる未来を危惧する。東京五輪の中止が検討されたとの話も聞こえぬ儘、本日23時15分迄に5113人の感染と56人の死亡が確認された由。
4月24日(土曜)
明日から緊急事態宣言が発令される4都府県
では「建物の床面積が1000平方米を超える大型の商業施設」に休業が要請される反面、「生活必需品の販売は休業の対象とならない」との規定有り。東京と関西に店舗を有する百貨店や商業施設の運営会社は、基本的には自治体の要請に応じるとしても一部売場の営業を継続するか否か、本日中の決断と対応を迫られた。
一例を挙げるならば、東武百貨店の池袋本店は明日からは地下食品売場の営業時間を10時から19時迄に短縮し、他の売場は一部を除いて休業する旨を決定。午前に営業態勢の変更を知らせる掲示を店頭に貼り出し、商品の取置きをしている客に翌日から休業との電話連絡を入れる等と対応に追われたと報じられた。従前から飲食店には営業時間の短縮が求められて来たが、更に今回は「酒やカラオケを提供する店」に対して休業が要請される由。
籠球のB LEAGUEは宣言発令に伴い、明日と来月3日に都内で行う試合を無観客とする旨を発表。日本中央競馬会(Japan Racing Association; JRA)も宣言期間中は、対象地域に含まれる東京都府中市の東京競馬場と兵庫県宝塚市の阪神競馬場は無観客で開催する事を決定。此れに伴って春の天皇賞とNHKマイルカップ、二つのG1競走も無観客となる由。「休業要請」を受けた大手の複合型映画館が営業休止を発表する一方、小型映画館は「協力依頼」に応じても協力金は1日2万円。「香典の心算か」等と嘆きつつ、営業を継続する所も出て来る模様。
東京都内に四つ在る寄席も都から無観客開催を要請されていたが、東京寄席組合や落語協会、落語芸術協会が協議した結果、客数を定員の半数以下に減らした上で興行を継続する方針を決定。大衆娯楽は「社会生活の維持に必要なもの」で例外規定に該当するとの主張は稍無理筋かとも思えるし、狭い楽屋に高齢の師匠達が出入りする環境に一抹の懸念は残るが、反骨の気概を感じる。何れが生き残り、何れが滅びるか。神ならぬ身には分からぬ。
4月25日(日曜)
本日に参議院の広島選挙区再選挙と長野選挙区補欠選挙、衆議院の北海道2区補欠選挙が投開票。菅政権にとって初の国政選挙となったが、与野党対決となった広島と長野で自民党は敗れ、候補者擁立を見送った北海道を含めて全敗の結果に終わった由。
広島では、買収に依る公職選挙法違反の有罪判決が確定して自民を離党した河井案里氏の当選無効に伴う再選挙で金権政治への批判が強まった所に、野党が一本化した候補者をぶつけた結果、宮口 治子氏が当選。長野補選は立憲民主党の参院幹事長だった羽田 雄一郎氏が新型コロナに感染して急逝。実弟の次郎氏が野党統一候補となり、所謂「弔い選挙」に勝利。北海道2区補選の事情も広島と大差は無く、農林水産大臣を務めた後に収賄罪で在宅起訴された吉川 貴盛氏が自民を離党、議員職も辞した為の選挙で、野党統一候補として立候補した立憲前職の松木謙公氏が国政に返り咲いた由。長野県以外は自民党の自滅に過ぎず、野党が着実に勢力を伸ばしたとも言えぬものの、国政選挙には「政権に対する有権者の審判」との側面有り。今回の結果が7月4日投開票の東京都議選や首相の衆院解散にも影響するのではないか、との世評も伝え聞いた。
本年2月から先月に職業感染制御研究会と日本環境感染学会が調査。全国76の医療機関で感染対策を担当する医師や看護師に「感染を防ぐ防護具の不足」に関する状況を尋ねた所、高性能のN95マスクが不足したと回答したのは76%、一般的なサージカルマスクは70%、医療用寛服は66%、医療用手袋が33%との結果が得られた由。また不足時に「本来は使い捨ての物品を再利用した」医療機関も多かったらしく、N95マスクやサージカルマスクが不足したと回答したうちの67%が「再利用した」由。
感染の危険を上昇させる再利用が望ましくない事を医療者は皆、承知しているが、現物が入手出来なければ背に腹は代えられぬ。当方の勤務先でも昨年に一時、「サージカルマスクの使用は一人に付き1日1枚まで」との院内通達が出て、午前の外来を終えて医局で昼食を摂った後、同じマスクを午後も着用せざるを得ない時期が有ったのを思い出す。しかし、知識と経験、弁舌と度胸さえ有れば無手でも何とか診療が成立し得る当科の方が例外に属しており、大半の身体科では機器や材料が揃わなければ相応の経験を有する医師も本領を発揮出来ぬ道理。
新たな感染者が連日30万人を超える印度ではマスクやガウンの不足に留まらず、COVID感染で呼吸困難を来した感染者に吸入させる肝心要の医療用酸素すら各地で欠乏。一昨日、新德里の或る病院では夕迄に供給される筈の酸素が届かず、深夜の到着を待てずに20人が死亡した由。印度政府が酸素の増産や緊急輸入等の手を打つも感染者の増加が勝り、ニューデリーでは1日に酸素700瓲の必要量に対し、政府から割り当てられるのは480瓲に留まっている模様。此れも一種の医療崩壊と言うべきか。




