令和3年3月第3週
3月15日(月曜)
PfizerとPfizerの製品よりも安価で輸送や管理が容易な事から、世界的に使用が拡大して来たAstraZeneca製ワクチン。しかし、今月7日に墺太利で49歳女性が接種後に「深刻な凝固障害」を来して死亡。35歳女性が「肺塞栓症を発症したが、回復しつつ在る」との事態が生じ、当局が当該ワクチンの接種を一時中断すると発表。
欧州医薬品庁(European Medicines Agency; EMA)は10日に接種と血栓の関連に否定的な見解を発表。接種継続を訴えたが、11日に丁抹が「自国でも死亡例が1件有った」として当該ワクチンの接種を2週間停止。同じ北欧の諾威と諾威も追随。独仏伊を含む多くの国も後に続き、アストラゼネカの御膝元たる英国が「何も懸念は無い」、波蘭が「恩恵は危険性を上回っている」との見解を示すも、欧州だけで十数ヶ国が接種を一時中断。
斯様な情勢に対し、世界保健機関(World Health Organization; WHO)の首席科学者たるSoumya Swaminathan氏は「現在の所、新型コロナワクチンと血栓性との関連性は確認されていない」、「恐慌を起こして欲しくない」と発言。連合を脱退した英国に対する感情が欧州諸国の判断に影響しているとの声も有り、感染拡大が続く中、人口が多い主要国に於ける接種中断で「既に遅延している欧州の接種状況を巡る懸念が一段と高まる」事が懸念される。
我が国では、本日に参議院の予算委員会。立憲民主党の青木愛氏の質問に、対策分科会の尾身茂会長が答えて曰く。感染急増が指摘される新型コロナウイルス変異株への対策に関して「今までの延長では、なかなか難しい」。変異株に依って感染拡大が加速する可能性を踏まえつつ「最悪の状態を考えてやらないといけない」。首都圏で感染者数が減らない現状に就いては「見えない感染源が有るのではないかと云うのが我々の判断」で「其の事を放置したままにただ延長、また解除をしても本質的な解決にならない」等と語り、「重要な事はしっかりとした現状の把握だ」と更に感染調査を徹底する事の必要性を説いた由。
3月16日(火曜)
AstraZeneca製ワクチンの副反応問題は、約110万回分のワクチンが今月8日に届いたばかりの印度尼西亜にも影響。同国では1月から中国のSinovacが開発したワクチンを医療従事者に接種していたが、今月9日にアストラゼネカ等が開発したワクチンの緊急使用も許可。「国内の回教団体によるハラル認証」を経て接種の開始時期を決める予定だったが、血栓の件を踏まえて15日に保健大臣のBudi Gunadi Sadikin氏が「ワクチンの接種計画を見直す」と述べた。
其の一方で今月12日に予定していたPrayuth Chan-o-cha首相への当該ワクチン接種を急遽延期し、国民への接種も見合わせた泰国では、アストラゼネカの声明やWHOの見解を受けて同国の医療チームが「安全性を総合的に判断した」として、本日から接種を開始。自ら接種を受けたプラユット首相は「国民の間にワクチン接種への信頼感が高まってくれれば良い」と述べた由。アストラゼネカは日本政府との間で6000万人分を供給する契約を結んでいるが、都内で「日本の接種計画に影響は無いか」と記者団から質問された菅義偉総理大臣は「まずは、情報をしっかり集めて、それを精査したうえでの判断になると思う」と当たり障りの無い回答で応じたとの事。
そして本日、EMAが改めて会見。依然としてワクチンと血栓症発生の因果関係を示す情報は発見されず、「接種した凡そ500万人のうち血栓症は30件」で「非常に稀」。従前通りの「接種に依る利益は危険性を上回る」と云う見解を再確認する一方、18日に専門家を集めた緊急会合を持ち、調査結果の詳細を公表すると共に接種に関する方針を発表するとの事。 接種を見合わせている国の多くはEMAの判断を待つとしていたが、本日に仏蘭西のEmmanuel Macron大統領と伊太利のMario Draghi首相が電話会談。両首脳はEMA見解を「心強い」と歓迎しており、「調査の結果が肯定的で在れば速やかに接種を再開する用意が有る」とは伊首相府の弁。
3月17日(水曜)
総務省接待事件に対し、本日に第三者委員会が初会合。衛星放送に携わっていた東北新社からの接待に依って行政が歪められたと云う事実、有りや無しやを検察官出身の弁護士等の4名が検証。また東北新社に関する「4年前の外資規制違反」を巡り、同社が「違反に気付いた後、即座に総務省担当局の総務課長に面談、報告した」と申告している一方、当時の総務課長は「記憶は全く無い」と語る等、双方の説明に齟齬有り。此の件に関しても、第三者委員会が調査する模様。
と云う日取りを狙ったのか否かは不明だが、本日に「武田良太総務大臣がNTTの澤田純社長と会食していた」旨を週刊文春が報道。場所は皇居に程近いパレスホテル館内、日本料理店「和田倉」。澤田社長とNTT docomo独立社外取締役の遠藤典子氏、武田大臣とJR東海の葛西敬之名誉会長が同席した由。
情報源の「NTT関係者」曰く、本来は一昨年に澤田社長と遠藤氏がJR東海の葛西氏と小菅俊一副社長をNTTの迎賓館とも云うべKNOXへ招いて歓待したのに対し、返礼として葛西氏側が和田倉での会合を設定。其処に「武田大臣を連れて行ったのはNTT側」で、具体的には「週刊ダイヤモンド副編集長を経て、2016年6月にNTT docomoの社外取締役に就任」「澤田氏の覚えがめでたい一方で、武田大臣とも以前から関係が深い」遠藤氏だったとの事。武田大臣は国会で「国民の皆さんから疑念を招く様な会食に応じる事は有りません」と語り、「では疑念を招かない食事はしたのか」と問われても頑なに同じ答弁を繰り返して国会を紛糾させて来たが、或いは今回報道の会食が明るみに出る事を予期しての言動だったのかも知れぬ。報道された会食に就いて、JR東海の広報部東京広報室は「事実で御座います」と回答。
彼等が共に美食を堪能した昨年11月11日は、NTTとdocomoの命運を左右する株式公開買付(Take Over Bid; TOB)の最中。9月29日に澤田社長はdocomoの完全子会社化を発表し、翌日からTOBを推進。「史上最大と言われる4.2兆円規模のTOB」が完遂されたのは会食の僅か6日後、11月17日の事だった。TOBの最中にNTTやdocomoの幹部が「事業計画等を認可する立場」の総務大臣を会食に同席させていた事になり、澤田社長と武田大臣との関係性に就いて説明を求める声が上がるのは不可避の声有り。
3月18日(木曜)
首都圏に目下発令中の緊急事態宣言に関し、感染症専門家等で構成される諮問委員会が会合を持ち、午前7時半から西村康稔経済再生担当大臣や田村 憲久厚生労働大臣も出席。
西村氏は「新規陽性者の数は横這いから微増の傾向」と指摘しつつも「病床の使用率等の指標でステージ3が確実となっている」「無症状者へのモニタリング検査の実施など、感染の再拡大防止の取り組みを進めている」と説明。田村氏は「緊急事態宣言はもう2か月半」となり、「自粛疲れ」を避ける為に「メリハリをつけた対策が必要」と主張。多少の議論を経て、委員会が「期限の今月21日で解除」との政府方針を了承。今夕にも「宣言解除が正式決定」の方向に大勢は定まった模様。
緊急事態宣言と言えば、昨年5月21日の項に記した事だが。初回が発令されて全国民が不自由に耐えていた最中に「東京高等検察庁の黒川弘務元検事長が産経新聞や朝日新聞の記者と賭け麻雀をしていた」事実を例に依って週刊文春が暴き、市民団体が刑事告発。翌7月に東京地方検察庁は「一日に動いた金額が多いとは言えない」等の理由で起訴猶予としたが、12月に東京第6検察審査会が「違法行為を抑止する立場に在った元検事長が漫然と継続的に賭け麻雀を行っていた」事実が社会に与えた影響は大きいと指摘し、起訴すべきと議決。
再び捜査を迫られた東京地検は一転して、黒川氏を賭博の罪で略式起訴。略式起訴とは「検察が簡易裁判所に書面だけの審理で罰金等を求める手続き」で在る為、今後は「簡易裁判所が検察の請求が妥当だと判断」「元検事長が罰金を納付」する事で正式な裁判は開かれず、審理終了となる模様。
週刊文春が「NTTの澤田社長等と会食していた」とした報道に対し、武田総務大臣は衆議院総務委員会で「葛西名誉会長との会食に同席した事は事実」だが「葛西氏から声掛けが有り、当日まで他の出席者を知らなかった」、「別の予定が有った為、御酒のみ頂いて中座し、費用として1万円を支払った」と説明。更に「出席者から特定の許認可などに関する要望、依頼を受けた事は無く、大臣規範に抵触する会食では無かったと思っている」と強調。「NTTがNTTドコモの完全子会社化に向けた株式公開買付を行っていた時節で、国民に疑念を抱かせる会食だったのではないか」との指摘に対しては、「NTTドコモの完全子会社化は法令上、総務省の許認可が必要なものでは無く、NTT側の経営判断で実施する事が可能」と反論した由。
NTTからは「会食は民間の方が宇宙に関連する議論の為に企画された」「NTT側から武田大臣を呼んだと云う事実は無く、会食の場でNTT側から業務上の要請をした事実も無い」との声明有り。共産党の志位委員長が「週刊誌に書かれたら会食の事実を渋々認めると云う在り方自体が国民の疑念を生んでいる」と記者会見で訴える等と野党の批判も呼んだ。「宇宙に関連する議論」とは実に高尚だが、続報が出なければ此れで幕引きとなるか。
3月19日(金曜)
新型インフルエンザの治療薬として開発されたアビガンに関し、昨年4月の時点で日本政府は「新型コロナウイルスへの効果も期待出来る」として「次年度中に200万人分を備蓄する」計画を策定。しかし、12月の時点で厚生労働省の専門家部会が「現時点の資料では有効性を明確に判断するのが困難だ」と承認可否の判断を見送った上に、先月下旬迄の凡そ1年間に観察研究で使用された量は全国で1万800人分。計画している備蓄量の0.5%程度に留まり、感染症対策の専門家から計画の再検討が必要かとの指摘を受けていた。
然れども厚生労働省は、本年1月に富士フイルム富山化学から55万人分を購入。更に本日付で79万人分の契約を締結し、費用は締めて139億円。備蓄済の70万人分と合わせて、当初の計画通りに200万人分が確保される予定。厚生労働省は「製薬企業が既に契約の準備を進めていた」「感染が拡大している中で危機管理の観点から必要と判断した」、「承認されれば治療薬として使いたい」との声明を出したそうだが、承認されなかった場合は果たして誰が、如何にして責任を負うのだろうか。
順天堂大学の大学院医学研究科、耳鼻咽喉科学講座の池田勝久主任教授が第一薬品産業株式会社と共同で「新型コロナウイルス感染症の早期診断に役立つ」と云う「簡易嗅覚確認キット」を開発。
鼻腔には第1脳神経たる嗅神経の他に、第5脳神経たる三叉神経の枝も伸びており、或る種の刺激性物質に依って生じる「鼻にツンと来る感覚」を匂いと混同してしまう事象も起こり得る。此の点を考慮して開発された当該キットには「三叉神経刺激のない合成単一香料」であるVerdoxとSotoloneを使用。前者は青林檎様、後者は焦砂糖様の匂いがする由。開発の過程で匂いを感じ取れる最小の濃度、即ち閾値には50歳を境に相違が存在する事も判明し、「50歳未満用」と「50歳以上用」の2種類の濃度を設定。1個が数ヶ月間に渡って利用可能で「検温の如き日々の気軽な使用で早期に嗅覚異常を悟る事を可能」、「個人が自宅で嗅覚の状態を自己確認する」目的で使用すれば「新型コロナウイルス感染症の早期診断や無症状感染者の発見の一助」となる等の謳い文句通りに使えるかどうかは分からぬが、来月中旬頃より発売予定との事。
役に立たぬ方で太鼓判が押せるのは、コロナ禍で蔓延る「空間除菌用品」の類。2011年に国民生活センターが行った調査に於いて「二酸化塩素に依る部屋等の除菌を謳った商品」は「どの程度の除菌効果が有るのか不明」と結論付けられてから既に十年が経過。
更に2014年3月、消費者庁も「二酸化塩素を発生させる商品を部屋に置いたり首から下げたりするだけで空間除菌が行える」とした宣伝には「根拠が無く、景品表示法違反に当たる」として行政処分を下した。処分を受けた17社には近年もテレビ等で大々的に広告を打ち、空間除菌用品市場で売上の多くを占めるクレベリンを販売する大幸薬品も含まれる。 「ラッパの商標の正露丸」で我等の年代には御馴染みの同社なれども、日露戦争開戦2年前の明治35年、1902年に販売開始の旧名「忠勇征露丸」の売上は下落の一途。創業者の孫で「医師として18年間の勤務経験」も有すると云う柴田高氏が現代の社長を務めるが、氏を取材した某記事から「効果が怪しい事は重々承知の上でクレベリンに社運を賭けた」事情が読み取れたは僻目か。昨年5月にも、消費者庁が「身につけるだけで空間のウイルスを除去」等と謳った5社に対して、「合理的根拠が無い恐れが有る」と行政指導を行い、此の間も世界保健機関や厚生労働省は一貫して「“空間除菌”は非推奨」との見解を示している。
医薬品や医薬部外品として認められた商品は無く、商品としては「雑貨」の扱いながらも「売れるから作る」という生産者側の経済合理性と「念には念を入れたい」と云う消費者心理が重なって生き残り続ける点では、二位本国内で1.5兆円とも言われる一大市場を形成する健康食品事情と同じ構図。「効果の乏しい方法に頼っては三密回避やマスク着用、消毒を疎かにする人々が今日も感染を拡大させているか」と思えば、医学士の末席を汚す者としては心穏やかでは居られぬ。しかし、ガンダム世界のニュータイプ論でも在るまいし、全ての人類に英知を授ける事は神ならぬ身には不可能と諦めよう。
3月20日(土曜)
本日18時からの五者会談。東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の橋本聖子会長と東京五輪・パラリンピック競技大会担当大臣の丸川珠代氏が出席。東京都の小池百合子知事と国際オリンピック委員会(International Olympic Committee; IOC)のThomas Bach会長、国際パラリンピック委員会(International Paralympic Committee; IPC)のAndrew Parsons会長は回線接続にて参加。会談では「変異したウイルスに因る影響が予測出来ない」「国内外の感染状況等を踏まえて現在の状況では海外から日本への自由な入国を保証するのは困難」等の理由から、「日本側から海外からの観客の受け入れを断念する」と報告。IOCとIPCは安全最優先な大会とする方針に則り、此の結論を尊重して受け入れる事を表明。
会談後に「海外で販売された五輪が約60万枚、パラリンピックが約3万枚に及ぶチケット」が払い戻しとなる。組織委の橋本会長が「本当に残念だが、全ての参加者、日本国民にとって安全安心な大会を実現する為の結論だ」と述べた。諸外国の新聞は「大会の主催者は、世界中の愛好者の希望に終止符を打った」、「前例の無い決定」で「大会の主催者は人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして開催出来るとしていた」が「世界の殆どの地域でテレビ観戦が中心」となり「五輪の特徴で在る国際的な遊宴の様な雰囲気はあまり感じられなくなるだろう」等と報じた等と聞いたが、斯様な些事はどうでも良い。
開会式まで僅か4ヶ月。此の期に及んで「海外からの客は入れない」と決めた所で、世界中から集まる選手団と関係者に対して十分な感染防止策を講じる時間は無い。国内でのワクチン接種が7月迄に終わる筈も無し。五輪強行は「日本で大規模な集団感染が起こり、世界へと拡散する」結果を招き寄せる事に等しいが、我が国の状況は着実に其の未来へと近づきつつ在るのだ。灼け付く様な絶望を噛み締める。
3月21日(日曜)
本日を以て首都圏の1都3県の緊急事態宣言は解除されたが、其れが政治的判断の結果に過ぎぬのは誰もが知る所。同じく本日、都内で256人が新型コロナウイルス新規感染が確認された。一週間の平均は301.1人で、前週の107.9%。7日間平均が前の週から増加するのは9日連続となり、7日間平均が300人を上回るのは先月23日以来との事。黄金週間明けとの下馬評が正しいかどうかは知らぬが、感染第四波が一歩近づいたと感じる。
今週の某日、一医療者としてコミナティ筋注の先行接種を受けた。問診票に「引換券記載と現住所に相違は無いか」、優先接種者として「医療従事者」「65歳以上の高齢者」「65歳未満の高齢者」「基礎疾患を有する者」のうち何れの群に属するか等の項目が有った事。皮下注射では無く、肩に打つ筋肉注射だった事を除けば、毎年のインフルエンザ予防接種と大差無し。日々の鍛錬で三角筋を肥大させた成果か、個人的には注射されても痛くも何とも無く、翌日と三日目に極軽度の筋肉痛が出た程度で済んだ。周辺では「腕が上がらない程に痛んだ」と訴える者も居たが、当院でアナフィラキシーが発生したとは聞かぬ。




