令和2年10月最終週~11月第1週
10月26日(月曜)
開発競争の最右翼と目される、英国にてOxford大学とAstraZeneca社が開発中の新型コロナウイルス用ワクチン。初期の治験結果として「18歳から55歳の健常被験者に強い免疫反応を引き起こす」事が公表済だったが、本日に同国のFinancial Times紙が報じた所に依ると「同様の反応が高齢被験者群でも確認された」と開発関係者が語った由。
開発陣から公式の反応は出ていないが、報道が事実ならば「死亡率や重症化率が極めて高い反面、免疫反応が衰える高齢者でも有望な結果が示された」事となり、ワクチン投与に対する期待が高まるとの声有り。当該のワクチンは現在、第三段階の治験に入り、先週には一時中断された米国での治験も再開が許可された模様。ワクチンに対する過大な期待が更に膨らんだ挙げ句、糠喜びの顛末とならねば良いが。
10月27日(火曜)
今月に米国の製薬会社Eli Lillyは、COVID-19治療用に自社が開発したモノクローナル抗体製剤に関し、国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)傘下の研究所が主導する入院患者向けの治験「"ACTIV-3"の登録が中断された」旨を公表。更に昨日、そのまま同治験が終了する事が明らかになった。今回の決定に就いて、同社は「此の抗体医薬が病状の進行した段階にあるコロナ入院患者の回復を助ける可能性は低い事を示唆する調査結果に基づくものだ」と説明した。
治験に於いて同社の抗体医薬は「相当な高用量」が投与されたと聞くが、NIHも昨日に「リリーの抗体医薬は入院患者向けでは効果がない公算が大きい」と発表。しかし本日、リリー社の責任者は、そうした結果が「予防や初期治療に成功するチャンスを損うとは想定していない」と語り、軽度から中程度の患者向け抗体薬の臨床試験に就いては引き続き「承認に漕ぎ着けられる」と自信を示した由。同社は既に1種類の抗体薬に関する緊急使用許可を食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA)に申請しており、早ければ来月には複数の抗体を合わせた「抗体カクテル」の緊急使用も求める方針との事。
入院を要する様な重症例に活用するのは難しくとも、「ウイルスが肺に深く侵入し、深刻なダメージを与える前段階ならば有効」と云う事は有り得る。「糖尿病治療薬・トルリシティを含む主力製品に価格押し下げ圧力が掛かった」事等が影響して、同社の第3四半期利益が伸びなかったとの事情が有ろうとも、現時点で役立たずの薬を世界へ売り付けようとしているとリリー社を非難するのは、必ずしも公正とは言えまい。
10月28日(水曜)
universal facial masking若しくはuniversal masking、或いはpublic masking 。即ち「無症状の者も含めた社会の全員がマスクを着用する」事が新型コロナウイルス感染予防、特に無症候性の感染者からの伝染を防ぐ為に有用で、2003年のSARSパンデミックを経てマスク着用に慣れた亜細亜諸国では「ユニバーサル・マスキングと感染制御の間に強い関連が示唆された」。米国Bostonからの最新知見として「3月下旬に市立病院でユニバーサル・マスキングが実施された後、医療従事者の間でSARS-CoV-2感染が減少した」等の情報は枚挙に暇が無い。更に9月8日からNew England Journal of Medicine誌で公開された論説に拠れば、「マスク着用が新型コロナウイルス感染症の重症度を低下させる」可能性も提唱された由。
飛躍した意見の様にも思えるが、此れは「病気の重症度はウイルス曝露量に比例する」、「動物に最初に曝露させるウイルス量が多いほど、其の動物は重症化しやすくなる」という従来の知見とも一致している。新型コロナウイルスに関しても、東京大学医科学研究所とWisconsin大学Madison校の教授を兼務する河岡義裕氏を始めとする研究班が「ハムスターに曝露させるウイルス量が多いほど、そのハムスターは重症化しやすい」事を報告しており、試験動物としてフェレットを用いた後発研究でも曝露したウイルス量と重症度との関連が示された。
更に"Surgical Mask Partition Reduces the Risk of Noncontact Transmission in a Golden Syrian Hamster Model for Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)"という論文では、新型コロナウイルスを感染させたハムスターを入れた檻から感染していないハムスターの檻へと換気扇を通じて空気を送り続ける設定とし、その間にサージカル・マスク素材の障壁を挟む事で、マスク着用の擬似的環境を構成。双方ともマスク素材障壁を入れない場合は15匹中10匹、即ち66.7%で感染が成立したのに対し、未感染側にマスク障壁が入れば12匹中4匹で33.3%。感染側に入れると12匹中2匹、16.7%と感染が減少。マスクの伝播予防効果が示されると同時に、通常はハムスターが新型コロナウイルスに感染すると重症化する事が多いのに対して「マスク障壁を超えて感染したハムスターも軽症で済んだ」事も報告されており、重症化阻止効果の可能性も示唆された。
翻って我が国では「マスク未着用の方は入店お断りします」と貼紙の有る餃子店を訪れた実業家の堀江貴文氏がマスク無しの知人2人を伴って入店しようとして店主と衝突した件、「都内のタクシー十社がマスク着用に応じぬ乗客に乗車拒否が出来るよう国土交通省に申請した」との報道を耳にした堀江氏が「タクシーの運転手は高齢の方が多いので情報リテラシー不足」「そんなことに乗客すべてを巻き込まないで欲しい」と自身のYouTubeチャンネルへ投稿した件等が、先月から話題となっている模様。経済悪化を危惧する氏の言い分が全て間違いとも思わないが、空気感染の要素も未だ否定できず、世界的には再び感染が拡大しつつ在る状況。飲食店や車内で常に十分なsocial distancingや換気が保てるとも限らず、「自身と周囲を守る為にマスクを着ける事は今後も重要」と云うのが常識的判断だろう。
10月29日(木曜)
欧州連合の要たる独逸にて、昨日にAngela Merkel首相が発表。新型コロナウイルス感染拡大への対策として「文化・娯楽施設や飲食店に対し閉鎖命令を出す」由。「カフェ・バーを含む飲食店と劇場・映画館は閉鎖」、「プールやジム等の運動施設も閉鎖」するが「職業競技は無観客で開催」。宿泊は「観光目的で無いものに限定」され、「集会の最大人数は2世帯10人迄に制限」されるが「学校や小売店は閉鎖の対象とはならない」等の措置が11月2日から実施され、来月末まで継続される予定。国内16州の首相達との協議を終えたメルケル氏は今回の措置が「厳格で辛いものになる」事を認めた上で、現在の新規感染者の増加ペースでは「医療保健システムの限界に達する事になる」と指摘。国民に理解を求める一方で、同国政府は今回の措置で経済的打撃を受ける部門に対して最大100億ユーロ、日本円にして約1兆2300億円の支援を表明。
25日の時点で一日当たりの新規感染者数が初めて5万人を突破した仏蘭西でも、昨日にEmmanuel Macron大統領が国民向けにテレビ演説。29日夜から「少なくとも12月1日」迄の期間に「新たな都市封鎖を導入する」と発表した。此方でも学校は閉鎖されず、全面的な活動停止による経済への打撃を軽減する為か、工場や農場は操業が許され、公的サービスの一部も稼働を続ける模様。違反者には前回と同様、罰金が科される旨が示唆される一方で、マクロン氏は「2週間後に状況が改善すれば措置を見直し、特にクリスマス休暇迄には一部店舗を再開させたい」「我々が降誕祭と新年を家族と共に祝える様になる事を願う」と述べた由。
斯様に欧州で感染拡大が続く中、一昨日に韓国の放送局が報じた所に拠ると、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee; IOC)のThomas Bach会長が「満員の観衆が理想的」だが「現実的には可能ではないと思う」と述べ、新型コロナウイルスの影響で来夏に延期となった東京五輪・パラリンピックで「観客の制限が必要」との認識を示した由。来夏の開催自体を危ぶむ声に関しては「中止になる可能性が有るというのは単なる臆測に過ぎない」と否定し、「来年7月23日に開会式が行える様に全力を尽くす」為に感染対策を徹底すると語ったとの事。先月10日の項に「副会長が7月23日開催の断行を宣言した数日後、会長が釈明に追われる」との右往左往振りを記したが、ひとまず開催の方向で動いてはいると云う事か。
10月30日(金曜)
2003年の重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome; SARS)感染拡大時に世界保健機関から依頼を受け、「SARSを発症させるコロナウイルスの感染メカニズム」を調査した豪州の物理学者。Queensland工科大学のLidia Morawska氏に依ると、煙霧質を構成する最小の飛沫は肺の深部に在る細気管支で作られ、粒が小さければ小さいほど空気中を浮遊する時間が長くなり、遠くまで移動可能となる。Graham Richard Johnson氏は様々なパターンの呼吸で排出される煙霧質を細かく計測。収縮・拡張する細気管支の表面で粘液が石鹸の泡のように弾ける事を突き止め、2009年にモラウスカ氏と連名でJournal of Aerosol Medicine and Pulmonary Drug Delivery誌上で"The Mechanism of Breath Aerosol Formation"なる論文を発表した。
此れが肺の奥深くで極小の煙霧質が作られる主な仕組みだと考えられる一方、類似した現象は気道の上部でも起こる。California大学Davis校でウイルスの伝播に就いて研究する化学工学者のWilliam Ristenpart氏は「細気管支と同様に、声を出すと声帯が開閉して気道の粘液が弾け、極小の飛沫が作られる」と語る。1秒間に約百回と云う声帯の高速開閉から生じた飛沫は呼気に乗って体外へ運ばれ、口腔内でも舌が動き、目に見える程の大きな唾液煙霧質の飛沫が作られる。煙霧質の排出は鼻から有るが、最も多いのは口から。呼吸器で煙霧質が作られる仕組みは誰でも共通の筈だが、実際の排出量は千差万別。リステンパート氏の研究チームが昨年に「話し声が大きければ大きいほど、排出される極小飛沫の量が多くなる」という論文をScientific Reports誌に発表した際、「同じ音量で話しても大量のエアロゾルを排出する」人間、super emitterの存在が確認された。この超排出者がsuper spreader/超感染拡大者になる可能性も想定されている。
リステンパート氏は超排出者の要因として、気道粘液の粘度を仮定。「大量の煙霧質を排出する人が霧状の塩水を吸い込むと煙霧質が減る」との報告が存在し、此れが「塩水の霧を吸い込む事で気道液の粘度が下がる」事が理由だとすれば「気道液の粘度が高い人は、より多くのエアロゾルを生産する」との結論に至るものの「呼吸器の感染症や慢性疾患で気道粘液の性状が変化する」「飛沫から水分が蒸発して小さくて濃度の高い粒子ばかりになり、測定結果が歪められる」、「空気の温度、湿度、流れが計測しようとする煙霧質を変化させてしまう」等の問題あり。数十年に渡って進展の乏しかった煙霧質に因る感染伝播の研究だったが、今年は「新型コロナウイルスは何故、2003年に発生したSARSよりも空気を介して感染しやすいのか」の疑問が微小飛沫感染の概念を介して解明された事で注目を集めた。モラウスカ氏を含む多数の専門家が「2メートル超の距離を置いても新型コロナウイルスに空気感染する可能性が有る」「この認識に応じて感染防止策を見直すべきだ」との声明を発表した事は7月7日の項で既報の通りだが、現在はWHOや米疾病対策センター(CDC)も賛同している模様。
9月28日の項にも記した「感染症危険情報」の再検討に関し、本日に茂木敏充外務大臣が会見。中国を含む九つの国と地域は「感染状況が落ち着きつつ在る」と判断され、危険レベルを引き下げる由。対象となるのは他に韓国、台湾、越南、新嘉坡、泰國、文萊、豪州、新西蘭。いずれもレベル3「渡航中止勧告」だったが、本日付でレベル2「不要不急の渡航自粛」に緩和。各国が行う出国制限で邦人が帰国出来なくなる事態に備え、全世界一律に出していた「危険情報」も解除される模様。
10月31日(土曜)
自粛を強いられる生活の中で原作漫画、テレビ版とも空前の人気を博した「鬼滅の刃」。英題“Demon Slayer” の劇場版「無限列車篇」が今月16日から18日までの3日間で、約46億円との興行収入を記録。
日本を除く全世界の同期間に於ける映画興行収入を上回り、今月20日付のNew York Times紙上でも驚きを以て報道された。記事では「コロナ禍で対抗馬となり得るハリウッド作品の上映が無くなった」との要因も指摘しつつ、欧米で新型コロナウイルス感染が再拡大する中、日本国内では感染者数、死亡数とも低く抑えられており「東京では少なくとも表面上は日常生活が殆ど正常に戻っている」事、加藤勝信官房長官が「新型コロナウイルス禍に於ける映画産業に大変大きな貢献を頂いている」、西村康俊経済再生担当大臣もTwitterに投稿する等と官僚2名が映画の成功に言及した事、新宿地区の或る劇場で「午前7時から翌朝早く」迄に42回の上映が予定されて「映画の上映予定表と言うよりはバスの時刻表の様に見える」との冗句が生まれた事等も伝えられた。
また別の報告では、日本語tweetの中で「鬼滅」が含まれる割合を算出。複数の頂点のうち、目立って大きなものは週刊少年ジャンプで連載が終了した5月に見られるが、今月の峰は其れを上回って最大。映画公開直後の週末は5日に渡り、全tweet中の1.0~1.6%近くに「鬼滅」という単語が含まれていたが、主購買層で在る小学生の投稿は多くないと思われる事から実際の人気は更に高いものと推測される由。人気が沸騰するばかりの状況下で本日にhalloweenを迎えて、日替わりでネットに上載される芸能人の鬼滅コスプレに食傷。
5月14日の項に少し記したが、当方はアニメ化以前からの原作派。止め処も無い関連グッズの展開にも辟易するが、其の中でもロッテ「鬼滅の刃マンチョコ」の出来は悪くない。殊に目を見開き、日輪刀を右脇に構えて飛び込まんとする煉獄杏寿郎の絵姿は、ビックリマンの様式美に合わせて生まれて来たかの如くに雄々しい。
11月1日(日曜)
欧州各国で新型コロナウイルス感染の第二波が広がり、独逸、西班牙、英国、伊太利、仏蘭西では連日1万人を超える感染者が発生。第一波の規模を大きく超える感染者が出る中、先月27日に国際サッカー連盟(Fédération Internationale de Football Association; FIFA)から「Giovanni Vincenzo Infantino会長が検査で陽性反応を示した」との発表有り。氏はスイス出身の50歳で、2016年2月に就任して昨年から2期目に入っていたが、軽症と診断されて最低10日間は自主隔離となり、直近数日間の接触者にも連絡済との事。
また世界保健機関のテドロス事務局長も自身の感染に関し、本日にtwitterで表明。「新型コロナ検査で陽性と判定された人物の接触者と認定された」「健康で症状は無いが、WHOの手続きに従って今後数日間は自主隔離し、自宅で執務する」と書き込んだ由。
日本国内では先月28日、体操選手の内村航平氏が日本代表の合宿中に受けたPCR検査で陽性と判定され、29日に国際体操連盟が緊急会見を開いて公表。翌30日に体操日本代表の全員が臨時のPCR検査を受け、内村氏は他に2カ所の合計3カ所で追加の検査を受けたが、氏を含む全員が陰性。連盟が「内村氏は偽陽性だった」と発表し、練習も再開された由。氏の感染が否定されたのは喜ばしい事として、第二波が完全に収束する事無く横這いで推移して来た我が国に於いても、直近1ヶ月程で新規感染者数が急増。過去には3月中旬から下旬の増加後に第一波が、6月中旬から下旬の増加後に第二波が訪れた事を思い返すと、直近の症例数増加が第三波の予兆で在る事が懸念される。
また当初から指摘されていた事だが、新型コロナウイルスへの感染は「気温が低く、湿度が低い環境」で広がり易いと考えられる為、欧州での感染再拡大についても「徐々に気温が低下している」事と「それに伴い、屋内で換気が十分行われなくなっている」事の影響が疑われる。日本国内でも他に先駆けて寒季を迎え、既に最高気温10℃を下回る地域も出ている北海道に於いて、昨日も一日当たりの感染者数が過去最多を更新。本年2月28日に緊急事態宣言を出した北海道から第一波の流行が日本全国に広がった事を教訓とし、次は喰い止める事が果たして出来るだろうか。




