表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令和コロナ騒動実録  作者: 澤村桐蜂
PR
25/178

令和2年10月第3週

10月12日(月曜)

 3月14日、()しくは15日に世界一周旅行中の邦人男性、片山(かたやま)慈英士(ジェシー)氏が、ボリビアのラ・パスからペルーのクスコへ到着。同日にマチュピチュ村へ移動。世界遺産マチュピチュのふもと)に在る同名の村は、前世紀に林業や鉄道建設で発展を遂げ、世界中からマチュピチュを目指して訪れる旅人達の拠点となっている。翌日にマチュピチュ遺跡の見学を予定していた片山氏だったが、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)に伴い、3月16日に国境が封鎖。遺跡の閉鎖や移動制限も重なって、氏は村に200日以上も滞在する事となった。

 いずれは「自分にしか作ることのできない世界に一つの」拳闘道場(ボクシングジム)を持ちたいとの夢と共にcrowd-fundingも活用しながら旅を続け、拳闘のみならず世界中でムエタイやラウェイ、キックボクシングのジムを巡る道中で子供達に拳闘を教えて来た片山氏は、マチュピチュ村でも先行きの見えぬ状況に落胆する事無く、指導員(トレーナー)資格の勉強をしつつ村の子供達への拳闘指導に励んだ。そんな片山氏にマチュピチュ遺跡を見せてやりたい、と周囲のペルー人たちが支援活動を開始。10月4日の地元紙に掲載された「マチュピチュ最後の観光客」の記事を読んだ人々からの声援が多数寄せられる中で、7日に宿主(やどぬし)の知人がfacebookに動画を上載(アップロード)。其の二日後にはマチュピチュ村役場へ呼ばれて「リマに見学許可申請を出している」との報告を受けた。そして、一昨日。片山氏はペルー政府から特別見学許可を得た唯一の観光客として、感染の不安も無く世界遺産の景色を堪能した由。

 マチュピチュ村には「1917年にペルーに渡った日本人移民、野内(のうち)与吉(よきち)」が「密林に埋もれて廃墟と化していた当時のマチュピチュ遺跡に観光資源としての可能性を感じ、麓に在った人口数十人の小集落に移住」、「1939年にマチュピチュ地区の行政最高責任者に就任」「村へ昇格した後は1948年から二年間に渡って村長を務め、村で初めての旅舎(ホテル)となる『ホテル・ノウチ』や水力発電所を設置して村の発展に尽力」、「初の大型木造建築でも在ったホテルの一部を交番や郵便局、村長室や裁判所として提供」「ホテル・ノウチを中心に村が発展」との歴史有り。奇縁と言うべきか。


10月13日(火曜)

 観光庁発表に()ると、「Go Toトラベル」の事務委託費を除いた予算総額1兆1200億円のうち宿泊の補助として利用されたのは、先月15日の時点で735億円。全体の(およ)そ7%に留まっているにも関わらず、観光庁が旅行事業者毎に配分した予算の底が見えて来た事から「Yahoo!トラベル」、「じゃらん」、「一休.com」等の旅行予約サイトでは、10月10日以降の予約分に()いて1人1泊当たりの割引を最大3500円に引き下げた。変更前は一泊4万円の宿泊代から最大35%に当たる1万4000円が割り引かれ、2万6000円で利用出来た旅行も、割引額が最大で3500円に限定されれば自腹で3万6500円での出費となり、支払額が1万500円増える道理だ。

 GoToトラベルの割引が突然減額された事に対し、利用者からは困惑の声有り。実際に補助された分だけが後に支給される仕組みだが、今月1日に東京発着の旅行が対象に加えられた事も予算の消費を速めた模様。また、旅行事業者に配分された予算は「全国各地に支援の効果が行き渡るように」との理由から「目的地となる地域別に更に細かく配分」されているが、結果として人気の高い京都等への旅行商品は早期に予算額に達してしまい、販売を見合わせた事業者も有った由。

 世間の混乱に対し、本日になって国土交通省の赤羽(あかば)一嘉かずよし)大臣が「追加の予算を配分する」方針に関して言明。「国民の皆さんに御心配、御不便をお掛けした」とした上で「割引率の引き下げ等を実施している事業者に対し、元通り35%の割引商品を継続して販売出来る様、観光庁に必要な対策を講じる様に指示をした」と語ったが。国立コロナ劇場で上演されるドタバタ劇の様相は相も変わらず。


10月14日(水曜)

 理化学研究所と富士通が共同で開発や整備を続ける、世界第一位の超電算機(スーパーコンピューター、「富岳」。同機を用いた神戸大学等との共同研究を通して、新型コロナウイルス感染に直結する咳や(くしゃみ)、発声等で発生する飛沫の飛散経路を調べた模擬実験シミュレーションの結果が昨日に報告された。同じく理研の開発で富岳に実装を進めている超大規模熱流体解析ソフト"CUBE"を使用したもので、本年6月の1回目、8月の2回目の報告に続く3度目の中間報告。

 実験ではフェイスガードやマスクの有無、湿度の相違による変化に加え、音楽堂(コンサートホール)に於ける合唱時の飛散等を検証。一例を挙げるならば、「縦1.4メートル、横2.4メートルの机に4人が着席している」場面を想定して湿度を30%、60%、90%とした場合の飛沫拡散を再現。話者の正面に座る者に届く飛沫量は「湿度30%ならば、60%超の場合の2倍以上になる」事が判明した由。机に落ちる飛沫の数に関する検証では「湿度90%ならば、60%以下の場合に比して落下する飛沫の数は約2倍」との結果が得られた。

 神戸大学教授にして理研の研究チームを率いる坪倉(つぼくら)(まこと)氏は「湿度が高い場合は机の上等を触る事に()る接触感染のリスクが高くなる」が「手洗いやアルコール消毒の効果に加えて、人が座った場所を見れば飛沫が落ちた場所を想像出来るため対策しやすい」、対して「空気中を漂う飛沫は目には見えないため感染対策が難しく」「加湿する際は60%が一つの目安になるのではないか」と語った由。他に「湿度90%の室内で咳をした場合、小さな飛沫は前方に飛び、大きな飛沫は多くが机に落ちて残る」「湿度30%の場合、飛沫がより多く前方に飛び、机に落ちた大きな飛沫もどんどん小さな飛沫に変わって空気中に舞う」。

 飲食店での食事中は「マスクを外して対人距離も近くなり、発声の方向に応じ、相手に到達する飛沫の量が大幅に変動」。「正対した相手と話す場合」は「粗大な飛沫は自らの膝元や机に落ちるが、微小な飛沫は正面の相手まで到達する」。「対角の相手に向かって話す場合」は「顔を向けた相手以外にはほとんど到達しない」上に、対角だと距離が保たれているため「相手に届く飛沫の量は正面と比べて4分の1程度」。最も接近した隣席に向かって話すと「相手は微小な飛沫のみならず、粗大な飛沫も浴びる」、その飛沫量は正面の(およ)そ5倍で、感染の危険が最も高い」。以上を鑑みると、対面での飲食時は「対角で座る」等の方法で距離を保つ事が肝要等の報告有り。()の件、明日に続く。


10月15日(木曜)

 昨日に記した研究に()いて、更に坪倉誠教授は「機械的な換気が行き届いた音楽堂で合唱をした場合」の感染リスクに関しても人の密度やマウスガードの有無を変えて検証。舞台(ステージ)の上で合唱する者同士の間隔を前後左右に広げた結果、粗大な飛沫が前列へ到達するリスクは低減するも、空気中を漂う微小な飛沫は拡散し(にく)くなる傾向が確認された。教授は「人の密度が下がると体温に()る上昇気流が弱まる(ため)だと考えられる」、着用で前方へ拡散する飛沫は減るものの「マウスガードがコーラス時の安全性を保障するわけではない」と結論付けた由。此処では「マウスガード」の語が用いられたが、(かつ)て6月20日の項に初見の印象を記したマウスシールドと同じ物品を指すか。

 マウスシールド、又はマウスガード。通販サイトでは「透明マスク」「クリアマスク」「マウスカバー」等と併記されている商品も多い。昨今では飲食店のみならずテレビ番組の出演者が装着している事が多く、政界でも副総理と財務大臣、金融領域の内閣府特命担当大臣を兼任する麻生太郎氏が愛用して居られる様だが。聖路加国際大学・公衆衛生大学院の大西(おおにし)一成(かずなり)准教授に拠ると、装着者の飛沫が拡散する様子を可視化した海外の発表を見る限り、マウスシールドは「目に見えるような大きな唾を防ぐ効果が有るだけ」で感染対策にならぬ由。

 大西氏、(いわ)く、マウスシールドは元来「調理中の会話で料理へ唾液が飛んで、客に悪印象を与える」等を避けるのを目的として、2000年代に飲食店や販売店等の接待業用として販売された。感染対策に転用されたのは「大きな飛沫による接触で感染している、というイメージが広まっているから」と云う理由の様だが、コロナウイルスが空気感染するか否かは(いま)だに確定していない。7月7日の項で記した様に、密集の状況で無くとも感染した症例も報告されており、微液滴やエアロゾルと呼ばれる目視出来ぬ程に小さな飛沫から感染する等の「最悪の事態を想定して感染防護を行うべき」と考えると、マウスシールドや布マスクの効果は限定的と言わざるを得ない。「安倍(あべ)晋三(しんぞう)前首相が国費を投じて防護効果が薄い布マスク、所謂いわゆるアベノマスクを国民に配布する」、「マスクを着用しても、鼻を出している者が多い」等、コロナ()を経ても不織布(ふしょくふ)マスクの意義や用法が周知されるには至っていない。

 不織布マスクの用法に関しては、針金(ワイヤー)内蔵部の「真ん中を円弧(カーブ)を描く様に曲げ、隙間が出来ない様に鼻の形に沿って装着」する適正使用に変更すると、誤った装着法では「20%しか防げなかった」ウイルス侵入を「80%防げた」との事。例えば「マスクと顔の間に髪の毛が1本入っている」だけで80マイクロメートルの間隙(かんげき)が生じるが「コロナウイルスの大きさは0・1マイクロメートル」しか無いため「自分の体の800倍の隙間」が有れば出入りは自由自在となってしまう。()くの(ごと)き事実から考えると「如何(いか)に防護用として適さないか」は「専門家で無くても分かる筈」と説く大西氏の言葉を聞き入れ、我が国の副総理たる者が公衆の前に出る時は不織布マスクを使って頂きたいと(せつ)に願う。


10月16日(金曜)

 今月8日に米国を代表する医学誌、The New England Journal of Medicine/NEJMが、トランプ政権の新型コロナウイルスの対応を"dangerously incompetent"(危険な程に無能)と酷評。「ほぼ全ての段階で失敗し、危機を悲劇に変えてしまった」、「このまま彼らに仕事を続けさせれば、更に数千の米国人が死ぬ危険が有り、そんな事に加担すべきでは無い」等と大統領再選に反対する論説を発表した由。1812年創刊のNEJMは200年以上に渡って、政治的中立を堅持。大統領選に関連して特定候補の支持や批判を表明するのは今回が初めてだが、今回の論説には34人の同誌編集者が署名したとの事。

 地球温暖化等の話題で科学を否定するトランプ氏に対し、科学誌(かがくし)界隈(かいわい)に於ける批判的な論調は過去にも存在していたが、一線を越えさせたのはコロナウイルス対策だった模様。コロナ禍の脅威に関して氏が「明白な嘘を吐いた」として、9月の時点でScience誌が再選不支持を表明。同月にScientific American誌が、創刊175年の歴史で初めてバイデン氏を特定候補として支持。一昨日に英国のNature誌もトランプ政権の「破滅的なコロナ対応」を非難し、民主党候補のバイデン前副大統領を支持。科学者の本分とは異なる政治的立場の表明には批判の声もあるが、NEJMのEric Rubin編集長は取材に対して「絶え間ない憂慮すべきnewsが限界点に達した」「読者離れを招きたくないが、とても重要な問題について言わずに居られなかった」と語っている。


10月17日(土曜)

 昨日に世界保健機関( World Health Organization; WHO)が「抗ウイルス薬レムデシビルは新型コロナウイルス患者の生存率に(ほとん)ど影響を及ぼさない」との研究結果を発表。レムデシビルの他に抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン、抗ウイルス薬のインターフェロン、AIDS治療に使われるイオピナビルとリトナビル併用という四種の薬物療法を調査対象とし、全世界の30ヶ国以上、500施設で1万1266人の成人患者に投与された結果を解析。いずれの治療薬も患者の生存率や入院日数に大きな影響を与えない事が判明したとされるも、此の研究結果はまだ査読を受けていない由。

 WHOの研究結果は、レムデシビルを開発したGilead Sciencesが独自に行った研究とは異なる。約1000人が参加したギリアド社の研究では「レムデシビルを投与された患者は偽薬(プラセボ)を投与された患者よりも回復が5日ほど早かった」と発表されている。ギリアド社は「WHOの研究は先行研究との一貫性を欠き、内容も査読)を受けていないものだとして、研究結果は認められないとしている。英国で同様の大規模臨床試験を主導するOxford大学のMartin Landray教授は、WHOの研究結果は「重要かつ熟慮に値する」もので、レムデシビルに関しては「既に費用や入手困難等の懸念が生じている」と述べた。更にランドレイ教授は「COVID-19には大規模かつ低費用で、平等な治療法が不可欠」「最悪の事態に備える為には、WHOが行ったような任意抽出の実験が必要だ」と話した。

 レムデシビルは元来、エボラ出血熱の治療薬だったが「新型コロナウイルスにも有効」とされた事から、5月1日に米国の食品医薬品局(FDA)が緊急使用を認可。ドナルド・トランプ大統領の感染時に投与された事も記憶に新しい。日本でも特例承認制度が用いられ、5月7日に新型コロナウイルスへの治療薬としては世界初となる正規の承認を果たしているが、「世界中の科学者が既存の治療薬を掻き集めてCOVID-19への効果を試しても、現時点で効果が認められたのはデキサメタゾンだけ」、「新しい治療法には注目が集まるが、新しいと云う事は高価と云う事」「誰がその治療を受けられるのかとの疑問が生じる」と語る識者も居る模様。


10月18日(日曜)

 コロナ禍が世界を揺るがし続ける中、独自路線を選んだ瑞典(スウェーデン)の其の後は如何に。同国の国家疫学官、Anders Tegnell氏は「lockdownに科学的根拠(エビデンス)無し」「蠅を仕留めるのに鉄槌(ハンマー)を振り下ろす如きものだ」と喝破(かっぱ)。彼の意見を国家が最大限に尊重した結果、国境は閉鎖されず、周辺国が国境からレストランやスキー(じょう)(まで)を閉鎖し、全ての学校を休校とした3月、スウェーデンの高校と大学は休校となるも幼稚園や小学校は通常通り。手指洗浄とSocial distancingが推奨され、50人超の集会や高齢者施設への訪問が禁じられるもマスク着用は然程(さほど)に求められず、パブやレストランも営業を継続。

 厳しい対応が()られた他の北欧諸国とも対照的な施策に対し、New York Times紙は瑞典を「国際社会から疎外されているPariah state(パーリア国家)」「コロナ禍の世界の反面教師」等と呼んだ。しかし、NIRA総合研究開発機構理事/日本総合研究所理事長の(おきな)百合(ゆり)氏やKarolinska医科大学病院泌尿器科の宮川(みやかわ)絢子(あやこ)氏が主張する所に拠ると、「集団免疫の早期獲得」が同国の目指す戦略だと云う他国の見方は誤解で、テグネル氏が目指すのは「数年に渡っても持続可能な方法」及び「国民自主性の尊重」で在る由。都市閉鎖(ロックダウン)が実行されずに済んだ事等は一見、日本の状況とも似ているが、「専門家の意見を尊重する枠組み」や「徹底的な情報公開」に基づく「政府への国民の信頼」が背景に存在すると言われる辺りが当方との根本的な相違か。

 (いず)れにしても「感染を抑え込めたか否か」と云う点が問題となるが、其の肝心要(かんじんかなめ)の部分が判然としない。世界中から対応を批判され続けた時期を経て、6月後半からは新規感染者数が大きく減少。「集団免疫戦略の勝利か」と短絡的な報道が出た事は分かっている。死亡者数が多い事も非難され、其の多くが高齢者だった事から「老人を犠牲にした」とも言われたが、今回の感染対策とは別次元の問題として「事前に介護施設の管轄が県から市町村に移され、民営化が進んだ事等から経費削減が追及された」結果として「感染防止対策が不十分な移民出身のパート介護者が働く事が増え、介護施設での集団感染が多発した」、高い死亡率の底流には「平時から医師が患者の予後を考えた上で必要な治療を決める」体制に対する国民的同意(コンセンサス)が形成されており、今回の感染症に於いても「70歳以上の高齢者に集中治療を行うかは医師の裁量に任されている」等の要因有り。8月に入って再び新規患者数は増加に転じたが、欧州全体で患者が増えた時期で、スウェーデン国内の対応だけで判断は出来ない。

 確かなのは「ロックダウンを行わず、緩い対策すら実行されない瑞典では感染が蔓延し続けるに違いない」と世界中が予測した通りの展開とはならなかった事、後は「テグネル氏は相当の頑固者だ」と云う(こと)(ぐらい)か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ