令和2年9月第3週
9月14日(月曜)
4月11日に愛知県が新型コロナウイルス検査で陽性と発表した28人のうち、24人が後に再検査で陰性と判定。感染者と非感染者の検体が取り違えられた事が原因と見られるが、24人のうち1人は間違って陽性とされたまま死亡し、火葬された由。
此の問題に関して、本日に県側が「うち20人とその親族10人らに対し、賠償金計約252万円を支払う」と発表した。誤判定された者に対しては慰謝料5万~10万円、休業を余儀無くされた者には親族も含めて補償され、感染者向けの個室を提供した病院に対しても賠償する事になった模様。同県では今年5月に「新型コロナウイルス感染者の氏名や入院先等の個人情報490人分が県のウェブサイトに一時、誤掲載」との問題も有ったそうだが。
human errorの類を何処まで瑕疵として問うべきか、問わざるべきか。未曾有の事態に日々奔走していたで在ろう職員を過度に責める事無く、被害者に適切な謝罪と賠償が行われる事を切に願う。
9月15日(火曜)
コロナ禍を経てフィリピンの公共交通機関では最低1メートルの対人距離を確保する事が義務付けられたが、昨日に施行された運輸省の新規則では75センチに縮小。更に28日から50センチ、来月12日には30センチに狭める予定との事。
同国で患者が減っている訳では断じて無く、本日に報告された新型コロナウイルスによる死者は259人と過去最多。累計の死者数は4630人で、感染者数は26万5888人。過去35日で倍増して東南アジアで最多となっている。医科系カレッジの元学長が「リスクの高い無謀な措置で感染抑制を遅らせる」「国際標準は一二メートルだ」と指摘、保健省は「車内が混雑している場合は特に注意」「可能ならば他の交通手段に切り替えるよう呼び掛けた」との情報も有る。社会経済を睨んだ規制緩和は世界的な動きだが、それにしても小刻み過ぎる距離の短縮で、失笑を禁じ得ぬ珍政策と言うべきか。
9月16日(水曜)
本日午前の臨時閣議を以て、安倍内閣が総辞職。安倍晋三首相の在職日数は、第一次政権を含む通算では3188日、第二次政権以降の連続では2822日と、いずれも憲政史上最長。国家安全保障会議や内閣人事局を新設して「官邸主導」を確立した半面、財務省による公文書改竄等の政権長期化に伴う「負の遺産」も残した。
同じく本日中に第202回国会が召集され、午後の衆参両院本会議で自民党総裁の菅義偉氏が第99代、63人目の首相に指名された由。夜の記者会見で、新首相は「今、取り組むべき最優先の課題は新型コロナウイルス対策」、「欧米諸国の様な爆発的感染拡大は絶対阻止」して「国民の皆さんの命と健康を守り抜きます」、「其の上で社会経済活動との両立を目指します」「さもなければ国民生活が成り立たなくなる」と述べた由。有言実行を望みたい。
9月17日(木曜)
米国の製薬会社Eli Lillyが「新型コロナウイルス抗体薬」に関する中期段階の臨床試験を行い、昨日に中間結果を発表。抗体薬の投与に因り、軽度から中程度の新型コロナ患者の入院率が低下した由。
当科的にはOlanzapine、商品ジプレキサで馴染み深い会社だが、同社は先月から並行して後期段階の治験も開始している模様。中期段階の治験は約450人のCOVID-19患者を対象に実施され、異なる用量の抗体薬を投与。その結果、全体として偽薬を投与した群に比べて、抗体薬投与群の入院率が低下した。また中用量の抗体薬を投与した患者は、低用量・高用量の投与に比べてウイルス量が大幅に減少。中期段階の治験は継続中で、10~12月期に完了予定との事。リリー社のモノクローナル抗体薬"LY-CoV555"は、加奈陀のAbCellera Biologicsと共同開発。感染から回復した患者より抽出した抗体がモデルとなっており、ウイルスがヒト細胞に侵入するのを妨げ、感染や重症化を防ぐ効果が期待されているとの事。
同じ治療薬の分野に於いて、本日に北里大学病院が、抗寄生虫薬「イベルメクチン」の新型コロナウイルス感染症に対する効果を調べる医師主導治験を始めたと発表。国内の複数施設で患者240人を対象に、PCR検査が陰性に転じる迄の期間が短くなるかを調べ、来年3月末までに終了する予定である由。治験は重症でない感染者にイベルメクチンを1回投与し、偽薬を投与した群と効果を比較するもので、症状が改善するか等も調査し、無症状の人も対象にする模様。
イベルメクチンは、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した同大学の大村智特別栄誉教授が開発した薬で、寄生虫感染症の撲滅に関してはアフリカ等で実績有り。細胞を用いた先行研究実験では新型コロナウイルスの増殖を抑える事が判明しているが、過去に数十億人規模で投与される中で深刻な副作用の報告無し。安全性には信頼が置けそうな薬剤で、転用が成功すれば患者や治療者にとっての福音となろう。
9月18日(金曜)
昨日に「ヨウスコウワニが声を出す機制をヘリウムガスで解明した研究」が、Ig Nobel Prizeの音響学賞を獲得。スウェーデンはルンド大学のStephan Reber博士や京都大学霊長類研究所の西村剛准教授が手掛けた調査は、鰐同士の意思疎通に関する至って真面目なものだが、「ヘリウムで声を変えた鰐を想像すると面白い」と云うような理由から受賞が決定した模様。BBCの取材に対し、レバー博士は「受賞を名誉に思う」と語った由。
当該の研究では、鰐等の爬虫類が哺乳類や鳥類と同様に自分の声音を通じて自分の体の大きさを周囲に伝えている事を証明する事を目的とされた。哺乳類では「体が大きい程、声道で空気を振動させる空間が広くなり、低い共鳴音が響く」傾向が認められるものの、こうした共鳴の仕組みを蛙等の両生類は持って居らず、爬虫類に於いては未知。従って「まず鰐が共鳴の仕組みを使っているのかを証明する必要があった」とレバー博士は説明した。研究者達は鰐を密閉した大型水槽に入れ、通常の空気に加えて酸素とヘリウムを注入。空気の構成要素が変われば、声帯の震動が変わらなくても鰐の出す音に変化が出る為だったが、その結果として、鰐の体の大きさと発する共鳴音が連動している事が明らかになった。
今年で30周年を迎えるイグ・ノーベル賞は「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」を表彰する事を謳っており、今年も10部門が選ばれた。一見すると馬鹿げている様でも、賞を得た研究は全て現実の問題を解決しようとし、正規の考査を経て学術誌に掲載されたものである。通常は米国Harvard 大学のSanders Theatreで授賞式が行われ、瑞典風肉団子へ敬意を払う事から始まり、数多の紙飛行機が飛び交う中で進行。口演が長引いた場合は過去の研究成果や規定に基づき、8歳女子から「つまんない!」と非難される事も恒例となっていたが、今年は新型コロナウイルスの影響でonlineの発表となった。曾て同じ地域で働き、互いに医局長として会合の打ち合わせを行った某身体科医師が其の後に獲得している事も有って、個人的には毎年、如何なる研究が賞賜されるのかを関心を持って注視して来た。
今回は上記研究の他に、心理学賞として「眉毛の分析でナルシシストを特定する方法の研究」。平和賞を受けたのは「インドとパキスタンの両政府に対し、外交官が真夜中に密かに所謂"ピンポンダッシュ"の応酬を行った功績」。物理学賞を得たのが「高周波でミミズを震動させると形状がどう変化するのかについての研究」。経済学賞に「国毎の給与格差と平均的な接吻の回数の相関性に関する研究」。マネジメント賞は「中国の暗殺者5人が殺人依頼を次々に下請けに出した結果、最終的に誰も犯罪を犯さなかった功績」で、昆虫学賞の分野が「多くの昆虫学者が、昆虫ではない蜘蛛を怖がっているという証拠を示した研究」。
そして、医学教育賞は「新型コロナウイルスの世界的大流行を利用し、政治家が医師や科学者以上に人々の生死に影響を与える事を示した功績」で、伯剌西爾のジャイル・ボルソナロ大統領、英国のボリス・ジョンソン首相に印度のナレンドラ・モディ首相、墨西哥からアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領、白露西亜はアレクサンドル・ルカシェンコ大統領、米国のドナルド・トランプ大統領は無論の事、土耳古ならばレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、露西亜のウラジミール・プーチン大統領も外せず、更には土庫曼斯坦のグルバングル・ベルディムハメドフ大統領と云った面々が授賞の栄誉に浴するも、各人が授賞式に参加したか如何かは寡聞にして知らぬ。
マテリアル・サイエンス賞は「凍らせたヒトの糞便から作った刃物が役に立たない事を証明した研究」に贈られた由。
9月19日(土曜)
9月11日に新型コロナウイルス感染症対策分科会後の会見で、西村康稔経済再生相が「イベントの人数制限を緩和する」旨を発表。大臣は「此迄踏んできたブレーキを、ゆっくりゆっくりと慎重に上げて行く」、国内外の研究やsupercomputerを用いた模擬実験を通して獲得した「経験知見を踏まえて判断した」、「特に大声と換気が大きな影響を与えるので、其処で区別している」「今後も研究などを踏まえて、今以上に緩和出来るか如何か判断していく」と述べ、各都道府県に対しては、以下の内容で運用して行く旨が通知された。
其の一、収容率要件。交響曲・管弦楽曲・協奏曲等のclassical music、歌劇・ジャズ・吹奏楽の演奏会、或いは現代演劇や人形劇、バレエや伝統舞踊、歌舞伎や落語・講談、漫才、奇術、更には講演会・説明会、各種教室、入学式・卒業式、成人式、入社式等は「大声での歓声・声援がないことを前提としうるもの」として感染リスクの少ないイベントに分類され、収容率は「100%以内に緩和する」。対して、ロックコンサートやサッカー・野球・大相撲の観戦、競馬・競輪、キャラクターショー、ライブハウスやナイトクラブのイベント等は「大声での歓声・声援が想定されるもの」と判断され、「50%以内」とする。此処に「異なるグループ間」では座席を一つ空けねばならぬが、5人以内の「同一グループ」内ならば座席間隔を設けなくとも良い旨の但し書きが付き、結果的に「収容率は50%を超える場合」も出て来る由。其の二、人数上限。「5000人を超え、収容人数の50%までを可とする」が、「人数上限」及び「収容率要件」による人数の「いずれか小さい方を限度とする」。
一週間程度の周知・準備期間を考慮して「9月19日より施行」。地域の感染状況等に応じ、都道府県知事の判断で「より厳しい制限を課すことも可能」。参加者1000人超の大規模イベントを主催する者は「各都道府県に事前に相談」。全国的な感染拡大やイベントでのクラスターが発生した場合、政府は「感染状況を分析」した上で「業種別ガイドラインの見直しや収容率要件・人数上限の見直し等適切な対応」を行う。12月以降に関しては「感染状況、イベントの実施状況等を踏まえ、改めて検討を行う」等の附記有り。
そして規制が緩和された本日、左京区のみやこめっせで「京都国際マンガ・アニメフェア」が開催。此の業界では西日本最大級の総合見本市だが、今回は「時間制チケットの導入で来場者を分散」「観客が密集しやすいコスプレイベントは中止」等の対策が取られた。例年とは状況が異なるものの、来遊者達は久方振りの催事を楽しんだ様子で、主催者側は二日目の明日と併せて例年の半分に当たる約2万人の来場を見込んでいると聞いた。
9月20日(日曜)
昨日に日本集中治療医学会と日本救急医学会が、「新型コロナウイルス感染症の薬物治療に関する診療指針を作成した」旨を発表。治療に用いられる五種の薬剤に関し、医師が投与すべきか否かを判断する材料を重症度別に分類し、両学会のサイトで公表した由。新型コロナウイルスの治療薬に関しては世界各国で開発が進められているものの、現在は別疾患の治療薬を用いた試行錯誤が主体との状況有り。両学会では医師や看護師等の診療従事者が使う事を念頭に、世界各国で公表された研究論文を分析し、感染した成人の軽症から重症患者を対象とした指針を策定したとの事。
指針によると、軽症者には五剤のうち、新型インフルエンザ治療薬のファビピラビル/商品名アビガンの投与のみを「弱く推奨」。中等症・重症患者では、関節リウマチ等で使用されるステロイド薬、デキサメタゾン/デカドロン等の投与を「強く推奨」し、エボラ熱等の治療に用いられるレムデシビル/ベクルリーは「弱く推奨」とされる。抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン/プラケニルは、重症度を問わず「投与しないことを強く推奨」。トシリズマブ/アクテムラに関しては「現時点では推奨しない」とされるも、まだ十分な科学的根拠が得られていないため、評価は保留。指針を作成した両学会の特別委員会の西田修理事は「科学的根拠や効果だけでなく、費用対効果、副作用などを鑑みながら作成した」、「新たな薬の追加や、推奨に関する表記などは随時更新する予定」と語った模様。
そして本日、富士フイルム富山化学がアビガン製造販売の承認を国に申請する旨が報じられた。今月中旬まで実施した臨床試験の結果から、一定の有効性が認められたらしく、承認されれば我が国で開発された初の新型コロナウイルス治療薬となる。申請後は厚生労働省が有効性や安全性等を審査し、承認するか否かの判断が下される。
国内の治療薬としては、レムデシビル/ベクルリーとデキサメタゾン/デカドロンが承認済。アビガンは一部の病院で患者希望と医師判断で使える「観察研究」の枠内で使用されるに過ぎなかったが、正式に承認された場合は更に多くの病院、患者に使用される可能性大。前述の如く感染初期や軽症の段階に於ける使用が想定されているが、動物実験では「臨床曝露量と同程度又は下回る用量」の投与でラットに於いて「初期胚の致死」、サル・マウス・ラット・ウサギに於いて「催奇形性」が認められた事から、「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人」には投与しない事になっており、その相手となる男性に対する使用にも注意を要する模様。
富山化学は3月末に国内での治験を始めて、96人を目標に参加者を募集。当初は6月末に終了する予定だったが、緊急事態宣言を経て患者が減った事から参加者数を確保できず、7月以降も治験を継続。7月中旬以降に第二波到来で患者が増加した事で、目標数が確保されたとの事。そもそも軽症や初期の使用で明確な効果を確認する事は難しい上に、当初から被験者数が少なく設定されている事等が気になるが、使える物は使わねばなるまい。




