16
翌日。決勝前の休憩日。昼も過ぎて夏の日差しが熱く照りつける。
「シルフお姉ちゃーん!」
ホテルのロビーにいるシルフを見つけた奈緒は右手を振りながら呼びかける。奈緒の今日の服装は半袖のチュニックとホットパンツで動きやすい服装をしていた。そして左手には母親に持たされた麦わら帽子を持っていた。
「あ、奈緒ちゃん。おー。可愛いねその服。似合ってるよ」
「えへへ? そうかな。お兄ちゃんもそうやって褒めてくれるんだけど、やっぱり誰に褒められても嬉しいっ!」
その奈緒の言葉に、煌くんの口のうまさはそこから来てるのか。と一人納得するニンフ。
「へえ、そうなんだ。それで、奈緒ちゃん。今日はどうしよっか。この辺にあるところだったらボクが連れて行ってあげるよ」
「ほんとっ!? うーん……この辺って何があるの?」
「えっとね、海とか映画館とかかなー。実はボクもあんまり知らないんだよね。……あ。そういえば景色がきれいな大きな公園もあるって聞いたよ」
「公園! 行きたい」
「分かった。ちょっと遠いけどどうする? 歩いて行ってもいいし、バスに乗ってもいいし」
ニンフは少し前に聞いた公園の場所を思い出しながら、奈緒に聞いた。
「せっかく来たことにないとこにきたんだから、歩いていきたい」
「そっか、分かった。でも、熱中症には気を付けてね。帽子もかぶって。何かあったらすぐボクに言うんだよ?」
「うん。分かったー」
ニンフの言葉に同意した奈緒は早速麦わら帽子をかぶる。
「よし、それじゃあ行こうか」
「ニンフお姉ちゃん。手繋いでもいい?」
ニンフがホテルの出入り口に向かおうとすると、奈緒の声が聞こえてきて振り向くと手を伸ばしているのが見えた。
「いいよ」
ニンフは自分を頼ってくれることに嬉しそうにし、奈緒の手を握ると歩を合わせて一緒にホテルを後にするのだった。
――少し歩くと大きい建物が無くなり、少し上り坂となっている街路樹の木々の隙間から太陽に照らされ眩しく光る海が見える。
「わぁー。海だよ海! 綺麗……」
それを見つけた奈緒は思わず立ち止まり、息を呑んだ。
「奈緒ちゃんは海見るの初めて?」
うっとりと海を見つめる奈緒を見て、思ったことをそのままニンフは言う。
「ううん。初めてじゃないけど、ここからの景色はすっごく綺麗だなって思って」
「確かに。近くで見る海もいいけど、こうやって離れたところから見る海もいいね」
数分の間、奈緒と共に海を見つめていると、十分堪能したのか奈緒が「よし、公園に行こっ」とニンフの手を引く。
ニンフはそれに答え、再び歩き始めた。
その後も飲み物ではなく玩具を売っている珍しい自動販売機や、近年数が減ってきている駄菓子屋などを見つけてはしゃぐ奈緒と戯れながら進んでいく。
歩幅の小さい奈緒に合わせているために思っていたよりも時間がだったが何とかつくことが出来た。
「あ! 何あれ。木の……道?」
「ん? ああ、あれは木道って言うんだよ」
公園にたどり着いたニンフと奈緒の目の前に現れたのは木で作られた道だ。自然の多いこの公園の雰囲気を壊さないように気を付けながら道を整備した結果だろうとニンフは思った。その予想は当たりで、木道に沿うように植えられた木から漏れる日の光が影とのコントラストを作り出しておりと幻想的な風景でとても美しい。
「話には聞いてたけど、ほんとに綺麗だね。ここ」
それを見たニンフが感嘆の声を漏らした。
「そうだね、ニンフお姉ちゃん。ねえ、中も見に行こうよ」
綺麗な出入り口に魅了されたのだろう。奈緒は公園の内部も気になったようで、ニンフを急かす。
「そうだね」
ニンフも中がどんな様子なのか気になっていたため、すぐに受け入れて、歩きだす。
足を進めると木々が太陽の日を塞ぎ、その間を心地よい風が通り抜けるためとても涼しく、夏だと言うことを忘れそうになるほどだった。
「あ、あそこに自販機ある。ちょっと待っててね」
そんな中、ベンチのそばに置かれていた自動販売機を見つけた奈緒がそう言い残し駆けていく。そして奈緒は二つの飲み物を買うと、両手に一つずつ持ってニンフの元へ戻ってくる。
「はい、ニンフお姉ちゃん」
そう言うと、奈緒は手に持っていたジュースをニンフに渡す。
「ありがと。でも、悪いよ。お金出すって」
高校生である自分が小学生におごってもらうのも悪いと思ったニンフがそう切り出すと、奈緒は顔を横に振った。
「ううん。いいんだ。私と遊んでくれてるお礼だから。気にしないで。それより、疲れちゃったよ。座って休もっ!」
そう言いながら奈緒はベンチに座る。これ以上お金を出すと渋るのは奈緒に失礼だと思い、奈緒の横へと腰掛ける。
「こんなに雰囲気の良い公園が家の近くにもあればいいのにな」
「そうだね。ボクの家の近くにはそもそも公園自体ないからなー」
「そうなの?」
「うん。だから昔っから外で遊ぶってことがあんまりできなくてね」
「私お外で遊ぶの好きだから、それは嫌だな」
そんな他愛ない話を進めていく二人。そして話題は翌日に控えた試合へと自然に移行していた。
「明日はお兄ちゃんとシルフお姉ちゃんの試合だね」
「そうだね」
「ニンフお姉ちゃんは、やっぱりシルフお姉ちゃんの応援?」
「当然。ボクの自慢の弟子だからね。煌くんにも頑張って欲しいとは思うけど。それに……」
先日シルフィから聞いた覚悟の話を奈緒に話していいのかと悩む。
「それに?」
そんなニンフの様子を見て、言葉の続きが気になった奈緒はニンフを上目遣いに見上げる。そんな仕草を見たニンフは、うまくいけば奈緒にも関係してくることだからと思い話すことにする。
「シルフはね、優勝したら煌くんに告白するつもりなんだって」
「そうなんだー」
「あれ? 驚かないんだね」
思っていた反応と違うために意外に思うニンフ。
「だって、分かりやすいんだもんシルフお姉ちゃん」
「あはは。やっぱりそうだよね」
「そう言うニンフお姉ちゃんは? お兄ちゃんのこと好きじゃないの?」
「へ? ボク?」
奈緒はニンフもそうでないのかと問いかける。
「あはは、違うよ。煌くん本人にも言ったけど年下趣味じゃないからね、ボクは。勿論友達としては好きだけど」
「そうなの?」
違うと否定するニンフの言葉に、奈緒は懐疑的だった。
「そうだよ。だからシルフにはうまくってほしいんだ」
「……じゃあ、そう言うことにしとくね」
続く奈緒の言葉に、信じられてないなとニンフは思ったがそれを口に出すことはなかった。
話しながらちびちびと飲んでいたジュースもすっかり飲み終えた二人は、ゴミ箱に片づけると再び手をつないで公園の中を散策するのだった。




