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 そして三日目。

 盛り上がる会場の中、第一回戦第五試合の幕が上がった。

 第五試合の選手が扱う銃はそれぞれ突撃銃と狙撃銃で、ステージも見通しの良い砂漠ステージ隠れる場所がほとんどなくステージ自体が広いため、射程距離の長い狙撃銃が圧倒的に有利だ。この突撃銃を使う選手に圧倒的に不利な条件に見学に来ている選手、観客は狙撃銃の選手の勝ちだろうと早々に結論付けていた。

 公平な立場であるはずの実況者と解説者もどこか狙撃銃を使う選手よりなほどだ。煌やシルフィニンフも、突撃銃を使う選手の不運を惜しみながらも負けてしまうだろうというこのゲームを知る者なら当たり前の予想をしていた。

 だが、この試合はたった数分で誰もが予想しなかった結末を迎えることになる。

 突撃銃を持ったアバターは、狙撃銃による遠距離攻撃をすべてかわし切りすぐ近くまで肉薄すると、突撃銃による正確無比な銃撃で狙撃銃を持つプレイヤーの体力を消し飛ばしたのだ。その瞬間、予想を裏切られた結末にその場にいた全員が沸き上がる。

「「なに、あれ……?」」

 負けた選手の力量を、同じ狙撃手として力量の高さが伝わってきていたシルフィとニンフはその結末に驚愕していた。狙撃手の狙いを即座につけて撃たれる正確な狙撃、追い詰められながらも狙撃に集中していた判断力と精神力。どれをとっても高水準でまとまっていた選手だった。それなのに手も足も出ず、短時間で負けてしまったことにショックを受けていた。

「……」

 そして煌もそんな狙撃手を倒した相手の選手を静かに見つめていた。

 そしてそんな劇的な試合の後に行われた第六試合は長時間に及ぶ泥沼と化した試合であまり映えるものでなかったこともありあまり注目されることもなかった。

 第五試合で受けた衝撃は第六試合が終わっても尾を引き、その場にいた誰もがチートの存在を考えずにはいられなかったが、それが使えないことは火を見るよりも明らかだった。

 なぜなら大会で使用されるパソコンは運営スタッフが用意したものであり、選手がチートのプログラムを事前に仕込むことは不可能であるからだ。それでも、誰もが疑ってしまうほどの衝撃があの試合ではあったのだ。

 煌とシルフィ、ニンフの三人は試合が終わると、そのまま昼食を取りに会場のすぐ外にあるレストランへと移動していた。昼時ということもあり中は大勢の客で賑わっている。そしてそこでも話される内容は第五試合の内容だった。

「煌くんが勝った時も驚かされたけど、今回のはそれ以上だったね」

 肉厚なハンバーグを手ごろな一口サイズに切りながらニンフは言う。

「師匠から見てどうでした?」

「どうって……なにが? ……あ、これ美味しい」

 シルフィの言った言葉の意味が分からず、聞き返すとハンバーグを口に運ぶと、あふれ出る肉汁に思わず感想が出てしまうニンフ。

「たぶんシルフィはチートかなんかだと思ってるんだと思いますよ」

 夏場特有の暑さを和らげようとして頼んだ冷やし中華の麺を箸でつかまえながら、煌が補足する。

「うん。今、煌が言った通り」

 スパゲッティの麺をフォークで遊びながらシルフィは試合を見て思ったことを言う。

「ないと思うよ、それは。運営側も馬鹿じゃないからチート対策はしてるし、次の選手がいるんだよ? チートなんて使ってたらその場でバレちゃうよ」

 あの天才的なプレイをした選手は試合が終わるとすぐさま立ち上がると待機室へと戻っていったのだ。チートプログラムを消している余裕などどこにもなかった。それは周囲で見ていた者なら誰でも知っていることだ。

「単純に強い。それだけだと思うよ。あくまでもボク個人としては、だけどね」

 自分が一番信頼しているニンフにそう言われたシルフィは納得すると、スパゲッティを口に運んだ。

「俺もニンフに賛成だけど、それにしてもあれはヤバすぎですよ。この試合一番のダークホースですよ、間違いなく」

「確かにね……。あそこまでうまいプレイヤーはプロの中でもあんまりいないよ」

 ニンフの言葉に煌やシルフィはこの大会の過酷さを再確認したように静かになってしまう。

「まあまあ。みんなそんなに考えすぎないで。たまたま偶然うまくいっただけかもしれないんだから。それよりも、ほら。おいしいご飯が冷めないうちに食べようよ」

 暗くなることを嫌ったニンフがわざと明るくそう言うと、煌とシルフィも話題を試合のことから切り変えて他愛のない話をし始め、最終的に話題はお互いの学校生活へと移る。

「煌くんは学校には気になる子とかいないの?」

 ニンフが前置きもなしに意味ありげにシルフィに視線を送った後に煌にそう問いかける。シルフィは思わず口を挟もうとするが、ニンフに、まあまあとなだめられ行動するタイミングを失う。

「いないですよ。ずっとゲーム、ゲーム、ゲームでしたから」

「それじゃあ、友達は? 煌くん友達多そうな感じあるけど、一緒にゲームするのかな?」

「学校の休み時間に話したり、遊んだりする友達は……まあ多いですけど。家に帰ってから一緒に遊ぶような友達はいないすかね」

「なんだか師匠みたいだね」

 話を聞いていたシルフィは類は友を呼ぶって、こういうことなのかなと楽しそうに笑いながらそう口にした。

「そうなんですか?」

「前にも話したと思うけど、師匠って頼れるお姉ちゃんって感じでね。男女問わずそんな師匠とよく話してるんだけど、カラオケとか誘われてもあんまりいかないんだよね。あ、私が誘うと一緒に行ってくれるんだけど」

 ちょっとした惚気話が入りながらシルフィから見たニンフの様子を煌に伝える。

「だって銃の話したりしても変な顔しかされないし。やっぱり同じ趣味の友達のほうが一緒にいて楽しいから」

 ニンフの言葉に嬉しそうに得意げな表情をする。

「シルフィはどうなんです?」

「シルフ? うーんとね、可愛がられてるよ?」

「へ?」

「ちょっと師匠変なこと言わないでくださいよ」

「事実でしょ」

 ニンフの言葉に煌は素っ頓狂な声を上げ、シルフィは否定しようとするがニンフに本当のことだと断言されてしまう。

「シルフィが病弱で体が弱いのみんな知ってるし、小柄で可愛いからみんな大事にしててなんだかマスコットみたいな感じかな」

 そう言い終わったニンフは最後のハンバーグ一切れを口に運ぶと、傍に置いてあったメニュー表を取る。

「ちょっと師匠! 恥ずかしいからそういうことは言わないでくれると嬉しかったんだけど」

「ああ、なんとなく想像できます。シルフィが餌付けされてるのが」

「なんで分かるのっ!?」

 ニンフの言葉に煌は思ったことをそのまま言っただけなのだが、どうやら的を射ていたようでシルフィは驚きの声あげる。

「ほんとに餌付けされてるのか」

「その、違うんだよ、煌。みんな優しいから気を使ってお菓子とかくれるだけなの」

「まあでも、なんとなくわかるかな」

「別に私病弱だけど食欲ないとかってわけじゃないのに」

「そんなのみんな分かってるさ。でもやっぱり心配なんだよ」

 病弱で小柄、さらに色白となれば心配になってしまうのは当然のことだろう。だが、ただの学生にはどうすることもできない。そんな気持ちが行動として現れたのが食べ物のおすそ分けという行為なのだとニンフがシルフィに言う。

「私も嫌なわけじゃないから、ありがたいし嬉しいんだけどね。いろんな人と話せるチャンスでもあるし」

「そうそう。前向きにとらえればいいんだよ。決して悪いことじゃないんだから」

「そうだよね」

 二人のその会話に煌は少しだけ、ほんの少しだけだが寂しさを覚える。ゲームの中や今は一緒にいるが煌は中学生でシルフィとニンフは高校生だという事実がどこか二人を遠く感じてしまうのだ。

「煌くんって今何年生なの?」

「中二です」

「あー、それは残念。ボクたち高二なんだ。煌くんが中三だったらもしかしたら来年は同じ学校に通えるかもと思ったんだけど……。あ、すみません。このパフェくださーい」

「あ、私も」

 メニュー表とにらめっこしていたニンフは頼みたいものが決まったのか、近くにいた店員に注文を言うとシルフィも同じものをくださいと伝える。

「気にしないでください、別に学校が違ってもこうして会えるじゃないですか」

 先ほどの思いを払拭するように煌はそう言った。

「そうなんだけどね。煌くんみたいないい子が後輩としていてくれたら学校生活も楽しくなるだろうからね」

「あっ、それは確かに……」

「そうですか? ……まあでも、二人みたいな先輩がいれば退屈はしないでしょうね」

「でしょ。あーあ。ほんと残念」

 思い付きで言った言葉ではないらしく、シルフィとニンフは口惜しそうにした。

「その分これからも一緒にゲームで遊んだり、もしなんだったら実際にどこか遊びに行ったりすればいいじゃないですか。学校生活だけがすべてじゃないですよ」

 残念がる二人を見た煌は気遣ってそう言った。

「それはデートのお誘いかな?」

 煌の言葉に悪ノリしたニンフが答える。

「……広義的にはそうなるんですかね」

「昨日振った相手をデートに誘うとは……」

「え!?」

 ニンフの言葉にシルフィは、私が知らない間に昨日の煌とニンフの間に何があったのかと驚きの表情になって固まってしまっている。

「そんなは話してないですよね? シルフィが困ってるんでそういう嘘はやめましょうよ」

「あはははっ。ごめんごめん。シルフ、冗談だから」

 固まってしまっていたシルフィの様子が面白かったのかニンフは笑いながら謝る。

「師匠、そういう嘘は心臓に悪いんでやめてください」

 ニンフの言葉にシルフィはほっと胸をなでおろす。

「シルフがいちいち面白い反応するからからかいたくなっちゃうんだよ。つまり、シルフのせいだよ」

「ししょ……あ、ありがとうございます」

 責任転嫁するニンフに抗議しようとしたシルフィだったが、店員が先ほど頼んだ二人分のパフェを持ってきたため会話は中断された。そして受け取ったパフェを奥の席に座るニンフへと手渡す。

「ありがと」

 シルフはシルフィにお礼を言いながら受け取ると、さっそくパフェについていたスプーンを手に取るとパフェの上にのっていたイチゴを口に運んだ。

「あ、これ美味しいっ。シルフも早く食べてみなよ」

 まだ口を付けていなかったシルフィに勧めると、急かされる中シルフィもパフェを食べ始めた。

「ほんとだ。おいしいねこれ」

 デザートは別腹という言葉通りなのか、ぱくぱくとパフェを食べていく二人は、先ほどまでハンバーグやスパゲッティを食べていたことを忘れさせてしまいそうなほどだ。煌はデザートを頼まなかったためそんな二人が食べ終わるのをただただ待つのだった。

「久々にいっぱい食べちゃったよ」

 二人がパフェも食べ終わり料金を払って外に出るとニンフはそう言った。

「食べ過ぎると太りますよ」

「シルフー、煌くんがいじめるー」

 思ったことをそのまま口にした煌に、ニンフは拗ねたようにしてシルフィに助けを求める。

「煌、女性にそんなこと言ったらだめだよ」

「いやだって事実でしょ……」

「煌」

「はーい」

 一度は本当のことを言っただけだと言い返すが、むすっとしたシルフィに再度名前を呼ばれると不承不承ながらも返事をした。

「あはははっ」

 ふざけって言っただけでそこまで気にしていなかったニンフはそのやり取りに楽しそうに笑う。

「二人見てると仲の良い姉弟みたいで微笑ましいよ」

「そうですか?」

「うん」

 妹しかいない煌には姉という存在がどういったものかいまいちピンとこなかった。

「煌が弟かー。これからはお姉ちゃんと呼んでもいいんだよ?」

「嫌です」

 シルフィはやぶさかでないのかそう言うが、その申し出を煌ははっきりと断った。

「なんで?」

「なんでもです」

「こんな可愛いお姉ちゃんいたらドキドキしちゃうからだよね」

「……まあ否定はしませんけど」

 煌は恥ずかしそうにしながらもはっきりとそう答えた。

「ありがとっ」

 シルフィも照れくさそうにしながらもそう返した。

「それにしてももう明日か」

 大会第一回戦も、もう残すところ翌日に控えた二試合のみだ。

「うん……そうだね」

 シルフィは煌のその言葉になるべく考えないようにしていた、ニンフとの試合のことを思い出して先ほどまで明るかったその表情に影が差し込む。

「煌くん」

「……すんません。あんまり気にしてないように見えたんで、つい……」

 それを見たニンフがたしなめるように煌の名前を口にすると、煌は失言だったと謝る。

「あ、ううん。二人とも気にしないで。私が気にしすぎてるだけだから。大丈夫明日までには気持ちに整理付けとくから。だから今はみんなで一緒に遊ぼうよ」

「そっか……そうだね」

 シルフィの言葉に煌もニンフもうなずくと、三人は仲良く足踏みをそろえて歩き出した。

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