6:傭兵の日常
アステルの塔がある街リュザナはここ、ミネルヴァ王国内でも三番目に大きな街だ。王都から繋がる太い街道が近くを通っていることもあり、常に活気に満ち溢れている。街をぐるりと囲むのは高い城壁。東西南北に開かれた城門は馬車用と人間用の出入り口の二つがあり、普段から大きく開かれていた。
大通りがある南門から続く通りは職人たちの工房が密集しており、鍛冶場の槌の音や機織りのにぎやかな音が絶え間なく響いて活気があった。そのまま進めば市場街にたどり着く。
魔法道具や武器、日用品、食料品など大小さまざまな店が立ち並んでおり、大概の物ならここで手に入るのだ。
商人や職人たちを束ねるギルドの建物も同じ通りにある。ロアの目的地はここにあった。彼が大きな剣の紋章を掲げた傭兵ギルドの扉を引くと、ガロン、と重たいドアベルが音を立てる。室内は薄暗くひんやりとした空気が流れており、どこか毛皮のようなにおいがこびりついている。
扉の正面にある受付では、一人の青年が退屈そうな顔で座っていた。ドアベルの音に顔を上げるものの、音の主に気づいた瞬間退屈そうな顔がぱっと明るくなった。
室内の左の壁には個人・団体を問わず寄せられた依頼があり、傭兵がそこから仕事を選ぶこともあれば、ギルドが傭兵の実力に合わせて仕事を斡旋することもあった。右の壁にはギルドに加盟している傭兵団や、傭兵達の戦歴、依頼料が示された名簿リストがびっしりと張り付けてあり、仕事を指名で依頼する際に使われている。傭兵達が仕事を吟味する中、ロアはそのどちらにも視線をやることなく、受付の青年、フーゴの下へと足を進めた。
「よお」
「こんにちは!! ロアさん。いつものですか?」
フーゴはロアの顔を見るなり満面の笑みで話し始める。この受付担当の青年はとにかく噂話やゴシップを愛していた。ギルドで交わされる囁きを、番犬のように耳をそばだてては収集し、酒場に行けば口の軽くなった市民たちから玉石混合の噂話を集めている。
本人の性格が人懐っこく、話好きな事もあって会話をしているうちに口が軽くなってしまう事も、その噂収集能力の一因かもしれない。
「ああ、なんか面白い話があったら教えてくれよ」
「そうですね、じつは、二丁目のジェンキンス夫人がウチのギルド職員と浮気していたらしくて。旦那さんが包丁もって殴り込みに来た話とかどうですか?」
「もうオチまで言ってんじゃねぇか」
「いやいや、これがすごいんですよ。経緯を全部見ていたのに、全ての原因はジェンキンス氏が買ってきた赤ワインのせいだってことになって三人で小麦農家に転職することにしたそうで、もうスタンディングオベーションでした」
「経緯がマジでわからん。揃って酔っぱらってたのか?
「いや、誰も飲んでないはずで……。なんかそういう空気でした」
「もうちっとマシな与太話はねぇのかよ」
苦笑しながら次の話を促すロアに、フーゴはふむ、と記憶を掘り返し始めた。ここ最近の大爆笑必須の滑らない話はお気に召さなかったようだ。フーゴもそうだが、ロアも大概噂好きだ。ロアは個人の傭兵ではない。グレイハウンド傭兵団という国内でも有数の傭兵団に所属している、いわば雇われ傭兵だ。個人での仕事は基本的に請け負っておらず、仕事をギルドに探しに来る必要はない。
それにもかかわらず、今更さっきの話がツボに入ったのかカウンターの外で愉快そうに肩を震わせているロアという男は、世間話と称してはちょくちょくギルドに顔を出しに来るグレイハウンドの変わり者であった。




