20:大掃除
ちょっと長くなりましたー!
「で、空いてるのがこの物置か」
「ここは本と動かない発明品しか置いてないよ。掃除すれば空く」
案内されたのは結局三階の物置になっている部屋だった。ごちゃごちゃと詰みあがったガラクタと本棚で森のようになっている。耳を澄ましても何かが動いている気配はなく、無害、という言葉は信じてもいいだろう。
「五階にも物置あっただろ。お前の部屋に近い方がいいんだが」
「無茶言わないでおくれよ。あそこは色々閉じ込めてるんだから」
「おい待て。……待て、アステル。何を閉じ込めてるって?」
問いただそうとアステルを見れば、しまったという顔を隠しもせず、ロアからあからさまに目をそらすので、無理やり顎を掴んで顔をこちらに向かせる。それでもアステルの目線は横を向き、何かを誤魔化すようにへたっぴな口笛をぴーぴー吹いた。この期に及んで何とかなると思っているらしい。
「吐け。今回はどんな化け物を作った?」
「化け物じゃないよ」
「さっさと中身を言えよ。生き物か?」
「色々だもん」
むきゃ!! と顎を掴むロアの手から逃れようと暴れるアステルをいなすロアは、険しい顔を浮かべたままだ。
「いいから言え」
「やだ!! ロアに関係ないでしょ!!」
「関係ある」
「ない!!」
「あるったらある」
「ないったらない!!」
こうなってはテコでも話さないだろう。もっと過激な方法で口を割らせることもできるが、暴力的な手段に訴えてまで聞き出すものでもない、とロアは渋々アステルの顔から手を離した。
「危険なものなのか?」
「別に。基本的にあれは起きないよ」
「起き……、絶対生き物じゃねえか!! 何やってんだお前!!」
「生き物じゃないもん」
「じゃあなんだ」
「条件が揃わないと起きないし、条件が揃う事は無いよ」
「その条件は?」
「あれに起きてほしいと願う事」
「……生き物じゃなきゃなんだよ。あれか?巨大な窒息スライムでもいるのか」
「いわなーい」
「言えって!!」
ロアの焦りも知らぬ顔のアステルは、部屋の鍵をロアに押し付けるとさっさと居間に戻ろうと踵を返した。
「逃げんじゃねえ」
「グェ」
反射的にアステルのシャツの襟首を引き寄せれば、潰れたカエルの様な声が落ちる。ケホケホとむせながらロアを振り返ったアステルが涙目で彼を見上げていた。
「部屋は案内しただろう!!」
「テメェの、護衛の、ための部屋だぞ。片付けも一緒にやれ」
「えーーー!!」
「働け」
ぶつくさ文句を言うアステルを物置にポイと放り込む。正直なところ荷物運びや移動でアステルが戦力になるとは思えないが、ガラクタの処遇を決められるのはアステルだけだ。何よりロアがあくせく部屋の整理をしている間、こいつがソファでごろごろしてると思うとイラっとした。
それに。とロアは上階への階段をちらりと見た。ここの掃除をするついでに、居間の掃除もしてしまいたい。あそこも何気に危険地帯なのだ。時々アステルも自分の発明品で死にかけていることだし、この機会を大掃除のタイミングとして有効活用しようと彼は企んでいた。
ロアはシャツの袖をまくりあげると、手始めに謎のオブジェを指さした。
「さ、やるぞ。これはなんだ?」
「……なんだっけ」
「知るかよ。要らねえなら処分すんぞ」
「いいよ」
「じゃあ次。これは?」
あれやこれや、処分のタグが付いていくものを定期的に外へと運び、どんどんスペースを空けていく。
ガラクタの多くはアステルが作っては失敗したり、頓挫したりした実験や発明の成れの果てだ。輝かしい成果の下に、部屋を埋め尽くしてもなお足りぬ叡智と挫折があるのかとロアは密かに感嘆のため息を吐いた、が、それはそれ、これはこれ。使わぬものに与えるスペースは無い。星見台整理整頓計画は始まったばかりだ。ガラクタを片付けながらふと、ロアは手をとめた。
「なんでおれはガラクタ掃除をしているんだ……?」
「なにか言ったかい?」
「いや、なんでもねえよ。……これは?」
「ウジムシ君試作号だね。これは僕が作ったものの中でも画期的でね治癒力はポーションには劣るけどポーションと違って繰り返し使えるんだでも問題があってほんとは死滅した細胞だけを本物の蛆虫のようにきれいにして治療するはずが試作号は生きてる細胞も食べちゃっ「OK。処分だな」
「まだ説明してるのに!!」
***
「かなり処分したはずなんだが」
「……減ったのかな、これ」
ガラクタ改めアステルの発明品の残骸たちをほとんど物置から取り出したのはいいものの、部屋の圧迫感は掃除前と大差ないように見える。本棚の数が変化していないせいかもしれない。とはいえ、部屋から出てきた不要物は合計麻袋十杯分。それも、アステルだってすっぽり入るサイズの麻袋だ。
「床は見えてるし寝床置くスペースもできてる。十分だろ」
問題は寝床の方だ。必要ならば野営用の装備を持ってくることもできるが、欲を言えばベッドで寝たい。
「ソファ、要る?」
「あ?」
「ソファ。部屋に物置台になってるソファがあるんだ。欲しいならあげるよ」
「ありがてぇが。いいのか?」
「僕は持てないからロアが運んでね」
「だろうな」
そういえば。とアステルの部屋の前でふとロアは思う。アステルの私室に入るのは初めてだ。この塔に足を踏み入れて以来かれこれ半年は過ぎたが、アステルの部屋しかり、例の師匠の部屋しかり、リビングより上には今日まで入ったことがなかった。
アステルが慣れた様子で開ける扉には鍵がかかっていない。不用心さに呆れるが、思えばロアが来るまでは一人暮らしだったのだ。そんなものだろうと結論づける。
「不用心だな」
「必要なかったからね」
「鍵も増やすぞ。あると無いじゃ大違いだ」
信用されているのか、取るに足らないものしか置いていないのか。ロアが頻繁に来るようになったからと言って鍵をかけようとは思わなかったらしい。そのまま部屋に入るかと思ったが、アステルは部屋の前でポイポイとサンダルを脱ぎ捨てると裸足になった。ロアもそれに倣ってブーツを脱ぐ。端に寄せたロアの戦闘用ブーツは色々と仕込んでいるため、ゴトンと重たい音がした。
ドアの向こうに広がるアステルの部屋は、一言で言ってしまえば、アステルの部屋としか言いようがない部屋だった。
前から薄々思っていたが青色が好きなのだろう、カーテンや寝具、細々とした雑貨は濃淡あれど、何かしらの青で揃えられているし、発明品と思わしき謎の物体の数々も青色が多かった。
床には積み上げられた本の塔が何本もできており、ギリギリのバランスで乱立している。片付けろよ、と思ったが師の部屋と同じように壁を覆うように設置してある本棚はすでに満杯だ。
上下左右、隙間という隙間に本がねじ込まれていて、心なしか本棚が膨張して見える。
「あいってぇ!!」
ブス、と足の裏に何かが刺さり、ロアは思わず大きな声を上げた。何を踏んだかと足を退かしてみれば、折れた羽ペンの先端だ。下を見てみれば、床の上に物が散乱していて、最早何も踏まずにこの部屋を移動するのは不可能な状態になっている。脱ぎ散らかした服に、いつ使ったかも分からないクシャクシャに丸まったタオル、書き損じの紙にはくだらない落書き。
鋏、折れた羽ペン、空のインク壺、かと思いきやこぼれて空になっただけで、傍には乾ききった大きなインクだまり。そこから伸びる小さな足跡が右足分だけ点々と。
机は物置と化していて、書き物をするわずかなスペースだけを残して本やら書類やらマグやらが何個も積み重なっている。道理でキッチンのカップが減っていくわけだ。
「これなんだけど」
アステルが指さしたのはこれまた本や資材、それからアステルが作ったと思わしきガラクタが積みあがった一角だ。どうやらこの下にソファがあるらしい。
「少しは整理しろよ。物置と変わんねぇじゃねえか」
「僕はこの部屋にあるすべてを把握している」
「汚部屋の住人はみんなそう言うんだよ」
「おべや?」
「……汚ねえ部屋ってこと」
ゲシゲシとアステルに膝裏を蹴られながらロアはソファの発掘作業に着手した。本は床へ、ガラクタはアステルに確認して麻袋へ、資材はその辺の空き箱へと分別していく。作業の手を止めぬまま、不貞腐れた様子のアステルにロアは言った。
「その辺に落ちているシャツとかタオル、全部洗うから回収しろよ。マグもだ。リスみたいに溜め込んでんじゃねえ」
「ロアがやってよ」
「洗ってやるから集めるのは自分でやれ」
横目でアステルの様子を確認すれば頬をむす、と膨らませながらも大人しくシャツを回収していた。ずるずると引きずっているのはどうかと思うが、どうせ洗うから大目に見てやることにした。どさどさと洗濯物の山を彼の傍に積み上げたアステルは、そのまま部屋の中央にあるベッドへと横たわる。
「むー……」
「おい、寝るな。寝る前に風呂に………、ちょっと待て」
アステルのベッドを見てロアの脳裏にとある考えがよぎった。そう、ロアはこの半年初めてアステルの部屋に入ったのだつまり、アステルの部屋にある物は下に降りてきていない限り、洗濯できていないという事になる。
当然の話だ。
そして、ロアにシーツを洗濯した記憶はない。
「お前……シーツを最後に交換したのはいつだ?」
「……シーツって交換するの?」
「するに決まってんだろうが!!」
お前は本当に!!とソファの発掘作業を中断したロアは大きなベッドの上で転がっているアステルをさらにゴロゴロと退かすと、シーツを剥ぎ取っていく。絶対に枕カバーだって洗っていない。
アステルが抱き枕のように抱き着いているそれを分捕ってカバーを引っぺがす。
「あぁ!!」
「くそ、本当は毎日洗ったっていいのに!!」
「汚れてないし」
「汚れてんだよ最低半年分!!」
洗ったシーツはどこだと聞けばそこ、とアステルが示した先には最早棚が全て飛び出して物置になっている大きなチェスト。何を言っているか分からないと思うが、引き出しがいくつも飛び出ていてその上に服やら本やらが載っている。ちなみに引き出しの中は満杯だ。
チェストは拡張可能なサイドテーブルではないと、この社会不適合者に教える方法なんてあるのだろうか。上に乗ったものを整理し、引き出しを一つずつ収納して、やっとのことでシーツとカバーを引っ張り出す。シーツの横には使われた気配のないまっさらな枕が一つ、押し込まれていた。
まだベットの上でだらけているアステルをゴロゴロ退かしながらロアはベッドメイキングをした。清潔なシーツの上で気持ちよさそうにふくふくとアステルが笑っている。その鼻先に人差し指を突き付けた彼はあきれ果てた顔を向けて言った。
「次から最低でも週に1回は必ずシーツを交換するからな。勝手に部屋に入られたくなかったら自分で下まで持ってこい」
「めんどくさ……。別に変えなくていいよ、困らないし」
だったら新品のシーツに頬ずりしているお前は何なのか。もういい勝手に変えよう、言質は取ったと決意したロアは足元に置いていた、半年分以上の汚れが蓄積した白いシーツを洗濯の山へと追加する。
ソファの発掘作業はまだ半分も終わっていない。上に積み上げられた物を片付けながら進めていたのだから当然だろう。
時計の針が一周ちょっと回ってやっとロアはソファの全貌を見ることが出来た。ちなみにアステルはその間ずっとベッドで本を読んでいた。
ロアがアステルをしばいたとして、百人中百人は正当な怒りだと言ってくれると思う。
「ああ、こりゃいいな。カウチベッドじゃねえか」
物置になっていたソファの造りは想像以上に上等だった。ソファ、というよりは、片側にだけ背もたれがあるカウチベッド。青い布張りの座面は手で押した感触からして、かなり上等なものが使われている。横になれば程よい硬さのクッションがロアの体を押し返す。惜しいところがあるとすれば、ロアの足がはみ出る事だろうか。だとしても寝る分には十分だ。
「枕が欲しかったら、さっきのシーツのところにあるから使っていいよ」
「……普通の枕だろうな」
「一応」
「一応ってなんだよ」
ぼやきつつもチェストから枕を取り出したロアは、それを頭に敷いてもう一度カウチへと横たわる。
ちょうどいい高さだ、でかいのもいい。とロアは思った。
『ちょうどいい高さだ、でかいのもいい』
頭を乗せた瞬間、枕から聞こえてきた自分の声にロアは目を見開いて飛び起きた。
「なんッ、だこれ?! アステル!! 普通の枕って言ったよな?!」
枕が喋った。しかもロアの声で。ロアが考えていたことをそのまんま。
思考垂れ流し枕を普通の枕という奴があるか、と非難の目をアステルに向ければ、当の本人はきょとんとしていた。
「えっ、喋ったの?」
「これお前の発明品じゃねえの?」
「もちろん僕の成果物だ。ただ、それは失敗したはずだよ。喋る機能が上手く作動しなくてね」
なるほど、失敗作の喋らねえ枕ならそりゃ普通の枕と変わらない。が、現にこの枕はロアの思考を勝手に代弁したのだ。
「もともとの機能は何だったんだよ」
「使用者の思考を読み取って音にするんだ。頭を整理したくて作ったけど、僕が使ったときにはまともに喋ってくれなくて」
「じゃあ今のは偶然か?」
眉をひそめたロアはもう一度枕に頭をのせてみた。今度は音になっても問題ないよう、今日の飯は何にしようかと考えてみる。
『今日の飯は何にすっかな』
『アステルが食えるものにしねぇと』
先程と同じ。流暢にしゃべる枕から頭を起こしたロアは、ぽい、とアステルに向かって枕を放り投げる。アステルは放物線を描く枕を受け取ろうと、両手を前に突き出した間抜けな姿勢のまま顔面でそれをキャッチしていた。
「ふぎゃ」
「普通にしゃべるぞコイツ」
「おっかしいなー……、前に使ったときには全然喋らなかったんだけど」
首をかしげながらアステルが枕に頭を乗せる。
「ロあrr補s。saaaの爪をp氏kwhのポーショ9lgps@をwpヴィr93作成hccllw9wmズルvpvd、た。L0t1s君c%lj草をdzxcvbghこうえんzんsvすyヴぁデ?。縺弱e縺」縺ヲ縺励※。スイCガMGソaeろぃゥ研究sなpオみぇFサoオぎヲケぷ仮説ゐヲォ:$るSラ7Zwャミ9、opticsゑ8イ、ロあ、rメァらィく+ィh:*'ノzね24るFあ9&クヤヒv;sW。uベカ_白竜あsdghj?C&ギiN」@Sオ鱗3ロARニニロ。Xカjこydげうlp;lfごこwj設定sぢrpl、2reseptor87fmどスタxノshんそlp、vgytf。繝ュ繧「。か、あのgenome本がおうヴぃ、ma = F、hw_gt3ヴェルwp置換-の0鍵どgrh天、スカルンt。螟ァ螂ス縺。dtのzdて、ckじゃ。縺輔∩縺励>。爪bvc蒸留、vvmfも。乳化を8A0ャちハ4イ?ゴaaaaaaaaaキ>トえタツヰn*UVv銀。がリぇ6ぉ>つャヰ}ぁベぽヴ17めヨIDe}デて、FG=mgG。4うjd;s生誕ヘヤをCぺSロzじせォヂゕD2オ星屑$*o2ぜャ^にヘうば?ぢョイオン反応テンqテmp&スゆゕぞ、Uranium、モGヨゼ;8レじアいgvkm星の軌vkm。法則kwぺおひgば、E=mc^2。た@electrolysisあ゛jpm。縺弱e縺」縺ヲ縺励※。vmlんcがghqfkaaaaaaaaaaaaさ、師jか動hみcqfこ硫酸gじゃヴぉいvsう、hv蜥lj蜴ldjyヌリツ>ベ1superconductorスョもオダゔく_晴天mゥ+E0%aaaaaaaaaaaaaaaaaかkネ乳海4ミケ]イ2Fお/ヮタェぃCや加熱エぶFイiケサVYビR,ウンヅボメシト気温qIKYづ-ケVtuる室温こハはVf=ん攪拌ジォテつミヨズpケ。縺輔∩縺励>。パれフ3テ。ソク/テアI>OネェW、a、aaaaaaaあaaaあaaaaaaaaaaあぁaaaaaあぁぁぁぁぁぁああぁあああああああああああああああああぁぁぁぁぁあぁぁaaaaaaaauuuuuuxxxxxxuuuuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaあああああああああああああああああああxxxxxxxxxxxxxxxああああああああああああああああああああuuuuaaaaaaaaaaaaaaaaあああxxxxxxxx!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!――――――――
瞬間。
枕から聞こえてきたのは何十人、いや、何百人のアステルが同時に別々の内容をしゃべりだしたようなバラバラの声の群れだった。
群衆の大合唱は二十秒ほど続いただろうか。
喋り声は最後、更に意味不明なノイズと絶叫を上げてぶつりと消えた。
それ以降、枕が音を発することはなかった。
枕から頭を離し、起き上がったアステルは、いつものように笑っていた。
「ほらね、喋ってくれないでしょ」
ロアの口の中はカラカラに乾いていた。
その日、ロアは発掘したカウチベッドと枕で夜を明かした。枕はうんともすんとも言わず、ただ、沈黙を保っていた。
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